【さらば、健全なる精神】

文字数 3,599文字

 身体が資本とはよくいったものだ。

 まぁ、それは正しい。身体の調子が悪ければ、まともな働きはできないし、精神的にも落ち込みがちになってしまう。やはり、日頃から健康には気を使ったほうがいい。

 といいつつおれは、健康には全然気を使っていない。以前はそれなりに気は使っていたほうなのだが、例のアレが猛威を奮い出してからというもの、確実に不健康な一途を辿っている。

 とまぁ、こんな話をしたのは、今日健康診断を受けてきたからだ。

明確な結果はまだ出ていないとはいえ、口頭では「正常」といわれた項目がそれなりにあったので、結果に悲観はしていないのだけど、如何せん、この数ヶ月の生活パターンが完全に落ちぶれていることを考えると、楽観してもいられない。

 とまぁ、そんなことをいいつつ、健康診断で地味に困ったことがありまして。それは、ちょうど聴力検査を受けるとなった時にーー

 そばにいた赤ちゃんが泣きし出したんだな。

 五条氏は別に子供が嫌いなワケではないのだけど、流石にこれには辟易としてしまった。というのも、ヘッドホンをしても赤ちゃんの泣き声しか聴こえないじゃない。いかん、これじゃあ公式記録に聾唖と書かれても文句はいえない。というか、マジで聴こえない。

 そうじゃなくとも五条氏は、へヴィメタルバンドでヴォーカルをやっていた時に耳をかなりやってしまっているので、ナチュラルに耳が悪いのだ。とはいえ、検査は検査。音の振動というか、感覚で何とかやりましたさ。そしたら、何とかなりましたよ、うん。

 しかし、健康診断をいざ受けてみると、本当に自分の身体には気を使わなければならないなと思うようになった。いくら裕福であろうと、精神的に満たされていようと、健康を害してしまえば、その時点で人生の詰みが見えてしまう。一〇年後の自分がそうならないように、今から考えていかなければならない。

 とまぁ、そんなことをいいつつ今日のテーマは健康とはまったく関係なかったりする。

 突然そんなことをいわれても、といった感じだが、人間、普通に生きていると、どうしても肉体的に普通にしかなれないーーいや、普通にすらなれないのだ。何の話をしてるんだか。

 あれは中学一年の頃の話である。その時、おれは数人のメンバーとともに総合学習のテーマ発表の課題を抱えていた。

 メンバーはおれを含めて五人。その内訳は、

 健太郎くんーー今でも付き合いのある友人。真面目な生徒なのだが、気づいたら誰かを殴っているという結構ヤバめな問題を何度かやらかしている。五条氏とは小学校三年から中学三年まで同じクラスで、いつも一緒に帰る仲だった。遅刻と忘れ物の常習犯で、それを誤魔化すためのチートをよく使っていた。

 もっくんーー野球部のエースになれるほどの運動センスを持っていたフィジカルエリート。しかし、驕ることなく、非常に優しい。

 美形ゾンビーーゾンビだけど生きているから「美形」と、滅茶苦茶なアダ名を持つ人物。自動車が好きで詳しい。詳細は後述。

 UTーー通称「宇宙人」。とはいいつつ猿みたいな跳躍力を持っている。が、好きな女子に親を通じて告白したり、シャックリをするような独特な笑い方をしたりするせいで、同級生からの評判は微妙。ちなみにおれとは塾が同じ。

 とまぁ、もっくん以外、どう考えてもヤバめなメンバーなんだけど、そんなメンツで一体何をするのかーー正直覚えてねえんだよな。ただ、このメンバーでひとつのテーマについて調べ、ポスター大の用紙に調べた内容をまとめていくこととなっていた。

 が、メンツがメンツなせいで、作業も捗らず、資料作成のデッドエンドの前日になっても、ポスターはできあがっていなかった我々は、放課後を使ってポスターづくりをしなければならなくなったのだ。

 全員、それっぽい資料を図書室からかっぱらい、教室にてポスター作成をすることとなったのだが、面倒な作業で、中々に作業は進んでくれない。基本的に全員不真面目な部分があるせいか、余計終わる気配がない。

 と、そんな時、美形ゾンビがUTにちょっかいを出し始めたのだ。

 この美形ゾンビ、何が質悪いかといえば、すぐに人をバカにするクセに、反撃されるとすぐキレるーーしかも弱いーーという何とも害悪な存在だったのだ。

過去、何度も健太郎くんに突っ掛かっては、やり返され、逆ギレした美形ゾンビは健太郎くんの無意識下の暴力によって地面をリッキングしたことが何度もあった。

にも関わらず懲りないのが、この美形ゾンビという男だった。

 ちなみに、この美形ゾンビ、小学校低学年の時は常習的に五条氏を虐めていたのだが、中学にもなると、地位が逆転してしまい、おれも美形ゾンビのちょっかいにイラつく度にゾンビを投げ飛ばしては、アンクルホールドで脚を捻って制裁をしていた。過去のイジメっ子なんて、所詮はこの程度。まぁ、早い話が、

 美形ゾンビはかなり面倒くさいヤツだった。

 で、UTである。UTも学年にひとりはいる変なヤツの筆頭的な存在で、やはり美形ゾンビもUTのことをバカにしまくっていたのだ。そして、その日も例外ではなかった。

 同じパートで黙々と作業しているUTの邪魔をし続け、見ているこっちまで邪魔に感じるほどに、ウザかった。もう、包み隠さずいうわ。

 マジで、ウザかった。

 とはいえ、おれは健太郎くん、もっくんと共に作業を進めており、早めの完成を目標にしていたこともあって三人で効率的に作業を進めていた。そして、数分後。唐突に、

「おうふッ!!」

 というマンガみたいな声が聴こえてきたのだ。これにはおれも何だと思い、声のした方向を見たのだけど、

 UTが美形ゾンビの背中にジャンピングエルボーを食らわしていたのだ。

 もうワケがわからなかった。いつの間にかふたりとも立っているし、いつの間にかケンカが起きている。プラス、ジャンピングエルボーというのが、変にツボに入ってしまい、何故か笑いを堪えるのに必死になってしまった。

 とはいえ、目の前ではケンカが起きているワケで。もっくんが率先してふたりの間に割って入ったのだけど、UTのエルボーにブチギレてしまった美形ゾンビは、

 UTの頬を一発ぶっ飛ばしたのだ。

 これにはもう収拾がつかなくなり、たまたま教室の横を通り掛かった教員の制止もあって、美形ゾンビは教室からつまみ出され、UTも肉体的には何もないといって作業に戻ったのだ。

 が、作業に戻って数分後、今度はよくわからない呻き声が聴こえるではないか。お次は何かなと思い、声のした方向へと目をやったんよ。そしたらーー、

 UTが下腹部を押さえて苦しんでいるではないか。

 これにはおれも、健太郎くんも、もっくんも作業の手を止めてUTに駆け寄って事情を訊いたのだけど、おれたちの問い掛けに対してUTは、

「何か……、心臓がッ……、途切れ途切れにッ……、動くッ……!」

 いや、心臓ってそういうもんだぞ、ハムスターじゃないんだから。もっというとーー、

 下腹部に心臓はないぞ。

 と思いきや、UTは更に続けるのである。

「多分……、さっき……、美形ゾンビくんに……、殴られたのが……、原因、だと……、思う……」

 ちゃっかり美形ゾンビのせいにしてて、おれも、健太郎くんも、もっくんも思わず吹き出しそうになってしまったのだ。だってーー、

 殴られたの頬だからな。

 もうワケがわからない。全身の神経構造がバグっているとしか思えない。改めて、これまでの情報を整理すると、

【UTの負傷したパーツの概要】
・殴られた場所→頬
・痛む場所→心臓(途切れ途切れに動く模様)
・押さえている場所→下腹部

 まったくワケがわからない。

 結果、UTは急性の心不全(?)を理由に早退し、ポスターはおれと健太郎くん、もっくんの三人で泣くなく作らなければならなくなりました。まぁ、でも、完成してよかったわ。

 翌日、UTが何もなかったかのように登校してきたんで、身体の調子はどうかと訊いてみたところーー、

「いやぁ、医者いったんだけどさぁ、何も可笑しなところはないってさ」

 当たり前だろ。

 そんな感じで、総合学習のプレゼンは、健太郎くん、もっくん、おれの三人がメインで務めて、何とかなりましたとさ。

 ちなみに、翌日登校してきた美形ゾンビは、いつもより美形なゾンビって感じでした。

 健全なる精神は、健全なる肉体に宿る。間違っても頬を殴られて、下腹部を押さえて、心臓が痛いなんてことはあり得ないのだ。

 ……何の話をしてるんだ?

 すべてがバグっているんだ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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