【一年三組の皇帝~参拾壱~】
文字数 1,128文字
集中力とは安定した精神の上に成り立つモノだとつくづく思う。
動揺すれば、その時点で意識は散漫となり、何かに集中することなど出来なくなってしまう。集中しようと思えば思うほど、自分の中で「集中していない」という事実が意識に刷り込まれ、逆に動揺を大きくしてしまう。
だからこそ精神の頑強な人のことが羨ましくて仕方がない。プロの世界で活躍するスポーツやエンターテイナー、そういった人たちの持つ精神力というのは凡人の持つ精神力を遥かに上まり、凌駕するのだろう。
きっと彼らには動揺や緊張なんてどうでもいいようなモノなのだろう。ぼくは今、演劇部に入っているが、舞台の上でセリフを忘れたら、まともに動ける自信はない。きっと動揺して何も出来なくなってしまうだろう。だが、プロと呼ばれる人たちはその場その場にキッチリと対応し、何事もなかったかのように振る舞えるのだろう。
別にプロになりたいとかそういう願望はない。だが、精神的に強くはなりたい。ぼくは緊張や動揺に弱すぎる。そして、それによって集中力も散漫になってしまう。
今日も学校では宙ぶらりん。クラスでは関口と辻の間に立ってどうするべきか揺れていたし、演劇部の練習に行けば、集中力が欠如していると岩浪先輩に怒られた。昨日の一件からか、いずみはぼくのことを何処か心配しているようだったが、それ以上は特に何も訊いては来なかった。
ぼくは一日を中途半端に終えた。その間も時間は動き続けている。ぼくは完全に時間を無駄にしていた。この何も出来ずに時間を無駄にし続けているという不能感がぼくのこころをより強く罵倒した。お前には何も出来ないのか。決断することも出来ないのか。でも、だとしたらどうすればいい。
わからない。
ぼくは一生保留し続けるかもしれない。まだ中学に入学して数ヶ月しか経っていないけど、ぼくは既にスタンスの取り方で迷い続けている。多分だけど、人間の主義なんてモノは基本的に子供の時から変わることはないと思う。大人になったからといって180度意識や考え方が変化することなんてあるはずがないのだーー何か、キッカケがない限りは。
つまり、自分から動かなければ、ぼくの人生やぼくのパーソナリティは何ひとつ変わらず、不動のままということだ。
お陰で帰り道は気も足取りも重かった。自然と視線は下を向き、人の溢れる夕方の川澄通り商店街を亡霊のように歩き続けた。
と、突然、何かにぶつかった。
「すみません」
無意識の内にそう声が出た。と、ぶつかった相手はーー
「いやいや、こちらこそごめんよ」
といった。その相手は顔は怖いが同時にイケメンで、ガタイが良く、長い髪をカチューシャで撫で付けた男の人だった。
ぼくはハッとした。
【続く】
動揺すれば、その時点で意識は散漫となり、何かに集中することなど出来なくなってしまう。集中しようと思えば思うほど、自分の中で「集中していない」という事実が意識に刷り込まれ、逆に動揺を大きくしてしまう。
だからこそ精神の頑強な人のことが羨ましくて仕方がない。プロの世界で活躍するスポーツやエンターテイナー、そういった人たちの持つ精神力というのは凡人の持つ精神力を遥かに上まり、凌駕するのだろう。
きっと彼らには動揺や緊張なんてどうでもいいようなモノなのだろう。ぼくは今、演劇部に入っているが、舞台の上でセリフを忘れたら、まともに動ける自信はない。きっと動揺して何も出来なくなってしまうだろう。だが、プロと呼ばれる人たちはその場その場にキッチリと対応し、何事もなかったかのように振る舞えるのだろう。
別にプロになりたいとかそういう願望はない。だが、精神的に強くはなりたい。ぼくは緊張や動揺に弱すぎる。そして、それによって集中力も散漫になってしまう。
今日も学校では宙ぶらりん。クラスでは関口と辻の間に立ってどうするべきか揺れていたし、演劇部の練習に行けば、集中力が欠如していると岩浪先輩に怒られた。昨日の一件からか、いずみはぼくのことを何処か心配しているようだったが、それ以上は特に何も訊いては来なかった。
ぼくは一日を中途半端に終えた。その間も時間は動き続けている。ぼくは完全に時間を無駄にしていた。この何も出来ずに時間を無駄にし続けているという不能感がぼくのこころをより強く罵倒した。お前には何も出来ないのか。決断することも出来ないのか。でも、だとしたらどうすればいい。
わからない。
ぼくは一生保留し続けるかもしれない。まだ中学に入学して数ヶ月しか経っていないけど、ぼくは既にスタンスの取り方で迷い続けている。多分だけど、人間の主義なんてモノは基本的に子供の時から変わることはないと思う。大人になったからといって180度意識や考え方が変化することなんてあるはずがないのだーー何か、キッカケがない限りは。
つまり、自分から動かなければ、ぼくの人生やぼくのパーソナリティは何ひとつ変わらず、不動のままということだ。
お陰で帰り道は気も足取りも重かった。自然と視線は下を向き、人の溢れる夕方の川澄通り商店街を亡霊のように歩き続けた。
と、突然、何かにぶつかった。
「すみません」
無意識の内にそう声が出た。と、ぶつかった相手はーー
「いやいや、こちらこそごめんよ」
といった。その相手は顔は怖いが同時にイケメンで、ガタイが良く、長い髪をカチューシャで撫で付けた男の人だった。
ぼくはハッとした。
【続く】