【好きだといえない男たち】
文字数 2,647文字
異性に「好きだ」と伝えるられるだろうか。
これは出来る人には難なく出来てしまうが、苦手な人はとことん苦手なことだと思う。
かくいうおれはというと、とても苦手で、女性に対して「好きだ」と伝えることは、人生におけるベリーハードな項目だといってもいい。
そんなことをいうと童貞かと思われかねないけど、一応童貞ではない。ただ、どうも女性に好きだと伝えることに関してはいつまで経っても得意にはなれない。
改めてその理由を考えてみると、もしかしたら三年間の男子校生活と、女子が殆どいない大学工学部の影響が大きいのかもしれない。
実際、同性しかいないような空間にずっと身を置いていると、異性との付き合い方がわからなくなるのは当たり前にある話だ。
更におれの場合はそれプラス、過去の恋愛においてちょっとしたトラウマめいたモノがあることも理由としてはあるのだけど、どうもおれは異性に対して素直になれない部分がある。
まぁ、素直になれないといっても、異性に対して「やーい、ブスッ!」みたいなことはいわないんだけどね。この歳になってそれいってたら、セクハラだし、ナチュラルにヤバいしな。それはさておきーー
学生時代は女子から滅茶苦茶に嫌われていたことで有名な五条氏ではあるけれど、そんなおれの恋愛観というのは、どこか中学時代で止まってしまった感がなくもない。
というか、いい年して、未だに中学生みたいなドキドキを胸に秘めているとか、普通にキモいんだけど、やっぱ、好きな異性に対して、おれはどうも中学生に戻ってしまう。
え、普段から中学生レベル?ーーそれは否定できないな。
最近でも、よっしーから「ほんと、男子校出身って感じだよね」といわれたばかり。どんなに人を欺こうとも、そういった不器用さはどうにも隠せないらしい。
そして、それは何も日常生活の中だけのことではない。
いつだったか、東進の林先生が、「モテる小説家の文章とモテない小説家の文章は違う」といっていたけど、これはその通りだと思う。
モテない男の描く女性はどこまでも理想的で自分に優しい。だが、モテる男が描く女性は地に足がついており、妙にリアルだ。
女性に対する扱いに関してもそうで、モテないヤツは、自分の内の中で好きな女性をどこまでも神格化して崇めるが、結果として自分の中で葛藤するばかりで、その気持ちを伝えるタイミングを逃してばかりになる。
モテるヤツというのは、その逆で、あくまで現実の存在として相手を見いだし、然るべきタイミングを見計らって等身大の気持ちを相手に伝えるため、いつだって横には女性がいる。
何と残念な現実。男はどこかでケジメをつけなければならない。でなければ、相手から愛されることなど、一生ないのだ。
さて、『遠征芝居篇』の第四回である。ちょうどよっしーの名前も出て来て、タイミングもよろし。あらすじーー
「森ちゃんから芝居の話を聞くために、古巣である『ブラスト』に訪れた五条氏。その稽古後に訪れた居酒屋にて、よっしー、ゆうことともに森ちゃんから話を聞くことに。曰く、芝居は恋愛モノで、おれはメインの男性キャストとのことだった。話を聞き終えると、その後に訪れたカラオケ店にて森ちゃんに団体名の案を問われる。そこで、おれは『デュオニソス』と答え、団体名が決定したのだった」
と、こんな感じか。毎度のことだけど、詳しくは前回の記事を参照な。じゃ、やってくーー
団体名が決まると『デュオニソス』のメンバー、四人のグループトークが作成され、そこでよっしーとゆうこに団体名を告げた。
まぁ、反応としては「何、それ」といった感じ。それもそうよな。
団体名はさておき、それから稽古の日程について話し合う。よっしーとゆうこに関しては確定のメンツではなかったが、日程次第で是非やりたいということだったので、本キャストとして話を進めようということになっていた。
それから最初の稽古の予定を立てた。日時は四月の頭の昼過ぎから。場所は森ちゃんのお母さんが所有している自宅横の集会場とのことだった。
稽古当日、電車に乗って都内の某駅まで行き、全員揃って集会場まで行った。
集会場に着くと早速今回の台本が配られる。
枚数的にいえば、中篇というところだろうか。ページをパラパラと捲って流し読みし、自分のセリフを何となく確かめる。
長ゼリフはない。ただ、メインの登場人物ということもあってか、全体に満遍なくセリフがある。まぁ、四人の芝居だからセリフが多くなるのも必然なんだけどな。
それから、早速台本を読んでいこうということになった。が、そこでちょうど来客がーーリョータくんだった。
リョータくんは、この前の『ブラスト』での公演の際に、おれと共にゲストとして出演した森ちゃんの友人だった。年齢的にはおれのひとつ上。ゲームが好きで、おれとは打ち解けるのも必然的、といった感じだった。
「やぁ、久しぶり」
朴訥な調子でいうリョータくん。懐かしい響き。リョータくんにト書きを読むのをお願いし、早速台本読みに移った。
感想としては、演じるのは難しいけど、とても親近感の沸く良い役柄といった感じ。
おれが演じることとなる「冬樹」は、エリートで仕事に精を出してはいるが、不器用で自分の気持ちに正直になれない男だった。
エリートで仕事に精を出しているという点は、おれとは真逆という感じではあるけど、不器用で自分の気持ちに正直になれないというのは、とても共感できた。
個人的に、演じる役とのファーストコンタクトは重要だと思っている。
現にファーストコンタクトが最悪だった役は、やっても面白くも何ともなく、やっていて非常に不愉快だったりするのだけど、ファーストコンタクトがいい役は、仮に大変でも、全然キツくない。むしろ、楽しくて仕方がない。
この役もそうだった。ファーストコンタクトが非常に良かったのだ。境遇は違えど親近感を覚えるような男で、おれは是非とも彼を演じてみたいと思った。強く思った。
それから、何度か読みを繰り返したのだけど、やはりおれも変にシャイで。男女の会話のシーンになると、どうにも恥ずかしくなってしまうのだ。恥ずかしさを捨ててとはいわれたけれども、それには少し時間が必要。
結局、それからもミスし通しだったけど、気持ちは晴れやかだった。
いい男と出会った。
おれは自分に正直になれない「冬樹」という新しい友人を胸に、これからの展開に胸を膨らませるのだった。
【続く】
これは出来る人には難なく出来てしまうが、苦手な人はとことん苦手なことだと思う。
かくいうおれはというと、とても苦手で、女性に対して「好きだ」と伝えることは、人生におけるベリーハードな項目だといってもいい。
そんなことをいうと童貞かと思われかねないけど、一応童貞ではない。ただ、どうも女性に好きだと伝えることに関してはいつまで経っても得意にはなれない。
改めてその理由を考えてみると、もしかしたら三年間の男子校生活と、女子が殆どいない大学工学部の影響が大きいのかもしれない。
実際、同性しかいないような空間にずっと身を置いていると、異性との付き合い方がわからなくなるのは当たり前にある話だ。
更におれの場合はそれプラス、過去の恋愛においてちょっとしたトラウマめいたモノがあることも理由としてはあるのだけど、どうもおれは異性に対して素直になれない部分がある。
まぁ、素直になれないといっても、異性に対して「やーい、ブスッ!」みたいなことはいわないんだけどね。この歳になってそれいってたら、セクハラだし、ナチュラルにヤバいしな。それはさておきーー
学生時代は女子から滅茶苦茶に嫌われていたことで有名な五条氏ではあるけれど、そんなおれの恋愛観というのは、どこか中学時代で止まってしまった感がなくもない。
というか、いい年して、未だに中学生みたいなドキドキを胸に秘めているとか、普通にキモいんだけど、やっぱ、好きな異性に対して、おれはどうも中学生に戻ってしまう。
え、普段から中学生レベル?ーーそれは否定できないな。
最近でも、よっしーから「ほんと、男子校出身って感じだよね」といわれたばかり。どんなに人を欺こうとも、そういった不器用さはどうにも隠せないらしい。
そして、それは何も日常生活の中だけのことではない。
いつだったか、東進の林先生が、「モテる小説家の文章とモテない小説家の文章は違う」といっていたけど、これはその通りだと思う。
モテない男の描く女性はどこまでも理想的で自分に優しい。だが、モテる男が描く女性は地に足がついており、妙にリアルだ。
女性に対する扱いに関してもそうで、モテないヤツは、自分の内の中で好きな女性をどこまでも神格化して崇めるが、結果として自分の中で葛藤するばかりで、その気持ちを伝えるタイミングを逃してばかりになる。
モテるヤツというのは、その逆で、あくまで現実の存在として相手を見いだし、然るべきタイミングを見計らって等身大の気持ちを相手に伝えるため、いつだって横には女性がいる。
何と残念な現実。男はどこかでケジメをつけなければならない。でなければ、相手から愛されることなど、一生ないのだ。
さて、『遠征芝居篇』の第四回である。ちょうどよっしーの名前も出て来て、タイミングもよろし。あらすじーー
「森ちゃんから芝居の話を聞くために、古巣である『ブラスト』に訪れた五条氏。その稽古後に訪れた居酒屋にて、よっしー、ゆうことともに森ちゃんから話を聞くことに。曰く、芝居は恋愛モノで、おれはメインの男性キャストとのことだった。話を聞き終えると、その後に訪れたカラオケ店にて森ちゃんに団体名の案を問われる。そこで、おれは『デュオニソス』と答え、団体名が決定したのだった」
と、こんな感じか。毎度のことだけど、詳しくは前回の記事を参照な。じゃ、やってくーー
団体名が決まると『デュオニソス』のメンバー、四人のグループトークが作成され、そこでよっしーとゆうこに団体名を告げた。
まぁ、反応としては「何、それ」といった感じ。それもそうよな。
団体名はさておき、それから稽古の日程について話し合う。よっしーとゆうこに関しては確定のメンツではなかったが、日程次第で是非やりたいということだったので、本キャストとして話を進めようということになっていた。
それから最初の稽古の予定を立てた。日時は四月の頭の昼過ぎから。場所は森ちゃんのお母さんが所有している自宅横の集会場とのことだった。
稽古当日、電車に乗って都内の某駅まで行き、全員揃って集会場まで行った。
集会場に着くと早速今回の台本が配られる。
枚数的にいえば、中篇というところだろうか。ページをパラパラと捲って流し読みし、自分のセリフを何となく確かめる。
長ゼリフはない。ただ、メインの登場人物ということもあってか、全体に満遍なくセリフがある。まぁ、四人の芝居だからセリフが多くなるのも必然なんだけどな。
それから、早速台本を読んでいこうということになった。が、そこでちょうど来客がーーリョータくんだった。
リョータくんは、この前の『ブラスト』での公演の際に、おれと共にゲストとして出演した森ちゃんの友人だった。年齢的にはおれのひとつ上。ゲームが好きで、おれとは打ち解けるのも必然的、といった感じだった。
「やぁ、久しぶり」
朴訥な調子でいうリョータくん。懐かしい響き。リョータくんにト書きを読むのをお願いし、早速台本読みに移った。
感想としては、演じるのは難しいけど、とても親近感の沸く良い役柄といった感じ。
おれが演じることとなる「冬樹」は、エリートで仕事に精を出してはいるが、不器用で自分の気持ちに正直になれない男だった。
エリートで仕事に精を出しているという点は、おれとは真逆という感じではあるけど、不器用で自分の気持ちに正直になれないというのは、とても共感できた。
個人的に、演じる役とのファーストコンタクトは重要だと思っている。
現にファーストコンタクトが最悪だった役は、やっても面白くも何ともなく、やっていて非常に不愉快だったりするのだけど、ファーストコンタクトがいい役は、仮に大変でも、全然キツくない。むしろ、楽しくて仕方がない。
この役もそうだった。ファーストコンタクトが非常に良かったのだ。境遇は違えど親近感を覚えるような男で、おれは是非とも彼を演じてみたいと思った。強く思った。
それから、何度か読みを繰り返したのだけど、やはりおれも変にシャイで。男女の会話のシーンになると、どうにも恥ずかしくなってしまうのだ。恥ずかしさを捨ててとはいわれたけれども、それには少し時間が必要。
結局、それからもミスし通しだったけど、気持ちは晴れやかだった。
いい男と出会った。
おれは自分に正直になれない「冬樹」という新しい友人を胸に、これからの展開に胸を膨らませるのだった。
【続く】