【いろは歌地獄旅~シーユーアゲイン~】
文字数 1,676文字
七月一日、ぼくは死んだ。
事故でも自殺でもない、病気による死。若年性のガン。苦しみが内側から身体を蝕み、最後の瞬間は途端に時間が緩やかに流れ、自分の人生がもの凄い勢いで浮かんでは消えていき、そして、苦痛まみれだった身体にとてつもなく気持ちのいい感覚が走った。
それがぼくの人生の終わりだった。
思えば短い人生だった。まだ十八歳。大学に入って一ヶ月といったところだった。
ぼくの意識は死と共に闇に飲まれ、次に目を覚ました時には病院のベッドの上にいた。
困惑するしかなかった。確かに意識は途切れ、肉体と魂が切断されたような感覚があったから特にそう思った。
ぼくは勢い良く飛び起き、自分の身体をまさぐった。特に違和感はない。痛みもない。身体は跳び跳ねるうさぎのように縦横無尽、ストレスなく躍動してくれる。
夢、だったのか?
そう疑わざるを得なかった。もしかして、ぼくが苦しみ死んだのはすべて夢で、ぼくは何か事故に遭って意識は混濁、長期間の意識不明の中で死への恐怖がそんな夢を見せたのかもしれない、とそう思った。
と思っているところに看護師と医者がやって来た。ぼくは医師にここは何処かと訊ねた。が、その答えは明白だった。
あの世、そういう答えが返ってくる。
そうか、やっぱりぼくは死んだんだ。悲しさと寂しさが一気に押し寄せて来て、ぼくは思わず涙を流した。これからどうなるのか訊ねると、取り敢えずあの世での意識が戻った以上、行く行くは行く先を決めなければならない。そう、所謂『天国』か『地獄』かということだ。
が、その前にやるべきことがあるとのことだった。正確にいえば、これは希望者のみらしいので必ずということではないみたいだ。その内容というのは、
自分の死後、自分がいた周りでは何が起きているか確認出来るというモノだった。
とても興味深かった。というか、自分が死んだことが家族や友人たちの間でどのようなことになっているか、ふと覗き込んでみたくなったのだった。
ぼくはいうまでもなく、そのサービスを希望した。それから少ししてスーツを着たサラリーマンのような男が鞄を持ってやって来た。
男はぼくの前に座り、この度の死後ヴィジョンサービスの利用に当たっての注意をする。ふと、男がこんなことをいう。
「このサービスを申し込むのは、比較的若い世代が多いですね」
ぼくはその理由を訊ねた。と、男は、
「友人がたくさんいるから、でしょうか。とはいえ、歳が行っててもサービスを希望される方はいるにはいます。特に自己顕示欲や承認欲求の強いお方なんかは」そういって笑った。
正直何をいっているのかわからなかった。が、ひとついえるのは、どの世代も申し込むことは全然あり得るということだ。それで何だか安心した。正直、利用者が限られているといわれたら、それはそれで不安になる。
それからぼくは男にいわれて誓約書を書き、男の先導について別室へと移動した。そこは何処にでもあるような会議室のような部屋だった。四角形を描くように置かれた長机と部屋の正面には大きなスクリーンが置かれている。
スクリーンの正面に座り、男にいわれて待つ。ドキドキだった。
それから映像が流れ始めた。
ぼくの葬式だった。家族は泣いている。かつての同級生たちも。何だか、悲しくも何処か嬉しい気分だった。みんなぼくのことを忘れていなかったのだ、と嬉しく思った。
だが、可笑しな点もあった。
それは同級生たちが何処かヘラヘラした様子だったことだった。まぁ、まだ何となく実感がなくてどう反応していいのかわからないのだろう、とぼくは解釈した。
それからぼくは通夜の後の友人たちにカメラを追って貰うように頼んだ。
だが、それが間違いだった。
彼らの談笑は聴くに耐えられないモノだった。もはや口だけが動いており、声がぼくの耳に届かないくらいに。
込み上げてきた。
感情が。
ぼくは映像を止めて貰うよういった。映像はすぐに止まった。吐き気がした。目は潤った。そして、ぼくは無意識の内に笑っていた。
また、すぐに会えるようにしてやるよ。
事故でも自殺でもない、病気による死。若年性のガン。苦しみが内側から身体を蝕み、最後の瞬間は途端に時間が緩やかに流れ、自分の人生がもの凄い勢いで浮かんでは消えていき、そして、苦痛まみれだった身体にとてつもなく気持ちのいい感覚が走った。
それがぼくの人生の終わりだった。
思えば短い人生だった。まだ十八歳。大学に入って一ヶ月といったところだった。
ぼくの意識は死と共に闇に飲まれ、次に目を覚ました時には病院のベッドの上にいた。
困惑するしかなかった。確かに意識は途切れ、肉体と魂が切断されたような感覚があったから特にそう思った。
ぼくは勢い良く飛び起き、自分の身体をまさぐった。特に違和感はない。痛みもない。身体は跳び跳ねるうさぎのように縦横無尽、ストレスなく躍動してくれる。
夢、だったのか?
そう疑わざるを得なかった。もしかして、ぼくが苦しみ死んだのはすべて夢で、ぼくは何か事故に遭って意識は混濁、長期間の意識不明の中で死への恐怖がそんな夢を見せたのかもしれない、とそう思った。
と思っているところに看護師と医者がやって来た。ぼくは医師にここは何処かと訊ねた。が、その答えは明白だった。
あの世、そういう答えが返ってくる。
そうか、やっぱりぼくは死んだんだ。悲しさと寂しさが一気に押し寄せて来て、ぼくは思わず涙を流した。これからどうなるのか訊ねると、取り敢えずあの世での意識が戻った以上、行く行くは行く先を決めなければならない。そう、所謂『天国』か『地獄』かということだ。
が、その前にやるべきことがあるとのことだった。正確にいえば、これは希望者のみらしいので必ずということではないみたいだ。その内容というのは、
自分の死後、自分がいた周りでは何が起きているか確認出来るというモノだった。
とても興味深かった。というか、自分が死んだことが家族や友人たちの間でどのようなことになっているか、ふと覗き込んでみたくなったのだった。
ぼくはいうまでもなく、そのサービスを希望した。それから少ししてスーツを着たサラリーマンのような男が鞄を持ってやって来た。
男はぼくの前に座り、この度の死後ヴィジョンサービスの利用に当たっての注意をする。ふと、男がこんなことをいう。
「このサービスを申し込むのは、比較的若い世代が多いですね」
ぼくはその理由を訊ねた。と、男は、
「友人がたくさんいるから、でしょうか。とはいえ、歳が行っててもサービスを希望される方はいるにはいます。特に自己顕示欲や承認欲求の強いお方なんかは」そういって笑った。
正直何をいっているのかわからなかった。が、ひとついえるのは、どの世代も申し込むことは全然あり得るということだ。それで何だか安心した。正直、利用者が限られているといわれたら、それはそれで不安になる。
それからぼくは男にいわれて誓約書を書き、男の先導について別室へと移動した。そこは何処にでもあるような会議室のような部屋だった。四角形を描くように置かれた長机と部屋の正面には大きなスクリーンが置かれている。
スクリーンの正面に座り、男にいわれて待つ。ドキドキだった。
それから映像が流れ始めた。
ぼくの葬式だった。家族は泣いている。かつての同級生たちも。何だか、悲しくも何処か嬉しい気分だった。みんなぼくのことを忘れていなかったのだ、と嬉しく思った。
だが、可笑しな点もあった。
それは同級生たちが何処かヘラヘラした様子だったことだった。まぁ、まだ何となく実感がなくてどう反応していいのかわからないのだろう、とぼくは解釈した。
それからぼくは通夜の後の友人たちにカメラを追って貰うように頼んだ。
だが、それが間違いだった。
彼らの談笑は聴くに耐えられないモノだった。もはや口だけが動いており、声がぼくの耳に届かないくらいに。
込み上げてきた。
感情が。
ぼくは映像を止めて貰うよういった。映像はすぐに止まった。吐き気がした。目は潤った。そして、ぼくは無意識の内に笑っていた。
また、すぐに会えるようにしてやるよ。