【一年三組の皇帝~死拾捌~】

文字数 1,057文字

 分相応ということばを聞いたことがある。

 早い話が、その人にとってそれをすることが、或いはそうであることが似合いの身分かどうかということだ。

 今のぼくがやっていることといえば、その分相応からは外れているというのは自分でもわかっていた。いうなれば、常連どころか初めて来たラーメン屋で偉そうな顔して「いつもの!」とかいってしまうようなモノだ。

 ひとつのグループ、コミュニティに長くいることはとても大事なことである。というのは、長くいるというだけで、そこでの『権利』が与えられるからだ。

 具体的にどんな権利かといえば、シンプルにそこにいていい権利、メインで話す権利、何かを提案する権利ーーその流れからいえば、ぼくが初めてきたコミュニティで自分からディーラーをやりたいだなんて提案するのは言語道断もいいところだった。

 それを象徴するように、回りの表情は曇っていた。何でお前なんかがやるんだよ。そんなこころの声が聴こえて来るようだった。もはやこの時点でぼくの要望は却下されたも同然だったが、ぼくには確信があった。

「へぇ、ハマって来たんだね」関口がいった。「いいよ。ディーラーやりなよ」

 天のひと声。誰も天からのことばを遮ることは出来ないーー背信者でもない限り。関口のひとことでぼくに対して拒絶の表情を浮かべていた人たちの顔が不服ながら、という様子に変わった。

 そう、関口はもはやこの時点でこの一年三組の支配者、一年三組の皇帝となっていた。

 ぼくは皇帝に認められ反逆を許された奴隷でしかない。だが、ぼくにはもはや背負うモノなどない。クラスの平和。そんなモノは極端なことをいってしまえば、ぼくやハルナではなく、ヤエちゃんがやるべきこと。このクラスが皇帝の手に墜ちるかどうかはぼくには関係ない話だった。

 ぼくはカードの束を受け取り、シャッフルし始めた。カードの感触自体には特に違和感はなかった。変にカードが固まっている感じも、縁が切り取られてひとまわり小さくなっている感じもなかった。

 とすると、彼らがやっているのはやはり通しか。机の下ならそんな通しをぼくに気づかれることなく堂々と行うことが出来る。何もわからず、自分の手札にだけ注目していれば、それだけで死角なのはいうまでもなかった。ということは、死角をつっかえさせるしか、ぼくに勝つ方法はないだろう。

 ぼくはひとり一人にカードを配っていった。そして、最後、自分のカード。見えているのは鮮やかな柄を持ったトランプの裏面だけ。さて、ここからだ。

 ぼくは大きく伸びをした。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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