【帝王霊~睦拾捌~】
文字数 1,032文字
誰もいない場所というのはいつも以上に音が響くような気がする。
そして、それが暗い中であれば余計にそう感じるのはいうまでもないだろう。暗い中では視界が殆ど殺される。となれば、頼りになるのは触覚か聴覚のいずれかだが、何もない暗闇の中では触覚よりも聴覚のほうが敏感に働くのはいうまでもない。
「どうしたの?」
あたしはいきなり声を上げた詩織に訊ねた。と、詩織はあたしのほうを見て、
「今ネズミがいた」
まったく、人騒がせな話だ。そうでなくともこんな神経ばかりが研ぎ澄まされるような場所にいるというのに、まるで手と足を掛けている梯子の段を急に外されたようで気分が悪い。
「ネズミってねぇ......」あたしは殆ど呆れていった。「そんな大騒ぎすることでもないでしょう」
仮に苦手なのであれば全然わかるのだが、詩織はまるで野道でタヌキが現れたみたいな反応をするモノだからかなわなかった。改めて考えてみると確かに驚きはあったが、恐怖心なんかより好奇心が圧倒的に勝っている。そんな感じの声。
「でも、アイちゃん」詩織は訊ねた。「ここ何なの? 随分と荒れてるけど」
それなら説明した。まったく、人の話を全然聴いていない。確かにマイペースな感じで、人の話をまともに聞くタイプには見えなかったが、ここまで来ると付き合う人を選ぶだろう。少なくともセッカチでカッチリした人には詩織と行動を共にするのは厳しいだろう。あたしはため息をついていった。
「さっきいったでしょ。今回の事件に関わっているかもしれないヤーヌスってベンチャーが入っていた雑居ビルだって」
「ふぅん?」
まったくもって興味のなさそうな相槌を打ち、詩織は辺りを見回した。この子は本当に大丈夫なのだろうかと心配になってきたと同時に、あたしは何故今この子と行動を共にしているのだろうと自問自答したくなった。
「なるほどねぇー」何かに納得したように詩織はいった。
「何?」
あたしは思わず訊ねた。とはいえ、大した答えは返って来ないだろうと半分適当に訊ねたワケだが。だが、詩織はーー
「ここさぁ、本当に元々その会社が入ってたビルなのぉ?」と間の抜けた声でいった。
流石にちょっとイラっとしてしまった。話を聞いていないのか聞く気がないのか、そもそも理解力が追いついていないのか。わたしはため息を噛み殺しつつ、隠しきれない呆れを表に出して、そうだと答えた。と、詩織はーー
「へぇ、そうなんだね。でも、随分と幽霊が多いんだね」
あたしは耳を疑った。
【続く】
そして、それが暗い中であれば余計にそう感じるのはいうまでもないだろう。暗い中では視界が殆ど殺される。となれば、頼りになるのは触覚か聴覚のいずれかだが、何もない暗闇の中では触覚よりも聴覚のほうが敏感に働くのはいうまでもない。
「どうしたの?」
あたしはいきなり声を上げた詩織に訊ねた。と、詩織はあたしのほうを見て、
「今ネズミがいた」
まったく、人騒がせな話だ。そうでなくともこんな神経ばかりが研ぎ澄まされるような場所にいるというのに、まるで手と足を掛けている梯子の段を急に外されたようで気分が悪い。
「ネズミってねぇ......」あたしは殆ど呆れていった。「そんな大騒ぎすることでもないでしょう」
仮に苦手なのであれば全然わかるのだが、詩織はまるで野道でタヌキが現れたみたいな反応をするモノだからかなわなかった。改めて考えてみると確かに驚きはあったが、恐怖心なんかより好奇心が圧倒的に勝っている。そんな感じの声。
「でも、アイちゃん」詩織は訊ねた。「ここ何なの? 随分と荒れてるけど」
それなら説明した。まったく、人の話を全然聴いていない。確かにマイペースな感じで、人の話をまともに聞くタイプには見えなかったが、ここまで来ると付き合う人を選ぶだろう。少なくともセッカチでカッチリした人には詩織と行動を共にするのは厳しいだろう。あたしはため息をついていった。
「さっきいったでしょ。今回の事件に関わっているかもしれないヤーヌスってベンチャーが入っていた雑居ビルだって」
「ふぅん?」
まったくもって興味のなさそうな相槌を打ち、詩織は辺りを見回した。この子は本当に大丈夫なのだろうかと心配になってきたと同時に、あたしは何故今この子と行動を共にしているのだろうと自問自答したくなった。
「なるほどねぇー」何かに納得したように詩織はいった。
「何?」
あたしは思わず訊ねた。とはいえ、大した答えは返って来ないだろうと半分適当に訊ねたワケだが。だが、詩織はーー
「ここさぁ、本当に元々その会社が入ってたビルなのぉ?」と間の抜けた声でいった。
流石にちょっとイラっとしてしまった。話を聞いていないのか聞く気がないのか、そもそも理解力が追いついていないのか。わたしはため息を噛み殺しつつ、隠しきれない呆れを表に出して、そうだと答えた。と、詩織はーー
「へぇ、そうなんだね。でも、随分と幽霊が多いんだね」
あたしは耳を疑った。
【続く】