【魍魎は三角を描いて】

文字数 2,705文字

 夜のストリートは心底不気味だ。

 このご時世ともなると、夜に外出することも少なくなり、そういうモノとは縁も薄くなりがちだけど、にしても夜の街はいいようのない気味の悪さをオーラのように纏っている。

 確かに繁華街や何かになれば眠ることはないだろう。きらびやかなネオンに耳に痛い喧騒が蠢くアーケードは、一見すると派手で闇とは無縁なようにも見える。

 しかし、考えてみて欲しい。暗闇の中に薄っすらと火が灯れば、そこには蛾のような薄汚れた虫けらが集う。が、その虫けらが辿る運命といえば、自ら炎に焼かれて地獄へ堕ちるか、虫けらの匂いを嗅ぎ付けた捕食者の胃の中で溶解されるかしかないのだ。

 過去、この駄文集では芯から下らない話を何度となく話して来たが、その中でもいくつか気味の悪い話も混じっている。

 それはまるで電灯の光が当たらないトイレの隅のタイルの隙間でジワジワと繁殖するカビのような話ばかりだ。が、いつだって悪というのはそうなのだ。日陰に潜み、人の目にはいき届かずにその勢力を伸ばしては、他人の生き血をすすり続けて私腹を肥やしている。

 日本は法治国家だから安全ーー確かにアフガンのような紛争地域やスラムのような貧民街と比べたら、流れ弾に撃ち抜かれて身体に風穴が空いたり、突然背中を粗悪な安物のナイフで刺されたりすることは殆どないだろうしずっと安全ではあるだろう。

 ただ、闇は深い。どこに何があるかなど目を見開いていてもそのすべてを水晶体の画角に収めることは難しいし、見落とすことが殆どだ。

 今日話していくのはそんな闇の深さを感じさせる気味の悪いモノを見たという話だ。先に断っておくが、そこまで長い話にはならない。

 というのも、おれもそれがどういう理由でそうなったのかもわからなければ、後に何か続報があったワケでもなく、真実を知る機会もなかったからだ。

 これが単なる頭の可笑しなヤツのお遊びであって、おれの気にしすぎであれば何よりだーー頭の可笑しなヤツのお遊びも中々にヤバイか。

 それはさておき、あれは大学三年の時だった。

 これまで大学時代の話は何度かしてきた。その中でもおれが在学当時住んでいたふたつの都市のどちらも治安がよろしくなかったというのはこれまでの話の中で何となくわかってもらえるかと思うのだけど、今回の事案は県内のことではあるが、そのふたつのどちらの街の話ではない。じゃ、書いてくーー

 その日、おれはちょうど映画館で封切りされたばかりの新作映画を観に行くために、大学時代に住んでいたふたつの街のちょうど真ん中辺りにある街へと出向いていたのだ。

 いやいや、とはいえ一年生の時に住んでいた街は県庁所在地で駅前に映画館があるのだから見知った街をいったほうがいいだろうとも思われるだろうけどーー

 その映画館に、目当ての映画が掛かっていなかったのだ。

 どうせ、お前のことだからまたマイナーで単館上映しかしてないようなアート系、暴力系の映画を観に行ったんだろうといわれるかと思うのだ。確かに、暴力映画というのは正しい。だが、その映画はーー

 メジャーもメジャーな映画だった。

 何ならテレビでも散々宣伝されており、普通に全国区で掛かるような映画だったワケだ。うーん、県庁所在地……。それはさておきーー

 歩いて映画館まで向かったのだけど、初めての地ということもあって、おれはかなり迷った。今考えると何で地図アプリを使わなかったのか疑問なのだけど、まぁ、単純に頭が悪かったのだろうね。え、今も悪い?ーー今以上に悪かったってことだよ。

 まぁ、そんなこんなで昼間の会を観ようと思っていたにも関わらず、迷いに迷った結果、映画館に着いたのは夕方で、映画を観終わった頃には夜になっていたワケだ。

 映画館を出て駅まで歩く。今度は間違いのないようにちゃんと地図アプリを利用して、だ。

 現在地を確認しながら駅まで歩く道中、映画の内容を振り返りながらモノ思いに耽りながら歩いていた。するとーー

 目の前の車道から車ではない何かが走って来たのだ。

 スピードからすると自転車ですらない。自転車を押して歩いているにしては気持ち速いし、そもそも車道のど真ん中を進んでいる時点でどうも可笑しかった。

 頭の中から映画の内容が追いやられ、おれの脳は目の前の情報に釘付けとなった。

 よく見るとそれは単体ではなかった。

 ワントップの三角フォーメーション。おれは目を凝らした。そして次の瞬間、目を疑った。というのもーー

 先頭のヤツが白のブリーフ一丁だったのだ。

 思わず、あ?と声を上げてしまったよな。しかもそれだけでなく、白ブリーフは、

「あえー! あえあへぇ!」

 みたいな奇声を上げながら両手をブラつかせ、満面の笑みを浮かべているではないか。

 おれは凍り付いた。完全な変質者。五条氏も存在が変質者みたいなモンとはいえ、コイツは本物だった。

 息を飲んだ。全神経を白ブリーフに集中させる。突然襲い掛かってきた時に迎撃できるように、だ。まぁ、この時は居合も沖縄空手も、殺陣もやっていなかったから迎撃なんて出来なかっただろうけどな。それはさておきーー

 白ブリーフの異常者に、おれの脳は冷や汗を掻いていた。が、両目の水晶体はその端にまた別のモノを映し出したのだ。おれは気を緩めずに、その「別のモノ」を見た。そしたらーー

 完全に目がイッた二人のチンピラがふたり並んで白ブリーフのうしろを歩いていたのだ。

 しかも、木刀のような鈍器を肩に担いで。

 更に、そのふたりのチンピラは白ブリーフに向かって、

「早く歩けよコラァ!」

 とかいってるではないの。おれは完全に目を逸らした。白ブリーフは襲って来ない。それにチンピラふたりに因縁をつけられたら面倒だと判断したのだ。

 五条氏といえば、チンピラにはモテるほうで結構な確率で因縁をつけられる。下手したらこの見るからに覚醒剤とお友達そうなチンピラふたりにも因縁をつけられかねない。

 だとしたら、視線を逸らすのが最善なのはいうまでもなかった。

 奇声と怒号をすり抜けて三人とすれ違うも、駅につくまでは背後から意識を切ることができなかった。もしかしたら、チンピラの片割れがうしろにいるかもしれないーー恐れは引っ込むことを知らなかった。

 結局、何のトラブルもなく駅に着き、難なく帰宅することが出来たけれど、アレは一体何だったのだろうと今でも記憶にこびりついて離れないでいる。

 特にこれといったニュースもなかったし、あの白ブリーフは一体どうなってしまったのか。もしかしてーーいや、考えるのは止めよう。

 夜道には是非ともお気をつけを。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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