【帝王霊~拾捌~】
文字数 2,208文字
整備された川沿いの通りには、ブルーシートが掛けられた建物が軒を連ねている。
ホームレスの居住地となっているここら辺一体では、在りモノで組まれた『ホームレスの家』がたくさんあり、その一帯には垢まみれの皮膚に埃まみれの衣服姿のホームレスで溢れ返っている。
「ウェインけいじ? 何だよそれ」
通りを歩きながら祐太朗が訊ねると、弓永はつまらなそうな表情で答える。
「売れない三流芸人さ。OurTubeで名前検索してみろ。クソみたいなネタ動画がヘドが出るほど引っ掛かる」心底不快、といった様子で弓永は吐き捨てる。
「何だそれ。どうせ視聴数も大したことないし、コメントもついてないんだろ?」
「まあな。だが、粘着質なアンチが酷評のコメントを書き込みまくってる」
「下らねえ。三流に粘着したって何の足しにもならねぇんだけどな」
「人間、自分よりも下等なヤツにマウントを取りたがるモンだ。わかるだろ?」
「つまり、テメェはおれのことを下等だと思ってるってことか?」
「逆にお前は、おれがお前を下等だと思っていないと思ってたのか?」
「類は友を呼ぶって諺知ってるか?」
「王が君臨するには奴隷が必要って知ってるか?」
「あぁ、もううるせぇ。質問を質問で返すっておれたちが嫌われモン同士なのは間違いねえってことはわかったよ」
「お前とおれじゃアキレスと亀だ。一緒にすんのもおこがましいって自覚しな」
「おれが亀でお前がアキレスか。ならお前は一生おれに追い付けないな。わかったから、早くその『ワンダフォー高橋』について教えろよ」
「『ウェインけいじ』な。鳥頭にしてもその間違いはどうかと思うぞ」
「はいはい。憎まれ口より詳細をどうぞ。不毛な悪口だけで一年を終わらせるとか、つまらねえ人生を送りたかねえだろ」
「お前が相手だと十年もあっという間だろうな。まぁ、いいーー」そう紡いで弓永は件の『ウェインけいじ』について語り出す。
ウェインけいじ。その本名は『上井圭次』という。表向きは売れない三流芸人だが、その裏では『ヤーヌス・コーポレーション』の代表取締役、成松と癒着して様々な活動をしていた、と弓永は語る。その様々な活動とは、闇カジノの支配人、その他と闇の深いモノだという。
「なるほどな。でも、成松は死に、『ヤーヌス』とかいう会社はもう潰れてる。じゃあ、そのウェインとかいう野郎は今何してんだ?」
「お前、おれたちが何で今ここを歩いてるか、わからないのか?」
「……まさか?」
「そのまさか、さ」
弓永はすぐ近くに立っているブルーシートハウスを思い切り蹴っ飛ばす。簡易的な構造のハウスが悲鳴を上げる。
「おい、クソ芸人。いるんだろ?」
だが、ハウスからは何の反応もない。弓永は舌打ちし、再びハウスを何度も蹴り飛ばす。
「上井! 返事しろ! しないならテメェを狙ってる連中に売るぞ!」
「おい、大丈夫なのかよ……?」流石の祐太朗も不安そうに顔を歪める。
「大丈夫だよ、こんな野郎は。ふざけやがって。シカトこくつもりか、あぁ!?」
尚もハウスを蹴り続ける弓永。上井のモノと見られるハウスと弓永、祐太朗を取り巻くようにして眺めるホームレスたち。その目付きは好奇心と恐怖の間で揺れているようだ。が、そんな目が、この男を怒らせる。
弓永はハウスを蹴るのを止め、自分たちを取り巻くホームレスたちを睨み付ける。
「見せモンじゃねえぞ、垢を塗り固めた面しやがって。今すぐ消えないと次はテメエらのハウスもぶっ壊すぞ」
そういうと蜘蛛の子を散らすように、ホームレスたちは散っていく。その様を見て、弓永はハウスを再び蹴りつける。
「ウェイン! ウェインけいじ! テメエいい加減にしないと税金で雨風凌がせるぞ。聞いてんのか、クソピエロ!」
「止めろ! 止めてくれ!」
ハウスから悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、シートは開かれ、その隙間から男の顔が現れる。黒い皮膚に痩せこけた顔。髪はところどころが白くなっており、脂でパサパサ。
「アンタ、何でこんなことするんだ……」
上井の声は悲痛に満ちている。が弓永は情け容赦なく上井の胸ぐらを掴む。
「くせぇな。少しは身体を洗ったらどうだ」
「何で……」
「質問に答えろよ」弓永が上井の胸ぐらをぐっと引き寄せて威圧する。
「洗ってもダメなんだ……。川の水は汚いし、水道の水で洗ってもたかが知れてる。そんなことより何でこんなことをするんだ……」
「コイツの仕事はーー」祐太朗は弓永を指していう。「五村に暴力と無秩序を蔓延らせることだからな」
「世の中には保護してやるべき人間と弾圧すべき人間の二種類しかいない。犯罪者を保護すべきとか考えてる人権派のゴミクズは自分が犯罪者と何ら変わりないって思い知るべきだ」
「流石サイコ野郎。優生主義だなんて、マジもんの独裁者だな」
「無秩序には無秩序を、だ。平気な顔して道を踏み外す、金と暴力こそが力だと勘違いしているゴミは粛清してやるくらいでちょうどいい」
「お願いです……! 何でもしますから、わたしのことは放っておいて下さい……!」
上井のことばが悲痛に響く。弓永はいう。
「何でも、か。じゃあ今ここで自殺しろっていったら自殺するってことだよな?」
「お願いですから、許して下さい」
「許してやってもいいが、その代わり条件がある。そしたら放っておいてやるよ」
弓永の凶悪な笑みに、祐太朗は呆れ顔で応えた。
【続く】
ホームレスの居住地となっているここら辺一体では、在りモノで組まれた『ホームレスの家』がたくさんあり、その一帯には垢まみれの皮膚に埃まみれの衣服姿のホームレスで溢れ返っている。
「ウェインけいじ? 何だよそれ」
通りを歩きながら祐太朗が訊ねると、弓永はつまらなそうな表情で答える。
「売れない三流芸人さ。OurTubeで名前検索してみろ。クソみたいなネタ動画がヘドが出るほど引っ掛かる」心底不快、といった様子で弓永は吐き捨てる。
「何だそれ。どうせ視聴数も大したことないし、コメントもついてないんだろ?」
「まあな。だが、粘着質なアンチが酷評のコメントを書き込みまくってる」
「下らねえ。三流に粘着したって何の足しにもならねぇんだけどな」
「人間、自分よりも下等なヤツにマウントを取りたがるモンだ。わかるだろ?」
「つまり、テメェはおれのことを下等だと思ってるってことか?」
「逆にお前は、おれがお前を下等だと思っていないと思ってたのか?」
「類は友を呼ぶって諺知ってるか?」
「王が君臨するには奴隷が必要って知ってるか?」
「あぁ、もううるせぇ。質問を質問で返すっておれたちが嫌われモン同士なのは間違いねえってことはわかったよ」
「お前とおれじゃアキレスと亀だ。一緒にすんのもおこがましいって自覚しな」
「おれが亀でお前がアキレスか。ならお前は一生おれに追い付けないな。わかったから、早くその『ワンダフォー高橋』について教えろよ」
「『ウェインけいじ』な。鳥頭にしてもその間違いはどうかと思うぞ」
「はいはい。憎まれ口より詳細をどうぞ。不毛な悪口だけで一年を終わらせるとか、つまらねえ人生を送りたかねえだろ」
「お前が相手だと十年もあっという間だろうな。まぁ、いいーー」そう紡いで弓永は件の『ウェインけいじ』について語り出す。
ウェインけいじ。その本名は『上井圭次』という。表向きは売れない三流芸人だが、その裏では『ヤーヌス・コーポレーション』の代表取締役、成松と癒着して様々な活動をしていた、と弓永は語る。その様々な活動とは、闇カジノの支配人、その他と闇の深いモノだという。
「なるほどな。でも、成松は死に、『ヤーヌス』とかいう会社はもう潰れてる。じゃあ、そのウェインとかいう野郎は今何してんだ?」
「お前、おれたちが何で今ここを歩いてるか、わからないのか?」
「……まさか?」
「そのまさか、さ」
弓永はすぐ近くに立っているブルーシートハウスを思い切り蹴っ飛ばす。簡易的な構造のハウスが悲鳴を上げる。
「おい、クソ芸人。いるんだろ?」
だが、ハウスからは何の反応もない。弓永は舌打ちし、再びハウスを何度も蹴り飛ばす。
「上井! 返事しろ! しないならテメェを狙ってる連中に売るぞ!」
「おい、大丈夫なのかよ……?」流石の祐太朗も不安そうに顔を歪める。
「大丈夫だよ、こんな野郎は。ふざけやがって。シカトこくつもりか、あぁ!?」
尚もハウスを蹴り続ける弓永。上井のモノと見られるハウスと弓永、祐太朗を取り巻くようにして眺めるホームレスたち。その目付きは好奇心と恐怖の間で揺れているようだ。が、そんな目が、この男を怒らせる。
弓永はハウスを蹴るのを止め、自分たちを取り巻くホームレスたちを睨み付ける。
「見せモンじゃねえぞ、垢を塗り固めた面しやがって。今すぐ消えないと次はテメエらのハウスもぶっ壊すぞ」
そういうと蜘蛛の子を散らすように、ホームレスたちは散っていく。その様を見て、弓永はハウスを再び蹴りつける。
「ウェイン! ウェインけいじ! テメエいい加減にしないと税金で雨風凌がせるぞ。聞いてんのか、クソピエロ!」
「止めろ! 止めてくれ!」
ハウスから悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、シートは開かれ、その隙間から男の顔が現れる。黒い皮膚に痩せこけた顔。髪はところどころが白くなっており、脂でパサパサ。
「アンタ、何でこんなことするんだ……」
上井の声は悲痛に満ちている。が弓永は情け容赦なく上井の胸ぐらを掴む。
「くせぇな。少しは身体を洗ったらどうだ」
「何で……」
「質問に答えろよ」弓永が上井の胸ぐらをぐっと引き寄せて威圧する。
「洗ってもダメなんだ……。川の水は汚いし、水道の水で洗ってもたかが知れてる。そんなことより何でこんなことをするんだ……」
「コイツの仕事はーー」祐太朗は弓永を指していう。「五村に暴力と無秩序を蔓延らせることだからな」
「世の中には保護してやるべき人間と弾圧すべき人間の二種類しかいない。犯罪者を保護すべきとか考えてる人権派のゴミクズは自分が犯罪者と何ら変わりないって思い知るべきだ」
「流石サイコ野郎。優生主義だなんて、マジもんの独裁者だな」
「無秩序には無秩序を、だ。平気な顔して道を踏み外す、金と暴力こそが力だと勘違いしているゴミは粛清してやるくらいでちょうどいい」
「お願いです……! 何でもしますから、わたしのことは放っておいて下さい……!」
上井のことばが悲痛に響く。弓永はいう。
「何でも、か。じゃあ今ここで自殺しろっていったら自殺するってことだよな?」
「お願いですから、許して下さい」
「許してやってもいいが、その代わり条件がある。そしたら放っておいてやるよ」
弓永の凶悪な笑みに、祐太朗は呆れ顔で応えた。
【続く】