【一年三組の皇帝~拾四~】
文字数 1,241文字
パスタのミートソースのにおいがぼくの鼻腔をくすぐった。
とてもいいにおいだ。他には焼いた明太子のにおい、そしてドリア。ぼくは目の前に置かれたコップを手に取り、中に入った泡立つメロンソーダを口にする。何処か水っぽいし、このシチュエーション下では美味しさもろくに感じられない。
パスタをラーメンやうどんを啜るようにズルズル啜る音が聴こえた。品がないというか、ワイルドというか。
ぼくは自分の今ある状況に困惑していた。恐らく、変に緊張しているのだろう。さっきからメロンソーダを何度も飲み干してはおかわりするのを繰り返しているのは、それが原因なのだろう。
ぼくの目の前には辻が座っていた。その横にはヒョロガリの海野、そして、ぼくのとなりに座るはチビデブの山路。三人とも美味そうに自分の前にある料理を食べていた。
そう、ぼくは辻たちとファミレスにいた。誰が誘ったかといえば、辻だった。
理解が出来なかった。そもそもこの三人とぼくは、和田の件でわだかまりがある。そんな相手をご飯に誘うなんてどういうことだろう。カツあげ?ーーそれならファミレスになんか来ないだろう。必要なのは日陰に立ちはだかるコンクリートの壁だけだ。
「さっきから食ってばっかだけどさ」ぼくは食い意地の張った不良三人組にいった。「一体、何の用?」
「いいから座ってろよ」
「そうだぞ」
山路がいい、続いて海野がいった。
座ってろも何も、ぼくは奥側の席で、立って出て行こうにも山路が邪魔で出ていけない。囲われているといえばその通り。だが、そんな逃げ道を封じるような殺伐とした空気感はそこにはなかった。
「お前、食わねえのかよ」山路がいった。
「いや。だって財布持ってねえし」
実際持っていなかった。仮に持っていたって、コイツらに財布を持っていることを悟られていい結果になる未来が想像出来ないのはいうまでもなかった。
「だから奢るっていってるだろ?」
海野がいった。ますます怪しい。この不良たちが因縁のあるぼくにメシを奢る? 仮にそれが本当だとしても、その裏に何かしらの魂胆が眠っているとしか思えなかった。
「そうはいってもなぁ......」
ぼくは困惑していた。かと思いきや、ミートソースのパスタを食べきった辻がオジサンのような大きなため息をついて、
「食った食った」
といった。非常に満足気だ。コイツらの思惑がまったく測れなかった。ぼくはついに痺れをきらしていった。
「で、用件は?」
ぼくがそう訊ねると、辻はぼくのほうを真っ直ぐに見た。口許にミートソースが付いていたのが何ともマヌケだった。
「それなんだけど、よ」
漸く辻が口を開いた。中間程度の声のトーン。低くもなければ高くもない。辻はすぐには話し出さなかった。どうやって話を切り出せばいいか迷っているようだった。それが本当だとしたら、お互いさまだ。
が、辻は突然にぼくのほうを見て、何かを決意したかのように咳払いをすると、静かに口を開いた。
「お前、『ネイティブ』のことどう思う?」
【続く】
とてもいいにおいだ。他には焼いた明太子のにおい、そしてドリア。ぼくは目の前に置かれたコップを手に取り、中に入った泡立つメロンソーダを口にする。何処か水っぽいし、このシチュエーション下では美味しさもろくに感じられない。
パスタをラーメンやうどんを啜るようにズルズル啜る音が聴こえた。品がないというか、ワイルドというか。
ぼくは自分の今ある状況に困惑していた。恐らく、変に緊張しているのだろう。さっきからメロンソーダを何度も飲み干してはおかわりするのを繰り返しているのは、それが原因なのだろう。
ぼくの目の前には辻が座っていた。その横にはヒョロガリの海野、そして、ぼくのとなりに座るはチビデブの山路。三人とも美味そうに自分の前にある料理を食べていた。
そう、ぼくは辻たちとファミレスにいた。誰が誘ったかといえば、辻だった。
理解が出来なかった。そもそもこの三人とぼくは、和田の件でわだかまりがある。そんな相手をご飯に誘うなんてどういうことだろう。カツあげ?ーーそれならファミレスになんか来ないだろう。必要なのは日陰に立ちはだかるコンクリートの壁だけだ。
「さっきから食ってばっかだけどさ」ぼくは食い意地の張った不良三人組にいった。「一体、何の用?」
「いいから座ってろよ」
「そうだぞ」
山路がいい、続いて海野がいった。
座ってろも何も、ぼくは奥側の席で、立って出て行こうにも山路が邪魔で出ていけない。囲われているといえばその通り。だが、そんな逃げ道を封じるような殺伐とした空気感はそこにはなかった。
「お前、食わねえのかよ」山路がいった。
「いや。だって財布持ってねえし」
実際持っていなかった。仮に持っていたって、コイツらに財布を持っていることを悟られていい結果になる未来が想像出来ないのはいうまでもなかった。
「だから奢るっていってるだろ?」
海野がいった。ますます怪しい。この不良たちが因縁のあるぼくにメシを奢る? 仮にそれが本当だとしても、その裏に何かしらの魂胆が眠っているとしか思えなかった。
「そうはいってもなぁ......」
ぼくは困惑していた。かと思いきや、ミートソースのパスタを食べきった辻がオジサンのような大きなため息をついて、
「食った食った」
といった。非常に満足気だ。コイツらの思惑がまったく測れなかった。ぼくはついに痺れをきらしていった。
「で、用件は?」
ぼくがそう訊ねると、辻はぼくのほうを真っ直ぐに見た。口許にミートソースが付いていたのが何ともマヌケだった。
「それなんだけど、よ」
漸く辻が口を開いた。中間程度の声のトーン。低くもなければ高くもない。辻はすぐには話し出さなかった。どうやって話を切り出せばいいか迷っているようだった。それが本当だとしたら、お互いさまだ。
が、辻は突然にぼくのほうを見て、何かを決意したかのように咳払いをすると、静かに口を開いた。
「お前、『ネイティブ』のことどう思う?」
【続く】