【ナナフシギ~死拾参~】
文字数 1,053文字
空気が張り詰めていた。
エミリの声は部屋全体にキンッと響き、緊張状態にあった空気を更に緊迫させた。祐太朗は呆然とエミリを見詰めていた。いつもは大人しく、決して大声を出さないようなエミリが見せる初めての姿だった。
「......何?」
少女はふて腐れたようにいった。エミリはそんなことにはお構いなしといった様子で少女のほうへとゆっくりと歩み寄って行った。少女は退かなかった。むしろ、エミリを地獄に引き摺り込んでやろうとでもいわんばかりに姿勢を前のめりにして見せた。エミリは少女の目の前で足を止め、じっと少女のことを見詰めていた。
「......文句でもあんの?」
そう訊ねるとエミリは悲しげな目をした。
「何があったの.....?」
この質問には祐太朗だけでなく少女も戸惑いを見せた。だが、その一瞬見せた戸惑いもすぐさま払拭して、少女はいった。
「そんなこと、関係ないでしょ」
「うん、関係ないよね。でもさ、こんな風になってさ、同じくらいのわたしたちに地獄に落ちろだなんて、そんなこと普通はいえないよ......」
ある意味でエミリの発言はもっともだ。確かに子供同士、友達や同級生に対して「死ね」だとか「殺す」というのは珍しいことではない。だが、その発言には本心というモノはない。穏やかではないが、ちょっとした合いの手、挨拶代わりの発言のようなモノに過ぎないといってもいい。
だが、少女のいう「地獄に落ちろ」ということばには混じり気のない純粋なる怒りと憎しみがあった。エミリにはそれが気になって仕方なかったのだろう。
「......は、バカじゃん?」
少女はいった。だが、そのことばには何処か苦し紛れというか、明らかな戸惑い、動揺があった。少女の目は泳いでいた。
「そんなこと、アンタたちがウザったいからに決まってるじゃん」
「そんな、ウザいから死ねとか殺すとか、そんな悲しいこといわないでよ」
エミリの目には涙が浮かんでいた。
「......は? 何キレイごといってんの?」
確かにキレイごとかもしれない。こころがキレイといえば聞こえはいいかもしれないが、今日日そんなことをいって人のこころを動かすことは殆ど不可能なことだといってもいい。何故ならーー
「キレイごとだよ......。でも、キレイごともいえないような世界になっちゃったら、そんなのすごく悲しいよ......」
少女はもはや戦意を喪失していた。祐太朗は静かに手を上げ、手のひらを少女のほうへと向けた。だが、それはーー
「待って」
エミリによって制された。
【続く】
エミリの声は部屋全体にキンッと響き、緊張状態にあった空気を更に緊迫させた。祐太朗は呆然とエミリを見詰めていた。いつもは大人しく、決して大声を出さないようなエミリが見せる初めての姿だった。
「......何?」
少女はふて腐れたようにいった。エミリはそんなことにはお構いなしといった様子で少女のほうへとゆっくりと歩み寄って行った。少女は退かなかった。むしろ、エミリを地獄に引き摺り込んでやろうとでもいわんばかりに姿勢を前のめりにして見せた。エミリは少女の目の前で足を止め、じっと少女のことを見詰めていた。
「......文句でもあんの?」
そう訊ねるとエミリは悲しげな目をした。
「何があったの.....?」
この質問には祐太朗だけでなく少女も戸惑いを見せた。だが、その一瞬見せた戸惑いもすぐさま払拭して、少女はいった。
「そんなこと、関係ないでしょ」
「うん、関係ないよね。でもさ、こんな風になってさ、同じくらいのわたしたちに地獄に落ちろだなんて、そんなこと普通はいえないよ......」
ある意味でエミリの発言はもっともだ。確かに子供同士、友達や同級生に対して「死ね」だとか「殺す」というのは珍しいことではない。だが、その発言には本心というモノはない。穏やかではないが、ちょっとした合いの手、挨拶代わりの発言のようなモノに過ぎないといってもいい。
だが、少女のいう「地獄に落ちろ」ということばには混じり気のない純粋なる怒りと憎しみがあった。エミリにはそれが気になって仕方なかったのだろう。
「......は、バカじゃん?」
少女はいった。だが、そのことばには何処か苦し紛れというか、明らかな戸惑い、動揺があった。少女の目は泳いでいた。
「そんなこと、アンタたちがウザったいからに決まってるじゃん」
「そんな、ウザいから死ねとか殺すとか、そんな悲しいこといわないでよ」
エミリの目には涙が浮かんでいた。
「......は? 何キレイごといってんの?」
確かにキレイごとかもしれない。こころがキレイといえば聞こえはいいかもしれないが、今日日そんなことをいって人のこころを動かすことは殆ど不可能なことだといってもいい。何故ならーー
「キレイごとだよ......。でも、キレイごともいえないような世界になっちゃったら、そんなのすごく悲しいよ......」
少女はもはや戦意を喪失していた。祐太朗は静かに手を上げ、手のひらを少女のほうへと向けた。だが、それはーー
「待って」
エミリによって制された。
【続く】