【ナナフシギ~拾玖~】
文字数 1,230文字
手の中で死んだように萎れるリボンが泣いていた。
「これ、どう思う?」弓永が訊ねた。
「え......?」動揺する森永。「石川先生の、なのかな......? 案外違うんじゃね? ほら、そういうリボンって何処にでもあるだろ?」
「うちの学校の先生の中で、こんなオシャレなリボンをする先生がいるか?」
当然のことながら五村西小には石川先生以外にも数人の女性教師がいる。だが、そんな中でもいちばん若く、センスのある人物は石川先生しかいなかった。他の女性教師は何処かセンスが古びていたし、年齢的にも30代を上回る者ばかり。セットが面倒だからか髪も短く切り揃えている者も多かった。
「......でも、わかんねえじゃん! 似合わなくても若作りっていうかさ、無理して使ってるのもいるかもしれねえし、石川先生のだって断言はーー」
「それもゼロではねえけどさ」弓永はいいづらそうにいった。「今日の当直、女の先生は石川先生だけだよ。それに、仮にこれが別の先生の落とし物だとしたら、とっくに拾われて保管されてるはずだ」
森永はことばを失ったが、またすぐに何かを思い付いたように、ヘラヘラした笑みを浮かべて口を開いた。
「も、もしかしたら、生徒のじゃねえかな」
「生徒のなら尚更だ。終業式で下校時間は早いし、そんな早い時間に落としたモノなら誰かしら先生が見つけてるだろうし、保管されてる可能性のほうが高い。もし可能性があるなら、おれたちみたいに学校に忍び込んだ女子がいるかもしれないって話だけど......」
「そうだよ! てか忍び込んだのがおれたちだけとは限らねえじゃん! ナナフシギのウワサは学校中に広まってんだし、同じようなヤツがいたってーー」
「お前、リボンがほどけたらどうなるかわかってるか」
人を小バカにしたようなことばではあったが、弓永の表情は真剣そのモノだった。だが、森永は、
「お前、人をバカにすんのもいい加減にしろよ? おれ、頭悪いけど、そこまでじゃねえよ。リボンなんてほどけたらーー」
途端に森永の表情がハッとした様子に変わった。弓永は頷き、いった。
「そうだ。リボンは髪を縛るモノ。ほどければ、束ねられていた髪の毛はいっぺんに広がる。そうなれば、その違和感に気づくだろ。まして、リボンなんてしてるくらいなんだから、長さもそれなりのはず。オマケに髪が長ければ長いほど気付きやすくなる。だとしたら、ここにリボンが落ちているということはーー」
弓永はそこでことばを切った。いわずとも、その先などわかりきっていた。それはつまり、『その場で突然姿を消した』ということであり、リボンはその際に落ちたということだ。
「じゃ、じゃあ......!」
突如、森永が目を見開いてハッとした。そのまま引き吊った表情になる。だが、ことばは一向に滑り出す様子はない。
「あ? どうした?」
弓永が訊ねると森永はゆっくりと弓永の背後を指差した。そこにはーー
青白い顔をし、目が真っ黒な子供の姿があった。
【続く】
「これ、どう思う?」弓永が訊ねた。
「え......?」動揺する森永。「石川先生の、なのかな......? 案外違うんじゃね? ほら、そういうリボンって何処にでもあるだろ?」
「うちの学校の先生の中で、こんなオシャレなリボンをする先生がいるか?」
当然のことながら五村西小には石川先生以外にも数人の女性教師がいる。だが、そんな中でもいちばん若く、センスのある人物は石川先生しかいなかった。他の女性教師は何処かセンスが古びていたし、年齢的にも30代を上回る者ばかり。セットが面倒だからか髪も短く切り揃えている者も多かった。
「......でも、わかんねえじゃん! 似合わなくても若作りっていうかさ、無理して使ってるのもいるかもしれねえし、石川先生のだって断言はーー」
「それもゼロではねえけどさ」弓永はいいづらそうにいった。「今日の当直、女の先生は石川先生だけだよ。それに、仮にこれが別の先生の落とし物だとしたら、とっくに拾われて保管されてるはずだ」
森永はことばを失ったが、またすぐに何かを思い付いたように、ヘラヘラした笑みを浮かべて口を開いた。
「も、もしかしたら、生徒のじゃねえかな」
「生徒のなら尚更だ。終業式で下校時間は早いし、そんな早い時間に落としたモノなら誰かしら先生が見つけてるだろうし、保管されてる可能性のほうが高い。もし可能性があるなら、おれたちみたいに学校に忍び込んだ女子がいるかもしれないって話だけど......」
「そうだよ! てか忍び込んだのがおれたちだけとは限らねえじゃん! ナナフシギのウワサは学校中に広まってんだし、同じようなヤツがいたってーー」
「お前、リボンがほどけたらどうなるかわかってるか」
人を小バカにしたようなことばではあったが、弓永の表情は真剣そのモノだった。だが、森永は、
「お前、人をバカにすんのもいい加減にしろよ? おれ、頭悪いけど、そこまでじゃねえよ。リボンなんてほどけたらーー」
途端に森永の表情がハッとした様子に変わった。弓永は頷き、いった。
「そうだ。リボンは髪を縛るモノ。ほどければ、束ねられていた髪の毛はいっぺんに広がる。そうなれば、その違和感に気づくだろ。まして、リボンなんてしてるくらいなんだから、長さもそれなりのはず。オマケに髪が長ければ長いほど気付きやすくなる。だとしたら、ここにリボンが落ちているということはーー」
弓永はそこでことばを切った。いわずとも、その先などわかりきっていた。それはつまり、『その場で突然姿を消した』ということであり、リボンはその際に落ちたということだ。
「じゃ、じゃあ......!」
突如、森永が目を見開いてハッとした。そのまま引き吊った表情になる。だが、ことばは一向に滑り出す様子はない。
「あ? どうした?」
弓永が訊ねると森永はゆっくりと弓永の背後を指差した。そこにはーー
青白い顔をし、目が真っ黒な子供の姿があった。
【続く】