【藪医者放浪記~玖拾伍~】

文字数 636文字

 お凉の表情はあからさまに歪んでいた。

 しまった、マズイ、焦りの感情が表に出ていた。茂作はまったくもって信じられないといった表情だった。

「おめぇ、一体ーー」

 と茂作がことばを紡いでいるのもお構いなしにお凉は茂作を部屋の中に引っ張り込んで障子を閉めると、茂作の口を手で塞ぎ、静かにするようにいう。

「......静かにしなよ。こんなとこ見られたらどうするんだい」

 明らかにきな臭いモノいい。茂作はお凉の手を外そうとしたが、お凉はそれを剥がされないようにグッと押し付けていた。

「......静かにおしよ。うるさくしないなら外す。どうする?」お凉の問いに茂作は軽く首を縦に降った。「いいんだね?」

 尚も念を押すお凉に茂作はイヤそうな顔をして乱暴に頷いて見せた。お凉はやっと信用したのか、茂作の口から手を外した。余程強く押さえつけていたのだろう、茂作の口元が赤くなっていた。茂作はハァハァと荒く息を吐いた。それからーー

「何だってんだ、一体!」

 またもや、お凉は茂作の口を塞いだ。

「うるさくするなっていってるだろう? それがわからないのかい?」

 茂作は面倒くさそうに首を縦に振った。それからさっきと同じようにまた静かにするかどうかを訊かれ、茂作は再び首を縦に振った。お凉の手が外され、茂作は今度こそ静かにいった。

「何してんだよ......!」

 お凉はすぐには答えなかった。だが、少しして何かを決心したように口を開いたーー

「ここから逃げ出さないかい?」

 茂作は呆気に取られた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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