【帝王霊~伍拾死~】

文字数 1,114文字

 何が人を奮い立たせるかーーそれは結局その人次第だ。

 間違ってヒジが顔面に当たってしまっても怒らない人がいるのに対して、ただそこにいるだけで突然怒鳴ってくるヤツもいる。感情や発起、そういったモノのスイッチは結局十人十色。モテたい一心でバンドを始める人もいれば、こころから音楽が好きで始める者もいるし、ブティックに行ったら突然シャワーヘッドを渡され、歌えと脅されてバンドを始めることになった人もいる。結局、その人のパーソナリティとそれを形成してきた環境、運がモノをいうのだろう。

 そう考えると、あたしは随分と監禁と拷問、尋問というのに縁があるようだ。もはやマッチングアプリや街コンのプロフィールに、「趣味は監禁されることと尋問、拷問されること」と書いても大丈夫なのではと思えてくる。まぁ、そんなモノが趣味な人間を好むのは悪趣味なサディストと変態くらいだろうから、まずプロフィールには書かないほうがベターだろう。

 取り敢えず、このようなジョークが思いつくという点でいえば、まだ自分には余裕があるのだろうということはわかった。だが、やはり目の前にいる太った男が成松蓮斗だとは信じられなかった。何が目的か、その疑問に対してどういった返答をするかも、もしかしたらという想いはあったとはいえ、それ以外はまったくわからなかった。

「ちょっと会話してみる?」あたしは話を始めた。「もしかして、姉貴を拐ったのはアンタなの?」

 そう訊ねると、成松は饅頭のような顔に微笑を浮かべた。

「だとしたら、どうでしょうか?」

「相変わらず勿体ぶった受け答え。何だかアンタが成松だって漸く信じられそうだよ」あたしは皮肉ついでに訊ねた。「でもさ、てことはやっぱそうか」

「それは何故?」

「だって、実際にやってない人間はまず否定する。やっていないとウソをつきたい人もね。そういう曖昧な受け答えをするのは、自分がやったと認めた上で相手がどういう経緯でそういう考えに至ったかを高みの見物したいだけの悪趣味な人間だから、とでもいっておこうか?」

 そういってやると成松は笑い出した。この下品な笑いと皮肉に対する反応は、まるで成松本人だった。となると、この男はやはりそのまさかなのか。でもだとしたら、どうしてこうなった? 成松は確かにーー

「死んだはず」

 ハッとした。まるであたしの思考を読んだかの如く成松はそういって見せた。そんな驚きを見せたあたしに対して成松は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「そんな驚かないで下さい。でも、アナタのいう通りです。半分は」

「......半分って、何が?」

「お姉様を誘拐したのが、わたしであってわたしでないってことですよ」

 ワケがわからなかった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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