【手探りで歩いて】

文字数 2,142文字

 何をやっても上手くいかない時がある。

 所謂スランプというヤツだ。これは、少し手慣れてきて変なクセがついてしまった結果そうなっているというのも考えられるし、根本的に努力が足りないということもある。

 まぁ、努力が足りないといっても、それが初めて経験する分野の話だったら、恐らく殆どのことが上手くいかないことだろう。

 そもそも、何の知識もなければ経験もない状態だと、何をしていいのかもわからないし、どう立ち振る舞えばいいかなど見当もつかないはずだ。

 だから、新しいことを始めるときは、思考を捏ね繰り回しながら頑張るしかない。

 というワケで、一日置いて『五条氏の初舞台篇』ですわ。あらすじーー「キャストが発表され、五条氏は山田和雅を演じることとなったのだ!」

 珍しくまともなあらすじに神敬介も驚きだと思うんだけど、ここなんよな。パターンが画一化され始めてマンネリ臭くなってくるから、続きものって大変なんよ。

 そう考えると、単発ものはそこらへんを考えずに、構成だけを適当に考えればいいから楽。

 とまぁ、そんな話なんか聴きたくないだろうから、さっさと始めてくわ。

 さて、本役が決まり本格的にセリフ覚えに入ったのだけど、病人という役柄もあって登場シーンは少なめだったお陰で、一週間程度ですべてのセリフを頭に入れることができたのだ。まぁ、物覚えはいいほうでね。

 で、次の稽古の時点で台本を持たずともセリフを出せるようになったのだけど、そしたら流石に驚嘆されたよな。やる気があったんよ。

 とはいえ、シナリオの流れを把握することも考えて、ということで、台本を見ながらの本読みに臨むこととなった。

 が、やはりわからないのは、「病人らしさ」というものだ。

 いくら本読みをしたところで、必ずといっていいほど「病人らしく」というダメ出しがくる。おれは完全に迷走していた。

 稽古も終わり、アフターの場所が決まるとあおいと共にアフターへ向かう。そこであおいがこういったのだーー

「尚子さん、ちょっと悩んでるんだって」

 尚子さんとは、『ブラスト』の古参メンバーのひとりで、今回のおれの相手役の人だ。

 おれの書くシナリオの和雅は独り者だが、オリジナルの和雅には、『双葉』という彼女がいたのだ。まぁ、設定的には従兄弟同士という波紋を呼びそうな感じではあるけど、献身的でよくできた彼女だったのだ。

 まぁ、病気で自分が長くないと知っている和雅は、彼女をフッて自分のことを忘れさせようとしているのだけど、健気な双葉はそんなことにはお構いなしで看病を続けているワケだ。

 少し話は逸れるけど、そこも和雅の難しいところだった。「あと少しで死ぬ病人の感情と仕草」に加え、「死んでしまう自分のことを忘れて幸せに暮らして欲しいと彼女をフる彼氏の気持ち」、このふたつを芝居の中で表現しなければならなかった。うん、ド素人がやるような役ではない。改めていうーー

 ド素人がやるような役ではない。

 話を戻すわーー

 で、尚子さんは双葉役であり、おれの相手役でもあるのだけど、あおい曰く、尚子さんが悩んでいる理由はーー

 実年齢と役の年齢が二〇違うことにあった。

 双葉の設定年齢は二五歳。だが、尚子さんの当時の年齢は、四五歳。加えて、おれの年齢と和雅の設定年齢が二四歳であることもあって、尚子さんは、

「わたしと五条くんじゃ、親子にしか見えないんじゃないか」

 と気にしているというのだ。

 これが小学生役とかだったら、まだいいのだ。演出に依るとはいえ、そこまで突き抜けると、逆にステレオタイプ的な演じ方で何とかなるので、それっぽく見える人が演じれば、年齢も気にならないのだけど、二五歳ともなると非常に微妙な年齢なのだ。

 二五歳ーー若いには若いのだが、特筆するほど若いともいえないような微妙な年齢で、精神的にも地味に不安定。非常に複雑な年代。

 個人的には、尚子さんが双葉を演じてもビジュアル的には全然違和感はないと思っていたのだけど、確かに精神的な年齢の差を埋めるのは難しい。

 とはいえ、おれは尚子さんが相手役でよかったと思っていた。というのも、彼女は経験も長く、芝居も上手で、相手役としては充分過ぎるほどの人だったからだ。

 アフターを終え、家に帰ると、おれは尚子さんにメッセージを送った。内容はシンプルに、「尚子さんが相手役でよかった。一緒に頑張りましょう」みたいな感じだったと思う。

 翌日になって、尚子さんからメッセージが届いた。内容としてはーー

「ありがとう。自分としても今までにないような役で戸惑ってはいるけど、一緒に頑張りましょう! よろしくね!」

 みたいな感じだったと思う。おれとしても嬉しい限りだった。自分はひとりではない。そう、舞台というものは、ひとりで作り上げるものではないのだ。おれはひとり静かに闘志を燃やすのだったーー

 とまぁ、今日はこんな感じだな。次回はーーどうしようかな。内容としては本読みから荒立ちに移るぐらいか。もし気が変わったら、詐欺アカウントの話の続き書くわ。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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