【カラスとハロルド】
文字数 2,186文字
緊張が好きな人は稀有だと思う。
もはや、何度目なのかわからないような導入だけど、何度でも繰り返したくなるほどに緊張が好きな人など少数だとおれは思っている。
そりゃお前の勝手な偏見でしかないだろって感じはするのだけど、やはり緊張なんかしたところで利点になることなどそんなにないと思ってしまうのである。
まぁ、これも何度繰り返したことかわからないのだけど、緊張することによって散漫だった注意力も引き締まり、集中力も高まるとはいうが、そんなのは所詮は成功してきた人間の話でしかなく、敗北者はいつだってこの緊張の元にひれ伏し、這いつくばって来たのだ。
まぁ、かくいうおれのことをいう必要など今さらないと思うので割愛するけれど、やはり緊張というのは大嫌いだ。
そもそも、その度合いをコントロールできないし、心臓の鼓動がでかくなり過ぎて、体がブレるのが、何よりもクソ過ぎる。心臓の鼓動で体がブレたらもともこもないだろうに。
だが、そんな緊張にひれ伏すことなく、何とか困難を乗り越えた経験が、このおれにもあるワケだ。まぁ、そのいくつかは既に何度か話しては来たと思うけど、今日はそんな話の中でもかなり小さな話をして行こうと思う。
さて、前回、前々回と続いた総合学習の話も今回で終わりを迎えることとなる。そんなワケで、前回のあらすじーー
「中学三年の五条氏は、同級生の榎本、麦藁と共に総合学習の発表のグループを組み、その発表形式を劇に決めた。発表に使うデータの収集と劇の台本を三人で協力して構成し、そして発表本番を迎えたのだったーー」
何かこの記事、以前も書いた気がしてならなくなってきたのだけど、気のせいということで書いていくわ。じゃ、やってくーー
発表会から一週間後、おれは体育館にいた。周りには同学年の生徒たちがさも退屈そうにしながら体育座りをしたり、胡座を掻いていた。
生徒たちはあくびをしたり、身体を掻いたりと集中力に欠けていた。だが、おれにはそんな弛緩した空気は微塵もなく、脳はじとっとした粘っこい汗を掻き、目はギンギンに見開かれていた。それもそのはず、この日はーー
総合学習の学年発表の日だったからだ。
つまり、各クラスで行った発表会から選ばれた優秀者たちによる発表会というワケだ。
そう、おれと榎本、麦藁の三人のグループがクラスの優秀発表者に選ばれてしまったのだ。
困ったもんだった。嬉しさがなかったかといえばウソになるが、とはいえ、学年の生徒全体の前で何かを発表するという機会に乏しかったおれとしては、こんな大したことのない規模でも緊張はマックスハートといった感じだった。
そりゃ、この時は既に体育祭の応援団長も経験済みで、全校生徒の前で不細工な女装をし、アホみたいな応援合戦をするという末代まで残りそうな恥を晒した五条氏ではあったが、だからといって人前に出ることが得意になったワケではなかったーーというか、むしろ苦手になっていた。
心臓がバクバクと鼓動を打つ。吐き気が止まらない。体がブレ、視界がブレた。カスみたいなマインドに自分でもウンザリする。
刻一刻と迫ってくる自分の出番の時間。時計の針、その秒針がチクチクと進んでは戻りを何度となく繰り返す。おれは死刑を待つ囚人。ダンスマカブルに狂う異常者。
そして、時は来てしまった。
おれたちの本番の時間がやって来たのだ。
榎本、麦藁と共にステージに上がり、オーディエンスに向かって挨拶をする。疎らな拍手は、緊張するおれを歓迎していないことを物語っていた。というか、どの発表も歓迎はされていなかったけれど。
だが、そんなことに構っている暇はない。おれは麦藁と共にステージ袖へと入った。最初に卓の前についた榎本が導入として語りを入れていく。それからおれの出番。
おれは袖の中で荒ぶる心臓の鼓動を抑えようとした。だが、無駄だった。そんなことをしている内に出番はやって来てしまった。
おれは舞台に出てセリフをいった。ミスはひとつもない。我ながらよくセリフを覚えたものだ。芝居なんてろくにやったこともないのに。
そうこうしている内に巨大なカラスに扮した麦藁が登場。ここでちょっとしたアクションシーン。といっても、そこまでハードなことはやらない。そもそも殺陣もやったことないし、格闘技、武道の経験もないんだからインチキも良いところ。でも、完全な門外漢にしては良くやったほうなんじゃないかと思う。
それからおれと榎本の掛け合い。ここもセリフは完璧。間違いはひとつもなかった。それから再びカラスに扮した麦藁とのやり取り。再びちょっとしたアクションとちょっとしたドラマがあって、劇は終演した。
「これで発表を終わります」三人で宣言する。
間を置くことなく、拍手が飛んできた。その拍手は始まりの時に聴こえたおざなりで弛緩したものとは異なっていた。
おれは思わず、口許を緩めたーー
とまぁ、こんな感じだな。三週にも渡って書いた総合学習の発表の話ではあったけど、何だかんだ印象的なんだろうなと書いてみて改めて思ったワケだ。まぁ、芝居の質がどうだったかは知らないけど、やってて楽しかったしな。
変な話、このカラスとの対決話が、自分の芝居の原点なのかもしれないと思うと何だか変な感じではあるーーどうでもいいか。
でも、やっぱ緊張は嫌いだわ。
アスタラ。
もはや、何度目なのかわからないような導入だけど、何度でも繰り返したくなるほどに緊張が好きな人など少数だとおれは思っている。
そりゃお前の勝手な偏見でしかないだろって感じはするのだけど、やはり緊張なんかしたところで利点になることなどそんなにないと思ってしまうのである。
まぁ、これも何度繰り返したことかわからないのだけど、緊張することによって散漫だった注意力も引き締まり、集中力も高まるとはいうが、そんなのは所詮は成功してきた人間の話でしかなく、敗北者はいつだってこの緊張の元にひれ伏し、這いつくばって来たのだ。
まぁ、かくいうおれのことをいう必要など今さらないと思うので割愛するけれど、やはり緊張というのは大嫌いだ。
そもそも、その度合いをコントロールできないし、心臓の鼓動がでかくなり過ぎて、体がブレるのが、何よりもクソ過ぎる。心臓の鼓動で体がブレたらもともこもないだろうに。
だが、そんな緊張にひれ伏すことなく、何とか困難を乗り越えた経験が、このおれにもあるワケだ。まぁ、そのいくつかは既に何度か話しては来たと思うけど、今日はそんな話の中でもかなり小さな話をして行こうと思う。
さて、前回、前々回と続いた総合学習の話も今回で終わりを迎えることとなる。そんなワケで、前回のあらすじーー
「中学三年の五条氏は、同級生の榎本、麦藁と共に総合学習の発表のグループを組み、その発表形式を劇に決めた。発表に使うデータの収集と劇の台本を三人で協力して構成し、そして発表本番を迎えたのだったーー」
何かこの記事、以前も書いた気がしてならなくなってきたのだけど、気のせいということで書いていくわ。じゃ、やってくーー
発表会から一週間後、おれは体育館にいた。周りには同学年の生徒たちがさも退屈そうにしながら体育座りをしたり、胡座を掻いていた。
生徒たちはあくびをしたり、身体を掻いたりと集中力に欠けていた。だが、おれにはそんな弛緩した空気は微塵もなく、脳はじとっとした粘っこい汗を掻き、目はギンギンに見開かれていた。それもそのはず、この日はーー
総合学習の学年発表の日だったからだ。
つまり、各クラスで行った発表会から選ばれた優秀者たちによる発表会というワケだ。
そう、おれと榎本、麦藁の三人のグループがクラスの優秀発表者に選ばれてしまったのだ。
困ったもんだった。嬉しさがなかったかといえばウソになるが、とはいえ、学年の生徒全体の前で何かを発表するという機会に乏しかったおれとしては、こんな大したことのない規模でも緊張はマックスハートといった感じだった。
そりゃ、この時は既に体育祭の応援団長も経験済みで、全校生徒の前で不細工な女装をし、アホみたいな応援合戦をするという末代まで残りそうな恥を晒した五条氏ではあったが、だからといって人前に出ることが得意になったワケではなかったーーというか、むしろ苦手になっていた。
心臓がバクバクと鼓動を打つ。吐き気が止まらない。体がブレ、視界がブレた。カスみたいなマインドに自分でもウンザリする。
刻一刻と迫ってくる自分の出番の時間。時計の針、その秒針がチクチクと進んでは戻りを何度となく繰り返す。おれは死刑を待つ囚人。ダンスマカブルに狂う異常者。
そして、時は来てしまった。
おれたちの本番の時間がやって来たのだ。
榎本、麦藁と共にステージに上がり、オーディエンスに向かって挨拶をする。疎らな拍手は、緊張するおれを歓迎していないことを物語っていた。というか、どの発表も歓迎はされていなかったけれど。
だが、そんなことに構っている暇はない。おれは麦藁と共にステージ袖へと入った。最初に卓の前についた榎本が導入として語りを入れていく。それからおれの出番。
おれは袖の中で荒ぶる心臓の鼓動を抑えようとした。だが、無駄だった。そんなことをしている内に出番はやって来てしまった。
おれは舞台に出てセリフをいった。ミスはひとつもない。我ながらよくセリフを覚えたものだ。芝居なんてろくにやったこともないのに。
そうこうしている内に巨大なカラスに扮した麦藁が登場。ここでちょっとしたアクションシーン。といっても、そこまでハードなことはやらない。そもそも殺陣もやったことないし、格闘技、武道の経験もないんだからインチキも良いところ。でも、完全な門外漢にしては良くやったほうなんじゃないかと思う。
それからおれと榎本の掛け合い。ここもセリフは完璧。間違いはひとつもなかった。それから再びカラスに扮した麦藁とのやり取り。再びちょっとしたアクションとちょっとしたドラマがあって、劇は終演した。
「これで発表を終わります」三人で宣言する。
間を置くことなく、拍手が飛んできた。その拍手は始まりの時に聴こえたおざなりで弛緩したものとは異なっていた。
おれは思わず、口許を緩めたーー
とまぁ、こんな感じだな。三週にも渡って書いた総合学習の発表の話ではあったけど、何だかんだ印象的なんだろうなと書いてみて改めて思ったワケだ。まぁ、芝居の質がどうだったかは知らないけど、やってて楽しかったしな。
変な話、このカラスとの対決話が、自分の芝居の原点なのかもしれないと思うと何だか変な感じではあるーーどうでもいいか。
でも、やっぱ緊張は嫌いだわ。
アスタラ。