【帝王霊~漆拾伍~】

文字数 1,047文字

 目が覚めたら別の場所にいるーーそれほど恐ろしいことは他にあまりないだろう。

 だが、残念なことにあたしはそういう経験を過去に何度もしてしまっている。稀有といえば稀有なのだが、そんな経験したところで人生に役立つかといわれたらノーだろう。そもそもそんな経験はむしろ精神を強く傷つけるばかりで、メリットなどないに等しい。

 そして目が覚めた先に死んだはずのかつての因縁の相手が姿を変えて存在しているともなれば、そんな経験をしているのはあたしだけになるだろう。ほんと、どうでもいいような経験ばかりしているあたしって一体......。

「あぁ、思い出した」あたしはいった。「ヤーヌスのあったビルで誰かに殴られて気絶してたんだった。でも、何でこんなところにいるか、不思議で仕方ないねぇ」

 皮肉っぽくいってやった。だが、それはちょっとした疑問でもあった。あんな廃ビルから成人の女性ふたりーーしかもひとりは平均的な男性とあまり身長が変わらないーーをどうやってか運び出している。

 まぁ、人員に関してはどうせ適当に集めて来たのだろうけど、そもそも場所が場所なだけに絶対に目立つはずで、裏だろうが、況してや表から出るならば余計に人目をひくのはいうまでもない。大体、あんな廃ビルにあたしと詩織を隠せるようなモノなんか何もないだろうし、そもそもーー

 何だろう、この違和感は。

 突然そう思った。その違和感の明確な正体はわからなかった。だが、やはり何かが引っ掛かった。ひとついえるのは、あたしたちを外部に運び出すとしたら、当然、何かしらの道具、資材が必要となる。だが、そんな資材が廃ビルに残っているはずがない。

 普通の廃ビルならば、ね。

 そもそも、あの廃ビルは何故今もずっと建ち続けているのか。もちろん、崩そうとして不幸な事故があったというのもわかるが、ここは五村のストリートエリア。まぁまぁ栄えるストリートの中にあからさまな廃ビルがポツンと立ち続けているのは景観としてもよろしくはない。それに、ビル自体も清掃さえすれば全然使えるはずだし、曰くがあろうとなかろうと、当然、清掃の際にビル全体をお祓いするだろう。そんなお祓いでダメならば、詩織のような「そっちの世界」に通ずるプロフェッショナル頼めばいいはずだ。

 それに気になるのは、今現在の土地の権利者はこのビルのことをどう思っているのか、だ。こんな税金ばかりが掛かるだけで、何の価値もないような廃ビルをいつまでも何のメリットはないはずだ。まさかーー

 イヤな予感がした。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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