【一年三組の皇帝~弐拾睦~】
文字数 1,081文字
出来ることなら見られたくない瞬間というモノがある。
それはある一方だけの場合もあれば、相対する両方にとってという場合もある。こういうのを『板挟み』とかいうのを聞いたことがあるけれど、この状態がまさにそうだった。
長野いずみはそんなことは知るよしもないといわんばかりにあくびをしながら待っていた。緊張する教室内に一瞬の弛みが見えた。辻はまるで野次馬のようにワケもわからないといった様子で。関口はまた新たな刺客、獲物がやって来たといわんばかりに不敵な笑みを浮かべる蛇のようにいずみのことを見ていた。
完全な部外者。ケンカに水を差す存在としてクラスの中ではいずみの存在を面白く思っていないヤツもいたようだった。また或いは好奇心でいずみを見、ぼくを見るヤツもいた。中には冷やかしのことばを投げつけてくるヤツもいた。
そんな中で不安そうにぼくのことを見ていたのが、春奈と片山さんだった。ふたりはぼくが関口と辻のいい合いに巻き込まれた時とはまた異なった様子で不安そうにしていた。
「行ってらっしゃい」
教室内で突然そんな声が聴こえた。和田だった。和田はスマホゲーに夢中になりながらも、ぼくに教室から出ていくよう諭していた。このガチガチの硬直状態の中、そのひとことはぼくの背中を押した。
「あ、あぁ......」
そういってぼくは立ち上がろうとした。その時、ふと和田と目が合った。和田はぼくのほうを見てフッと笑って見せた。一見すると不敵な笑みにも見えなくはないが、あれはアイツなりの精一杯の笑顔であり優しさだったことはぼくにもわかった。
教室内の注目が集まる中、ぼくはゆっくりといずみのいる出入口へと歩いて行った。不愉快な声がいくつか聴こえたが完全に無視した。いずみは大きな目を眠そうに半開きにしてぼくのほうを見ていた。
「遅ぇよ」いずみはイライラしていった。
「いやぁ、悪い悪い」
が、そういうぼくの返事など聴いていないといわんばかりに、いずみは教室の中へと目をやっていた。
「何ニヤニヤしながら見てんだよ。きしょいな。大人しく朝読書でもしてな」
いずみのひとことでクラス内は変な雰囲気になった。一部はまた更にぼくらを煽ろうとし、一部はいずみのことを感じが悪いと不愉快な様子を見せたーー不愉快なのはこっちだよ、といいたくなった。
「お前のクラスのヤツラ、マジでうぜえな。......まぁ、いいや。ここじゃ話になんねぇし、ちょっと付き合えよ」
その提案には賛成ではあったものの、同時に不穏な動きがあるのも見えていた。一体、どうなることやら。
ぼくは静かにため息をつき、頷いた。
【続く】
それはある一方だけの場合もあれば、相対する両方にとってという場合もある。こういうのを『板挟み』とかいうのを聞いたことがあるけれど、この状態がまさにそうだった。
長野いずみはそんなことは知るよしもないといわんばかりにあくびをしながら待っていた。緊張する教室内に一瞬の弛みが見えた。辻はまるで野次馬のようにワケもわからないといった様子で。関口はまた新たな刺客、獲物がやって来たといわんばかりに不敵な笑みを浮かべる蛇のようにいずみのことを見ていた。
完全な部外者。ケンカに水を差す存在としてクラスの中ではいずみの存在を面白く思っていないヤツもいたようだった。また或いは好奇心でいずみを見、ぼくを見るヤツもいた。中には冷やかしのことばを投げつけてくるヤツもいた。
そんな中で不安そうにぼくのことを見ていたのが、春奈と片山さんだった。ふたりはぼくが関口と辻のいい合いに巻き込まれた時とはまた異なった様子で不安そうにしていた。
「行ってらっしゃい」
教室内で突然そんな声が聴こえた。和田だった。和田はスマホゲーに夢中になりながらも、ぼくに教室から出ていくよう諭していた。このガチガチの硬直状態の中、そのひとことはぼくの背中を押した。
「あ、あぁ......」
そういってぼくは立ち上がろうとした。その時、ふと和田と目が合った。和田はぼくのほうを見てフッと笑って見せた。一見すると不敵な笑みにも見えなくはないが、あれはアイツなりの精一杯の笑顔であり優しさだったことはぼくにもわかった。
教室内の注目が集まる中、ぼくはゆっくりといずみのいる出入口へと歩いて行った。不愉快な声がいくつか聴こえたが完全に無視した。いずみは大きな目を眠そうに半開きにしてぼくのほうを見ていた。
「遅ぇよ」いずみはイライラしていった。
「いやぁ、悪い悪い」
が、そういうぼくの返事など聴いていないといわんばかりに、いずみは教室の中へと目をやっていた。
「何ニヤニヤしながら見てんだよ。きしょいな。大人しく朝読書でもしてな」
いずみのひとことでクラス内は変な雰囲気になった。一部はまた更にぼくらを煽ろうとし、一部はいずみのことを感じが悪いと不愉快な様子を見せたーー不愉快なのはこっちだよ、といいたくなった。
「お前のクラスのヤツラ、マジでうぜえな。......まぁ、いいや。ここじゃ話になんねぇし、ちょっと付き合えよ」
その提案には賛成ではあったものの、同時に不穏な動きがあるのも見えていた。一体、どうなることやら。
ぼくは静かにため息をつき、頷いた。
【続く】