【帝王霊~玖拾壱~】

文字数 1,126文字

 脊髄に電流が走ったようだった。

 おれは思わず、関口少年に掴み掛からん勢いで詰め寄って訊ねた。

「怪しい男って、どんな! それがこの一件と関係あるっていい切れるのか?」

 おれを止めたのはヤエ先生だった。止められて漸く自分が大人気ないことをしていることに気づいた。自分自身が恥ずかしくも感じたが、今は恥じるよりも行動すべき時だった。

 関口少年はおれのことを不敵な笑みを浮かべて見ていた。まるで、人間が保健所の犬でも眺めるような、そんな感じだった。若干、イラ立ちは感じたが、それが自分にとって恥ずかしいことだというのはすぐにわかった。おれも分別のつかない子供ではない。大きく息を吐いて、おれは自分を落ち着かせた。

「怪しい男っていうのは、どういう人? どこら辺で見たの?」

 ヤエ先生が関口少年に問い掛けた。関口少年は尚も澄ましたような顔でいった。

「スズメ町の辺り。あそこに神社があるじゃないですか。あの辺りに大きなスーツケースを持った浮浪者のような人がいましたよ。荷物はやけに重たそうで、夜の神社なら人目にはつかないですよね」

 関口少年のいうことは的を射ていた。確かに大きなスーツケースであれば中一の女子ならばギリギリ入るかもしれない。そして、そんなに重いモノを持って川澄の街に来るのも不思議といえば不思議だし、そもそも観光ならば、そんな大きな荷物はホテルに置いていくはず。そして、夜に神社の中へ。

 スズメ町にある神社ーーだとしたら、『礼願寺』だろう。礼願寺はおれも行ったことがある。というのも、あそこには居合の神が奉られており、毎年春になると武道の総合演舞会が開かれることもあって、おれも何度か参加したことがあったのだ。

 確かにあそこは昼間こそ人は多いが、夜になると一気に静けさに支配される。

「ヤエ先生」おれは腕時計を見ながらいった。「ここからだと走って10分程度か」

 しかし、走って10分ということは、歩けば20~30分は掛かるだろう。関口少年は汗ひとつ掻いていない。恐らく歩いてここまで来たと考えると、ちょうど間の時間を取って25分、これからおれたちが向かうので10分として、彼と話した時間を5分程度と考えると、彼が怪しい男を目撃してから40分が経過していることになってしまう。

 確かに、人目につくのを避けるならば、あまり動かないことが得策ではあるが、もし何かしらのトラブルがあって、男がその場から動いてしまったとしたらーー

 いや、最悪のことを考えて行動するのは大事だが、すぐさま動き出さなければならない状況においては、最悪の状況よりも今やらなければならないことを念頭に置かなければならない。だとしたら、やるべきはーー

 おれは大きく息をついた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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