【藪医者放浪記~玖拾睦~】

文字数 604文字

 耳を疑うようなひとことに茂作は驚きを隠しきれなかった。

「逃げるっておめぇ......」

 どうやって。どうして。何処から。様々な含みが見て取れる受け答えだった。茂作だってこの混乱した状況からはいち早く抜け出したいだろうし、出来ることなら逃げたいとも思っていたはずだ。だが、いざそれを実行するには時間も余裕もなさすぎた。

 だが、お凉は得意気な顔をしていた。

「大丈夫だよ」

 そういうと、お凉はパンパンに膨らんだ風呂敷を背負った。

「何だい、それは」

 拝借したモノ、とお凉はいった。即ち盗んだということだった。茂作は何てことしやがる、とお凉を咎めた。が、お凉はこんな面倒なことに巻き込まれたのだからいいだろうといった。元はといえば、お凉の根も葉もないウソから始まった騒動といえばそうなのだが、本人に反省の色はまったくといっていいほど見えなかった。

「いい加減にしねぇか」茂作はいつもは見せないような神妙な様子でいった。「周りがこんなにもグチャグチャになってるってのに、お前は人のことを何だと思ってるんだ。ここまで足を突っ込んじまったら、何もしないワケにゃいかねぇだろ」

 お凉は呆気にとられた。あの不真面目な旦那が人様のために動こうとしている。そんなことは今までなかった。驚きを隠せないのも無理はなかった。だが、お凉は一度呼吸を整えてから改めていった。

「隠し通路を見つけたんだよ」

 茂作の身体がピクリと動いた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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