【明日、白夜になる前に~拾伍~】
文字数 1,129文字
違和感の正体などまるでわからなかった。
ぼくはモヤッとした気持ちを抱いたまま数日を過ごした。
何かが可笑しい。だけど、その何かが何なのかがわからない。仕事の手は止まり、たまきと会っても何処か上の空な感じがする。
仕事は元々好きではないからいいとして、たまきと会って話しても何処か自分が無理に笑うよう取り繕っているように思えてならない。
別に彼女との会話がつまらないワケじゃない。むしろ、疲れた身体に彼女の存在はいい薬というか、癒しになっていることは間違いないと思う。だが、何なんだろうこの違和感は。
やはり、里村さんに未練を感じているーーいや、そんなはずはない。確かにあんな別れ際を作ってしまって本当に悪かったとは思うけれども、それはそれ、これはこれだ。
そもそも別に彼女の顔が浮かぶワケではない。そう考えると、そこまで未練があるようにもーー
「どうしたの? 元気ないよ?」
たまきに声を掛けられ、ぼくはハッとする。ぼくとたまきは仕事終わりの恒例となった公園での雑談の最中だった。ぼくは狼狽えつつ、
「い、いや何でも……!」
まさかの上の空とは間違ってもいえない。そして、その理由もーーというか、その理由がわからないから説明もできないのだけど。
「そっか……」
たまきの表情が沈み込む。うつむく彼女の目元がこころなしか輝いて見える。潤んでいるのだろうか。罪悪感がぼくの中に芽生える。
「あ、ごめん……」
「どうして謝るの?」寂しげにたまきはいう。
だが、ぼくはその理由を説明できない。出来ることといえばあやふやな態度で御座なりな回答をするばかり。というか、何と答えていいのかわからず、狼狽えるしかなかったのだけど。
ぼくが黙っていると、ふとたまきはぼくの肩に顔を寄せて来る。彼女の身体は震えている。
「ひとりに、しないで……」彼女の声には涙が入り雑じっている。「捨てないで……」
そういう彼女には悲壮感が漂っている。すすり泣く声。ぼくの服の肩口をギュッと掴む彼女の弱々しい手が、何とも無力に見える。そんな悲しそうにする彼女を見ていると、ぼくも涙が込み上げて来て、居たたまれなくなる。
ぼくは彼女の肩を強く抱き寄せる。それで彼女の肩の震えが止まれば、と強く強く彼女の肩を片腕で抱く。震えはすぐに止まる。それでもぼくは彼女のことを強く強く抱き続ける。
「ずっと……、一緒だからね……」
彼女の消え入りそうではあるが、どこか安堵に満ちた声がぼくの五臓六腑に染み入っていく。
「うん……」
「絶対、絶対一緒だからね……」
「うん、当然だよ……」
ぼくは彼女の肩を更に強く、強く抱き締める。夜の湿っぽい空気が、星空をより美しく飾り立てている。ぼくにはそう見えた気がした。
【続く】
ぼくはモヤッとした気持ちを抱いたまま数日を過ごした。
何かが可笑しい。だけど、その何かが何なのかがわからない。仕事の手は止まり、たまきと会っても何処か上の空な感じがする。
仕事は元々好きではないからいいとして、たまきと会って話しても何処か自分が無理に笑うよう取り繕っているように思えてならない。
別に彼女との会話がつまらないワケじゃない。むしろ、疲れた身体に彼女の存在はいい薬というか、癒しになっていることは間違いないと思う。だが、何なんだろうこの違和感は。
やはり、里村さんに未練を感じているーーいや、そんなはずはない。確かにあんな別れ際を作ってしまって本当に悪かったとは思うけれども、それはそれ、これはこれだ。
そもそも別に彼女の顔が浮かぶワケではない。そう考えると、そこまで未練があるようにもーー
「どうしたの? 元気ないよ?」
たまきに声を掛けられ、ぼくはハッとする。ぼくとたまきは仕事終わりの恒例となった公園での雑談の最中だった。ぼくは狼狽えつつ、
「い、いや何でも……!」
まさかの上の空とは間違ってもいえない。そして、その理由もーーというか、その理由がわからないから説明もできないのだけど。
「そっか……」
たまきの表情が沈み込む。うつむく彼女の目元がこころなしか輝いて見える。潤んでいるのだろうか。罪悪感がぼくの中に芽生える。
「あ、ごめん……」
「どうして謝るの?」寂しげにたまきはいう。
だが、ぼくはその理由を説明できない。出来ることといえばあやふやな態度で御座なりな回答をするばかり。というか、何と答えていいのかわからず、狼狽えるしかなかったのだけど。
ぼくが黙っていると、ふとたまきはぼくの肩に顔を寄せて来る。彼女の身体は震えている。
「ひとりに、しないで……」彼女の声には涙が入り雑じっている。「捨てないで……」
そういう彼女には悲壮感が漂っている。すすり泣く声。ぼくの服の肩口をギュッと掴む彼女の弱々しい手が、何とも無力に見える。そんな悲しそうにする彼女を見ていると、ぼくも涙が込み上げて来て、居たたまれなくなる。
ぼくは彼女の肩を強く抱き寄せる。それで彼女の肩の震えが止まれば、と強く強く彼女の肩を片腕で抱く。震えはすぐに止まる。それでもぼくは彼女のことを強く強く抱き続ける。
「ずっと……、一緒だからね……」
彼女の消え入りそうではあるが、どこか安堵に満ちた声がぼくの五臓六腑に染み入っていく。
「うん……」
「絶対、絶対一緒だからね……」
「うん、当然だよ……」
ぼくは彼女の肩を更に強く、強く抱き締める。夜の湿っぽい空気が、星空をより美しく飾り立てている。ぼくにはそう見えた気がした。
【続く】