【コヨーテ、パピヨンの皮を被る】
文字数 2,366文字
人が並んで歩くシーンが好きだ。
映画や何かの映像作品において、人が並んで歩くシーンがとても好きだ。例を挙げるとするなら、サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』にて、仲間を助けにいくときの、あのシークエンスなんだけど、あそこが何といってもクールで、DVDのチャプターを何度も巻き戻してしまう。
まぁ、最近の映画やドラマでも、人が並んで歩くシーンというのは非常に多く、歩いている場面にスローモーションが掛けられているなんてのは、よく見ると思う。
この歩くシーン、どんな映像作品でも、やっぱりカッコイイのだ。やっぱり、人間、一度は数人の仲間とともに並んで歩くということはしたこともあるだろうし、それは何といっても気分がいいもんだ。
さて、そんな感じで、とうとう開戦である。あらすじーー「独特な雰囲気の中、体育祭前夜は終わったのだ」
まぁ、一〇点って感じのあらすじだな。とはいえ、前日ともなると、色々と感じるものがあって、始めはイヤで仕方なかった応援団長も、終わりが近づくと何ともいえない寂寥感が漂い、どこかセンチメンタルな気分になってしまうのだ。とはいえーー
朝ーー体育祭当日の朝、おれのマインドは静かだった。沸々と沸き上がる緊張感はあるとはいえ、それは嵐の前の波模様のように静かに揺れていた。落ち着いているかといわれると、そうではないのだけど、慌てふためいているかといわれれば、そうでもない。
いつも通り朝食を食べ、カバンを背負い、学校へ向かう。何も変わらないいつもの光景。
教室に入ってもそうだった。いつものクラスメイトがいつも通り談笑している。違うところといえば、みな体育着で、頭に黄色いハチマキを巻いていることだらうか。
ホームルームが終わると、自分のイスと各種必要なものを持って所定の場所まで。団長とはいえ、そこに特別扱いはなく、おれはただのとあるクラスのひとりの生徒としてイスに座る。
それから、練習通りに開会式が始まり、競技が始まる。とはいえ、自分が何に出たかなどとは今では覚えていない。ただ、そこにある自分の仕事にだけ集中するーー。
とはいえ、あまり団の成績は芳しくなく、このままでは負けてしまうだろうなという状況におれも焦りを感じていた。が、後輩たちに意見を訊かれると不思議と頬も緩み、朗らかに指示や提案をすることができた。別に何かを意識してそうしたワケでもなく、ただ、不思議とそうなってしまっただけだ。
午前の部が終了した時点で、黄団は四団中で三位ほど。成績としてはかなり微妙。いつもならそんなことはどうでもいいんだけど、自分が団長となると、そうもいっていられない。ただ、おれが何かしたからといってどうにかなる問題でもない。勝負は時の運。リレーにしろ、短距離、長距離走にしろ、出場するのは、クラスの精鋭である。だとしても、勝てるときは勝てるし、勝てないときは勝てないのだ。
黄色は悪い流れを引いてしまったようだ。
中休み、昼食を取って、午後の競技に備える。まぁ、午後はおれも組体操のような全体競技を抜けばコスプレして走るーー
コスプレして走るッ!?
自分の中に目を背けたい現実がやってくる。団長がコスプレして走る競技は午後の部の半ばだ。
コスプレか……、絶対悲鳴あがんじゃん。
頼むから、その競技は飛ばしてくれねぇかなーーそうは思っていても現実は残酷で、気づいたらその競技の直前になってました。
「先輩、何のコスプレするんすか?」
芹沢くんとその友人たちが笑顔で訊いてくる。おれはそれに対し、
「い、いやぁ、本番のお楽しみだよ」
そしたら、芹沢くんも他の後輩も「楽しみにしてますッ!」とすげえウキウキだった。後輩との関係性が滅茶苦茶良くなっているのは別として、自分の女装の女装の時間が近づいていることに、久しぶりの吐き気を覚えまして。
そしたら、次の競技に出場する団長と応援団員はスタンバイを、とのアナウンスが入り、とうとう来たかという感じだった。まるで、死刑囚が一三階段を一段ずつ昇っていくような、そんな気分だった。まぁ、ある意味処刑っちゃ処刑なんだけど。
競技開始前、おれら団長は校庭のど真ん中に座らされ、その五〇メートル手前に応援団員がスタンバイしている。そして、その中間には、コスプレの服……。顔の引き吊る五条氏。よーい。火薬の炸裂音。
始まってしまった……。
とまぁ、そんな感じに外山、キャナ、TK、シーサー、金田とコスプレ用具を持って走ってくる。逃げたかった。逃げちゃダメーーいや、これは逃げていいんじゃないか? そうは思っても、されるがままでしたよ。
気づけば、五条氏も松浦ゴリエ!
もうね、すげえ笑い声が聴こえるワケですよ。その笑い声が他の団の人間を笑う声ならいいーーいや、失笑されるほうがキツイな。そんなことを考えてたら、着替え終わってまして。最後にスカートを履かせてくれた金田に「頑張って!」といわれて走りましたよ。
まぁ、コスプレを終えたら、そのまま四〇〇メートルトラックを一周走って終わりなんだけど、如何せん走りづらい。スカートがヒラヒラするのが新鮮で、もうどうにでもなれって感じ。とまぁ、そんな感じで走ったら、二位になりましたわ。
まぁ、酷い格好。でも、周りを見ても中々凄惨な光景だった。ゴリマッチョのセーラーマーズとか、猿顔の松浦亜弥だとか、絶壁頭のーー忘れた。とにかく、地獄の底から甦ってきたようなグロテスクなモンスターが、おれを含めて四人。絶対誰かひとりは嘔吐してたよな。
さて、今日はここまで。次回で体育祭本番も終了でござる。長いもんだわ。
ではッ!
映画や何かの映像作品において、人が並んで歩くシーンがとても好きだ。例を挙げるとするなら、サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』にて、仲間を助けにいくときの、あのシークエンスなんだけど、あそこが何といってもクールで、DVDのチャプターを何度も巻き戻してしまう。
まぁ、最近の映画やドラマでも、人が並んで歩くシーンというのは非常に多く、歩いている場面にスローモーションが掛けられているなんてのは、よく見ると思う。
この歩くシーン、どんな映像作品でも、やっぱりカッコイイのだ。やっぱり、人間、一度は数人の仲間とともに並んで歩くということはしたこともあるだろうし、それは何といっても気分がいいもんだ。
さて、そんな感じで、とうとう開戦である。あらすじーー「独特な雰囲気の中、体育祭前夜は終わったのだ」
まぁ、一〇点って感じのあらすじだな。とはいえ、前日ともなると、色々と感じるものがあって、始めはイヤで仕方なかった応援団長も、終わりが近づくと何ともいえない寂寥感が漂い、どこかセンチメンタルな気分になってしまうのだ。とはいえーー
朝ーー体育祭当日の朝、おれのマインドは静かだった。沸々と沸き上がる緊張感はあるとはいえ、それは嵐の前の波模様のように静かに揺れていた。落ち着いているかといわれると、そうではないのだけど、慌てふためいているかといわれれば、そうでもない。
いつも通り朝食を食べ、カバンを背負い、学校へ向かう。何も変わらないいつもの光景。
教室に入ってもそうだった。いつものクラスメイトがいつも通り談笑している。違うところといえば、みな体育着で、頭に黄色いハチマキを巻いていることだらうか。
ホームルームが終わると、自分のイスと各種必要なものを持って所定の場所まで。団長とはいえ、そこに特別扱いはなく、おれはただのとあるクラスのひとりの生徒としてイスに座る。
それから、練習通りに開会式が始まり、競技が始まる。とはいえ、自分が何に出たかなどとは今では覚えていない。ただ、そこにある自分の仕事にだけ集中するーー。
とはいえ、あまり団の成績は芳しくなく、このままでは負けてしまうだろうなという状況におれも焦りを感じていた。が、後輩たちに意見を訊かれると不思議と頬も緩み、朗らかに指示や提案をすることができた。別に何かを意識してそうしたワケでもなく、ただ、不思議とそうなってしまっただけだ。
午前の部が終了した時点で、黄団は四団中で三位ほど。成績としてはかなり微妙。いつもならそんなことはどうでもいいんだけど、自分が団長となると、そうもいっていられない。ただ、おれが何かしたからといってどうにかなる問題でもない。勝負は時の運。リレーにしろ、短距離、長距離走にしろ、出場するのは、クラスの精鋭である。だとしても、勝てるときは勝てるし、勝てないときは勝てないのだ。
黄色は悪い流れを引いてしまったようだ。
中休み、昼食を取って、午後の競技に備える。まぁ、午後はおれも組体操のような全体競技を抜けばコスプレして走るーー
コスプレして走るッ!?
自分の中に目を背けたい現実がやってくる。団長がコスプレして走る競技は午後の部の半ばだ。
コスプレか……、絶対悲鳴あがんじゃん。
頼むから、その競技は飛ばしてくれねぇかなーーそうは思っていても現実は残酷で、気づいたらその競技の直前になってました。
「先輩、何のコスプレするんすか?」
芹沢くんとその友人たちが笑顔で訊いてくる。おれはそれに対し、
「い、いやぁ、本番のお楽しみだよ」
そしたら、芹沢くんも他の後輩も「楽しみにしてますッ!」とすげえウキウキだった。後輩との関係性が滅茶苦茶良くなっているのは別として、自分の女装の女装の時間が近づいていることに、久しぶりの吐き気を覚えまして。
そしたら、次の競技に出場する団長と応援団員はスタンバイを、とのアナウンスが入り、とうとう来たかという感じだった。まるで、死刑囚が一三階段を一段ずつ昇っていくような、そんな気分だった。まぁ、ある意味処刑っちゃ処刑なんだけど。
競技開始前、おれら団長は校庭のど真ん中に座らされ、その五〇メートル手前に応援団員がスタンバイしている。そして、その中間には、コスプレの服……。顔の引き吊る五条氏。よーい。火薬の炸裂音。
始まってしまった……。
とまぁ、そんな感じに外山、キャナ、TK、シーサー、金田とコスプレ用具を持って走ってくる。逃げたかった。逃げちゃダメーーいや、これは逃げていいんじゃないか? そうは思っても、されるがままでしたよ。
気づけば、五条氏も松浦ゴリエ!
もうね、すげえ笑い声が聴こえるワケですよ。その笑い声が他の団の人間を笑う声ならいいーーいや、失笑されるほうがキツイな。そんなことを考えてたら、着替え終わってまして。最後にスカートを履かせてくれた金田に「頑張って!」といわれて走りましたよ。
まぁ、コスプレを終えたら、そのまま四〇〇メートルトラックを一周走って終わりなんだけど、如何せん走りづらい。スカートがヒラヒラするのが新鮮で、もうどうにでもなれって感じ。とまぁ、そんな感じで走ったら、二位になりましたわ。
まぁ、酷い格好。でも、周りを見ても中々凄惨な光景だった。ゴリマッチョのセーラーマーズとか、猿顔の松浦亜弥だとか、絶壁頭のーー忘れた。とにかく、地獄の底から甦ってきたようなグロテスクなモンスターが、おれを含めて四人。絶対誰かひとりは嘔吐してたよな。
さて、今日はここまで。次回で体育祭本番も終了でござる。長いもんだわ。
ではッ!