【帝王霊~百壱~】
文字数 587文字
ハッと息を飲んだ。
男だったーー闇から出てきたのは男だった。痩せこけた頬に濁った目、ボサボサだがそこまで伸びきっていない髪、服装は黒のスラックスにシャツ、体格は細身で見るからに体力はなさそうだった。
右手にはナイフが握られていた?
まるで狂犬のように口許から荒い息が漏れ出していた。ぼくはいくつかのイヤな感じを抱いていた。確かにこんな男と向かい合えば、それだけでもイヤな感じがあるのはいうまでもないけど、それ以上にぼくには感じるモノがあった。それはーー
あの時と同じだったのだ。
あの時ーーいうまでもなく五村の街でヤエちゃんと共に襲われた時だ。犯人はあの時の犯人も同じだった。まるで、自分の意思をすべて奪われた人形のようで、もはや自分がどうなろうと構わないといったような捨て身の感じ。痛みに鈍感になっている様子。
間違いなく石は当たったはず。何かしらの反応があっても可笑しくないと思う。だけど、男はそんなモノは微塵と見せて来なかった。多分、痛いという感覚が死んでいるのだ。まるで、人形のように。
ぼくは逃げるワケにはいかなかったーー逃げるつもりもなかった。この前は何としてもヤエちゃんを守ろうとしたが、その前に逃げられてしまった。今は、おそらくこの男はハルナを人質にしているだろう。だとしたら、今度は、絶対にーー
ぼくは大きく息を吐いた。
男が飛び掛かって来た。
【続く】
男だったーー闇から出てきたのは男だった。痩せこけた頬に濁った目、ボサボサだがそこまで伸びきっていない髪、服装は黒のスラックスにシャツ、体格は細身で見るからに体力はなさそうだった。
右手にはナイフが握られていた?
まるで狂犬のように口許から荒い息が漏れ出していた。ぼくはいくつかのイヤな感じを抱いていた。確かにこんな男と向かい合えば、それだけでもイヤな感じがあるのはいうまでもないけど、それ以上にぼくには感じるモノがあった。それはーー
あの時と同じだったのだ。
あの時ーーいうまでもなく五村の街でヤエちゃんと共に襲われた時だ。犯人はあの時の犯人も同じだった。まるで、自分の意思をすべて奪われた人形のようで、もはや自分がどうなろうと構わないといったような捨て身の感じ。痛みに鈍感になっている様子。
間違いなく石は当たったはず。何かしらの反応があっても可笑しくないと思う。だけど、男はそんなモノは微塵と見せて来なかった。多分、痛いという感覚が死んでいるのだ。まるで、人形のように。
ぼくは逃げるワケにはいかなかったーー逃げるつもりもなかった。この前は何としてもヤエちゃんを守ろうとしたが、その前に逃げられてしまった。今は、おそらくこの男はハルナを人質にしているだろう。だとしたら、今度は、絶対にーー
ぼくは大きく息を吐いた。
男が飛び掛かって来た。
【続く】