【いろは歌地獄旅~ノータリン~】
文字数 2,436文字
村川くんは「ノータリン」だ。
少なくとも、ぼくの小学校、五年三組のクラスではそういわれている。
ぼくはこの「ノータリン」ということばの意味を知らなかったのだけど、聞いた話じゃ「頭が悪い」ってことらしい。
そういわれてみれば、確かに村川くんはノータリンだ。成績は悪いし、いつも鼻水を垂らしている。いつもアホみたいに笑っていて何かを考えているようには見えない。見た目も汚ないし、そのせいで女子からは嫌われている。
男子からも人気が高いとはいえないけど、村川くんは変なところで男子から人気がある。
それは、村川くんが「予言者」だからだ。
というのは、村川くんは妙に勘がいいのだ。どういうことか、というと、例えば誰かが落とし物をしたとして、それを村川くんに相談する。それから、村川くんはふたつか三つの質問をするのだけど、その質問の答えを聴くと少し考えた後に、「ここじゃないかなぁ」と適当な場所をいう。すると、結構当たるのだ。
たまに外すことはあるけれど、だとしても全部を外すことはない。大抵はそのすぐ近くだったり、答えがかすっていたりするのだ。
そうなると当たっていなくても、すげえとみんなは大騒ぎ。あと少しだったじゃん。そんな感じで男子たちは盛り上がる。
ただ、村川くんのスゴさはそれだけじゃない。 というのは、村川くんは人を見る目もどこかスゴいのだ。
例えば、体育の時間がサッカーだったとして、サッカーをやっている子がチームにいるヤツのポジションをどうしようか、と村川くんに相談すると村川くんは少し考えてから「こうかなぁ」と自分の考えたポジションをいうのだ。
すると、これが上手くハマる。
サッカーなんてやったことがない子が、変なところで活躍したり、運動神経の悪い子が急に点を取ったりするようになる。
他にもソフトボールの時間には、相手のピッチャーが投げてくる場所を大方的中させたり、ゲームの難しいところの攻略の仕方を自分で編み出したりと、とても「ノータリン」とは思えないような活躍を見せるのだ。
だから、そんな村川くんが大きな失敗をするなんて思ってなかった。
その失敗は体育の時間の前の着替えの時間に起こった。真野さんという女子の体育着のズボンがなくなったのだ。
ちなみに真野さんは可愛くて、ぼくもちょっと気になっている人だった。
単純な入れ忘れなんじゃないか、ともいわれていたけれど、真野さんは確かに朝確認したからそれはないといい張るばかり。
それから真野さんはもうちょっとちゃんとズボンを探したけれど、やっぱり見つからない。仕方なく、その日の授業、真野さんは先生に事情を話して見学ということになった。
でも、次の日の朝、学校に来てみると、真野さんが机に伏して泣いていた。その周りでは真野さんに取り巻く女子たちが、クラスの男子たちに何かをいっているようだった。
どうやら女子たちは、男子たちに誰が盗ったのかといって、ケンカしているようだった。
男子と女子のケンカに終わりは見えなかった。そこでひとりの男子が、
「そうだ、ノータリンなら何かわかるかも!」
といったのだ。ノータリン、村川くんはこんな時だというのに、眠そうにアクビをしていた。でも、自分の名前が呼ばれると、アクビを飲み込んで、何?と訊いた。
何があったかを話されると、村川くんはクラス中を見回して、うーんと考え始めた。
だが、村川くんは少し考えた後に、
「……ちょっと、わからないなぁ。ごめん」
といったのだ。みんなは信じられないといった顔だった。女子は、やっぱりノータリンじゃん、と村川くんに悪口をいい、男子は、ウソだろ?と驚いていた。ぼくもビックリだった。
結局、真野さんの体育着のズボンは出て来なくって、真野さんは新しいズボンを買うこととなった。ちなみに犯人は見つかっていない。
だけど、ぼくは気がついていた。
それは、村川くんが何かを考えている時、ある場所を見つめて止まったことだった。
ぼくは村川くんの見ているほうをさりげなく見てみたのだけど、その先には自分の席に座って肩をブルブルさせている男子の背中。
村川くんはそんな背中をじっと眺めていたかと思うと、思いついたように、わからないといったのだ。ぼくにはそれが何でなのかわからなかった。どうして突然、村川くんはそういったのか。村川くんは、本当は犯人を知っていたんじゃないのか。そう思った。
ある日の夜、ぼくはそのことをお父さんに話してみた。お父さんなら、何かわかるんじゃないか、と思ったからだ。
お父さんはぼくの話を聴いて、やっぱり村川くんのように、うーんというと、
「村川くんって子は優しい子なんだね。それに、凄く傷つき易い子なんだと思う」
といった。ぼくにはその意味がよくわからなかった。何でと訊いてみると、お父さんは、
「それは、もっと大きくなったらわかるかもしれないね。だから、あまり村川くんのことを『ノータリン』なんていっちゃいけないよ」ぼくが、何でと訊くとお父さんは、「そのことばの意味がいいモノじゃないのもあるけど、村川くんは、他のどの子よりも友達思いのいい子だし、頭のいい子だから、かな」
といった。ぼくにはやっぱりその意味がわからなかった。村川くんは勉強も出来ないし、頭がいいとはいえないと思う。
それに村川くんは勘はいいけど、人のことを思っているっていうのは、どういうことなのだろう。やっぱりわからない。
それも、大きくなったらわかるのかな。
次の日、ぼくは村川くんを遠くから眺めていた。村川くんはいつも何も考えてなさそうな感じでいる。
だけど、村川くんは何処かをボーッと見ている時がある。それは、はしゃいでいるクラスメイトや、ひとりでうつ向いているヤツだったり、誰かのことを見ている時だ。
ぼくは村川くんが何でそんなことをするのかわからなかった。でも、ひとつわかったのは、そうしている時の村川くんがすごく寂しそうだということだった。
少なくとも、ぼくの小学校、五年三組のクラスではそういわれている。
ぼくはこの「ノータリン」ということばの意味を知らなかったのだけど、聞いた話じゃ「頭が悪い」ってことらしい。
そういわれてみれば、確かに村川くんはノータリンだ。成績は悪いし、いつも鼻水を垂らしている。いつもアホみたいに笑っていて何かを考えているようには見えない。見た目も汚ないし、そのせいで女子からは嫌われている。
男子からも人気が高いとはいえないけど、村川くんは変なところで男子から人気がある。
それは、村川くんが「予言者」だからだ。
というのは、村川くんは妙に勘がいいのだ。どういうことか、というと、例えば誰かが落とし物をしたとして、それを村川くんに相談する。それから、村川くんはふたつか三つの質問をするのだけど、その質問の答えを聴くと少し考えた後に、「ここじゃないかなぁ」と適当な場所をいう。すると、結構当たるのだ。
たまに外すことはあるけれど、だとしても全部を外すことはない。大抵はそのすぐ近くだったり、答えがかすっていたりするのだ。
そうなると当たっていなくても、すげえとみんなは大騒ぎ。あと少しだったじゃん。そんな感じで男子たちは盛り上がる。
ただ、村川くんのスゴさはそれだけじゃない。 というのは、村川くんは人を見る目もどこかスゴいのだ。
例えば、体育の時間がサッカーだったとして、サッカーをやっている子がチームにいるヤツのポジションをどうしようか、と村川くんに相談すると村川くんは少し考えてから「こうかなぁ」と自分の考えたポジションをいうのだ。
すると、これが上手くハマる。
サッカーなんてやったことがない子が、変なところで活躍したり、運動神経の悪い子が急に点を取ったりするようになる。
他にもソフトボールの時間には、相手のピッチャーが投げてくる場所を大方的中させたり、ゲームの難しいところの攻略の仕方を自分で編み出したりと、とても「ノータリン」とは思えないような活躍を見せるのだ。
だから、そんな村川くんが大きな失敗をするなんて思ってなかった。
その失敗は体育の時間の前の着替えの時間に起こった。真野さんという女子の体育着のズボンがなくなったのだ。
ちなみに真野さんは可愛くて、ぼくもちょっと気になっている人だった。
単純な入れ忘れなんじゃないか、ともいわれていたけれど、真野さんは確かに朝確認したからそれはないといい張るばかり。
それから真野さんはもうちょっとちゃんとズボンを探したけれど、やっぱり見つからない。仕方なく、その日の授業、真野さんは先生に事情を話して見学ということになった。
でも、次の日の朝、学校に来てみると、真野さんが机に伏して泣いていた。その周りでは真野さんに取り巻く女子たちが、クラスの男子たちに何かをいっているようだった。
どうやら女子たちは、男子たちに誰が盗ったのかといって、ケンカしているようだった。
男子と女子のケンカに終わりは見えなかった。そこでひとりの男子が、
「そうだ、ノータリンなら何かわかるかも!」
といったのだ。ノータリン、村川くんはこんな時だというのに、眠そうにアクビをしていた。でも、自分の名前が呼ばれると、アクビを飲み込んで、何?と訊いた。
何があったかを話されると、村川くんはクラス中を見回して、うーんと考え始めた。
だが、村川くんは少し考えた後に、
「……ちょっと、わからないなぁ。ごめん」
といったのだ。みんなは信じられないといった顔だった。女子は、やっぱりノータリンじゃん、と村川くんに悪口をいい、男子は、ウソだろ?と驚いていた。ぼくもビックリだった。
結局、真野さんの体育着のズボンは出て来なくって、真野さんは新しいズボンを買うこととなった。ちなみに犯人は見つかっていない。
だけど、ぼくは気がついていた。
それは、村川くんが何かを考えている時、ある場所を見つめて止まったことだった。
ぼくは村川くんの見ているほうをさりげなく見てみたのだけど、その先には自分の席に座って肩をブルブルさせている男子の背中。
村川くんはそんな背中をじっと眺めていたかと思うと、思いついたように、わからないといったのだ。ぼくにはそれが何でなのかわからなかった。どうして突然、村川くんはそういったのか。村川くんは、本当は犯人を知っていたんじゃないのか。そう思った。
ある日の夜、ぼくはそのことをお父さんに話してみた。お父さんなら、何かわかるんじゃないか、と思ったからだ。
お父さんはぼくの話を聴いて、やっぱり村川くんのように、うーんというと、
「村川くんって子は優しい子なんだね。それに、凄く傷つき易い子なんだと思う」
といった。ぼくにはその意味がよくわからなかった。何でと訊いてみると、お父さんは、
「それは、もっと大きくなったらわかるかもしれないね。だから、あまり村川くんのことを『ノータリン』なんていっちゃいけないよ」ぼくが、何でと訊くとお父さんは、「そのことばの意味がいいモノじゃないのもあるけど、村川くんは、他のどの子よりも友達思いのいい子だし、頭のいい子だから、かな」
といった。ぼくにはやっぱりその意味がわからなかった。村川くんは勉強も出来ないし、頭がいいとはいえないと思う。
それに村川くんは勘はいいけど、人のことを思っているっていうのは、どういうことなのだろう。やっぱりわからない。
それも、大きくなったらわかるのかな。
次の日、ぼくは村川くんを遠くから眺めていた。村川くんはいつも何も考えてなさそうな感じでいる。
だけど、村川くんは何処かをボーッと見ている時がある。それは、はしゃいでいるクラスメイトや、ひとりでうつ向いているヤツだったり、誰かのことを見ている時だ。
ぼくは村川くんが何でそんなことをするのかわからなかった。でも、ひとつわかったのは、そうしている時の村川くんがすごく寂しそうだということだった。