【冷たい墓石で鬼は泣く~死拾弐~】

文字数 1,162文字

 それからのわたしは亡霊のように色々な場所を彷徨った。

 もはや生きているのか死んでいるのかもわからないような状態だった。死んでもいいと思ってはいたが、それも所詮は強がり。わたしに死ぬ勇気など依然としてなかった。

 だから彷徨い続けるしかなかった。

 時には無宿人として捕らわれ百叩きにされ、時には適当なその日払いで銭が入る職をし、時には親の名を使ってあの頃のように剣術道場にて師範代として凌いだ。

 わたしにはもはや誇りなどこれっぽちもなかった。だが、どんな状況であれ、わたしは暇を見つけては剣の稽古を進んでやった。

 馬乃助にあってわたしにないモノーーそれは技術はもちろんだが、何よりも足りなかったのはどっしりと構える姿勢と自信だった。

 わたしが大したことなかったのは重心の移動がしっかり出来ておらず、そのせいで移動にも手間取り、一撃の強さも速さもそれに伴って激減してしまうことにあった。

 わたしは人通りの少ない林や藪の中で剣を振るい続けた。試し斬りは殆どしていない。刃溢れはもちろん、刀身の何処かしらにキズがついてしまえば、その手入れに掛かる銭はバカにならない。わたしにはなるべく銭を使わずして、自分の型を安定させ、かつ自分はこれだけ刀を振るっているのだという自信をつけなければならなかった。

 とはいえ、ひとりでやる稽古にも限界はある。というのは、対人による稽古が圧倒的に不足するということだ。ひとりでやる稽古は自己満足に陥りやすく、根拠のない自信ばかりが膨れ上がり傲り昂ってしまいがちだ。それにどんなに根拠のない自信を持っているにしろ、いざ敵と相対した時に、平常心でいられるかといわれれば、それはない。ほぼ確実に腰が引け、気持ちもうしろ向きになる。

 だからこそ、対人の稽古もする必要があった。そこでわたしは、無宿人の時は街の道場に赴いて自ら稽古をつけて貰いに行き、師範代に収まっていた時は時間外に進んで他の師範代と稽古してもらっていた。

 思考に思考を重ね、反省と再挑戦を重ねた結果、わたしはいつしかそれなりの強さを手に入れることが出来ていた。恐らく、この状態でも馬乃助には敵わないだろう。だが、手も足も出ないということはまったくないと断言出来る程度にはなっていた。

 それに、そこら辺の適当な武士相手ならばまず負けはないくらいにはなっていた。そして、もうひとつ、面白い特技が身についていた。それが手裏剣だった。

 刀を振る体力が失われつつある時は手裏剣をひたすら木に向かって投げていたのだが、そんなことを続けた結果、わたしは狙った場所であれば、ほぼ確実に手裏剣を当てることが出来ていた。

 少しずつではあるが、わたしのこころには自信が沸いて来ていた。稽古に稽古を重ね、月日は経って行った。

 そしてわたしは、三十代になった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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