【ぼくの年末日記~弐~】
文字数 2,748文字
やることがなくて退屈、というのはある意味幸せなことなのかもしれない。
何故なら、余計な心配をしたり、不安を抱え込まなくて済むからだ。
当たり前の話だが、心配や不安なんかないほうが絶対にいい。何事もストレス・フリーであることこそが、心身共に健康であるための条件だ、とぼくは思う。
突然そう考え始めたのは、今のぼくが非常にソワソワしているからだ。
というのも、その理由は春奈からのメッセージにある。さて、その内容というのはーー
『おはよー(^O^)元気にしてるー?風邪は引いてないかな? で、突然なんだけど……、来年の一日なんだけどさ……、良かったら一緒に初詣行かない(´・ω・`)?』
メッセージを読んだ時は、それこそパニックになる寸前だった。こんな感じに女子からお誘いされたことは、これまでなかったから。
ぼくは有頂天とパニックの狭間で揺れ動いていた。どうしよう、どうしよう。といっても、断る理由もなければ、断りたくもなかった。
とはいえ、ぼくは何と返信していいかわからず、一夜掛けて返信するメッセージの内容を考えた。そして翌朝、ぼくはーー
『おっけー、わかった!』
といって、近場の神社とおおよその時間を提示して返信した。だが、まだ返信は来ていない。ぼくは困り果てた。そしてーー
「で、困り果てた末にあたしを呼び出したワケ?」
呆れ果てたように、いずみはため息をつく。
只今、昼の十二時半。年末とはいえ、昼時のファミリーレストランはバカみたいに混んでいる。そんな中、ぼくはいつも座っている店内奥のテーブル席に座っている。
ぼくの向かいに座るは、腕を組んだ女子がひとりーーそれがいずみだった。
長野いずみはとなりのクラスの女子生徒だ。別に同じ小学校だったワケでもなければ、昔面識があったワケでもないのだけど、ひょんなことからーーというか、彼女の勘違いが切っ掛けで、ぼくはとある部活ーー部活のことについては、またいずれ話すよーーに入ることとなったのだ。
はじめこそは余りいい印象もなかったのだけど、話してみると案外楽しく、仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。
いずみは黒のショートヘアーで、身長はぼくより二センチ低い程度という女子としては比較的長身の部類に入る。オマケに細身でスタイルが良く、顔も良くてまるでモデルのよう。
ただし、成績は下から数えたほうが早く、生活態度もあまり良くない。ただ、不良というワケではなく、ただ単に自分が情熱を傾けられるモノ以外には興味がない、とそういうことなんだとか。まぁ、無気力よりは全然いいけど。
そんないずみが着ているショッキングピンクのTシャツからは、中学生にしては大きすぎる胸が自己顕示欲を抑えられないとでもいわんばかりに盛り上がっている。
とはいえ今は、薄く可愛らしい口は真一文字に結ばれ、普段は大きな目も細められており、その視線はぼくへと向けられている。
「仕方ないだろ、こんなこと初めてなんだから」
ぼくは言い訳するようにいう。だが、いずみはーー
「初めてだからって、別にあたしじゃなきゃいけないワケでもなくない?……まぁ、あたしなら年末でもクソ暇だろうから呼んだんだろ?」
「そんなことねぇよ」
実は半分当たっている。というか、いずみなら大丈夫なのでは、という考えがどういうワケか頭の中にあったのも事実だったりする。
「じゃあ、何であたし?」
胡散臭いモノでも見るように、いずみはぼくを見る。ぼくはーー
「だって、女子のことを訊くなら、女子に話訊いたほうがいいだろ?」
「ま、それもそうだね」いずみは納得して見せるようにして、長椅子の背もたれに深く腰掛け直す。「確かにアンタの友達の、放送委員の情報通や、女子慣れしてなさそうなオタクに訊くよりは確実かもしれないね」
ちょっと痛いところを突かれた気分。いうまでもなく前者は田宮で、後者は和田のことだ。田宮はしょっちゅうフラれーーというか、相手にすらされていないし、和田はそもそも恋愛に興味がない上に、女子と話す度にどもっている。どんなプロフェッショナルも、専門外では単なる素人でしかない、というワケだ。
「いや、そんなことはーー」
とはいえ、思わずぼくは否定する。
「ほんとにぃ?」
いずみの目付きはまるで犯人を追い詰める名探偵のよう。そこには疑いしかない。
「本当だって!」容疑者ぼくの供述。
「ハッ、まぁ、別にいいけどさ。クソ暇だったし、久しぶりにアンタと話せて楽しいしね。あたし、アンタ以外に友達いないじゃん?」
そういう肯定しても否定しても角が立つような問いは本当に止めて欲しい。ただ、いずみに友達がいないというのは、マジだったりする。
いずみはクラスでも、部活でも一匹狼的なキャラで、群れるのを嫌っている。だからこそ、女子特有の仲良しグループにも所属していないし、一緒にトイレに行こうとか誘われれば、
「トイレぐらいひとりで行けば?」
と極当たり前のように断ってしまう。
オマケに、ヤンキー、ギャル、スポーツマン、オタク、キョロ充、お調子者、陰キャが大嫌いであることと、彼女特有の性格もあって、女子からも男子からも疎まれているーーというワケだ。正直、ぼくと気があったのは奇跡ともいえるのだが、いずみ曰くーー
「アンタ、あたしと真逆のキャラだけど、何かムカつかないんだよね。それにアンタ、色々とセンスあるし、さ」
とのことらしい。多分、いずみなりの褒めことばなのだろうけど、それはそれで複雑だ。
「まぁ、こっちも話してて楽しいからな」
「何か適当にいってない?」どうしてそうも真理を突くのだろう。「てかさ、あたしがアンタを初詣に誘う、とかは考えなかったワケ?」
急な話に一瞬「え?」となったが、
「いや、でも、キミはそういうの興味ないだろ?」
「じゃあ、興味があったら誘ってくれたの?」
何でこうも答えにくい質問をするのだろう。ぼくは答えられずに口をモゴモゴさせる。すると、いずみは突然笑い出し、
「ウソウソ。確かに興味ないよ。でも、アンタとだったら行ってもいいかな、とは思ったよ」
「え!?」
急にそんなことをいわれると、ぼくも動揺してしまう。何だってこんな急にモテ期が来たようになっているのだ。まったくわからない。が、いずみは再び笑いーー
「冗談だよ! ちょっとからかってみたくなっちゃっただけだから、本気にすんなって!」
ぼくはムッとしていってやる。
「呼ぶんじゃなかったわ……」
「そんな怒るなって! まぁ、全然いいよ、協力する。面白そうだしね」
「人の相談事を暇潰しみたいにいうなよ」
「だから、ゴメンって! で、そんなことよりもアンタの話を聴かせてよーー」
ぼくはため息をつきつつ、口を開いたーー
【続く】
何故なら、余計な心配をしたり、不安を抱え込まなくて済むからだ。
当たり前の話だが、心配や不安なんかないほうが絶対にいい。何事もストレス・フリーであることこそが、心身共に健康であるための条件だ、とぼくは思う。
突然そう考え始めたのは、今のぼくが非常にソワソワしているからだ。
というのも、その理由は春奈からのメッセージにある。さて、その内容というのはーー
『おはよー(^O^)元気にしてるー?風邪は引いてないかな? で、突然なんだけど……、来年の一日なんだけどさ……、良かったら一緒に初詣行かない(´・ω・`)?』
メッセージを読んだ時は、それこそパニックになる寸前だった。こんな感じに女子からお誘いされたことは、これまでなかったから。
ぼくは有頂天とパニックの狭間で揺れ動いていた。どうしよう、どうしよう。といっても、断る理由もなければ、断りたくもなかった。
とはいえ、ぼくは何と返信していいかわからず、一夜掛けて返信するメッセージの内容を考えた。そして翌朝、ぼくはーー
『おっけー、わかった!』
といって、近場の神社とおおよその時間を提示して返信した。だが、まだ返信は来ていない。ぼくは困り果てた。そしてーー
「で、困り果てた末にあたしを呼び出したワケ?」
呆れ果てたように、いずみはため息をつく。
只今、昼の十二時半。年末とはいえ、昼時のファミリーレストランはバカみたいに混んでいる。そんな中、ぼくはいつも座っている店内奥のテーブル席に座っている。
ぼくの向かいに座るは、腕を組んだ女子がひとりーーそれがいずみだった。
長野いずみはとなりのクラスの女子生徒だ。別に同じ小学校だったワケでもなければ、昔面識があったワケでもないのだけど、ひょんなことからーーというか、彼女の勘違いが切っ掛けで、ぼくはとある部活ーー部活のことについては、またいずれ話すよーーに入ることとなったのだ。
はじめこそは余りいい印象もなかったのだけど、話してみると案外楽しく、仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。
いずみは黒のショートヘアーで、身長はぼくより二センチ低い程度という女子としては比較的長身の部類に入る。オマケに細身でスタイルが良く、顔も良くてまるでモデルのよう。
ただし、成績は下から数えたほうが早く、生活態度もあまり良くない。ただ、不良というワケではなく、ただ単に自分が情熱を傾けられるモノ以外には興味がない、とそういうことなんだとか。まぁ、無気力よりは全然いいけど。
そんないずみが着ているショッキングピンクのTシャツからは、中学生にしては大きすぎる胸が自己顕示欲を抑えられないとでもいわんばかりに盛り上がっている。
とはいえ今は、薄く可愛らしい口は真一文字に結ばれ、普段は大きな目も細められており、その視線はぼくへと向けられている。
「仕方ないだろ、こんなこと初めてなんだから」
ぼくは言い訳するようにいう。だが、いずみはーー
「初めてだからって、別にあたしじゃなきゃいけないワケでもなくない?……まぁ、あたしなら年末でもクソ暇だろうから呼んだんだろ?」
「そんなことねぇよ」
実は半分当たっている。というか、いずみなら大丈夫なのでは、という考えがどういうワケか頭の中にあったのも事実だったりする。
「じゃあ、何であたし?」
胡散臭いモノでも見るように、いずみはぼくを見る。ぼくはーー
「だって、女子のことを訊くなら、女子に話訊いたほうがいいだろ?」
「ま、それもそうだね」いずみは納得して見せるようにして、長椅子の背もたれに深く腰掛け直す。「確かにアンタの友達の、放送委員の情報通や、女子慣れしてなさそうなオタクに訊くよりは確実かもしれないね」
ちょっと痛いところを突かれた気分。いうまでもなく前者は田宮で、後者は和田のことだ。田宮はしょっちゅうフラれーーというか、相手にすらされていないし、和田はそもそも恋愛に興味がない上に、女子と話す度にどもっている。どんなプロフェッショナルも、専門外では単なる素人でしかない、というワケだ。
「いや、そんなことはーー」
とはいえ、思わずぼくは否定する。
「ほんとにぃ?」
いずみの目付きはまるで犯人を追い詰める名探偵のよう。そこには疑いしかない。
「本当だって!」容疑者ぼくの供述。
「ハッ、まぁ、別にいいけどさ。クソ暇だったし、久しぶりにアンタと話せて楽しいしね。あたし、アンタ以外に友達いないじゃん?」
そういう肯定しても否定しても角が立つような問いは本当に止めて欲しい。ただ、いずみに友達がいないというのは、マジだったりする。
いずみはクラスでも、部活でも一匹狼的なキャラで、群れるのを嫌っている。だからこそ、女子特有の仲良しグループにも所属していないし、一緒にトイレに行こうとか誘われれば、
「トイレぐらいひとりで行けば?」
と極当たり前のように断ってしまう。
オマケに、ヤンキー、ギャル、スポーツマン、オタク、キョロ充、お調子者、陰キャが大嫌いであることと、彼女特有の性格もあって、女子からも男子からも疎まれているーーというワケだ。正直、ぼくと気があったのは奇跡ともいえるのだが、いずみ曰くーー
「アンタ、あたしと真逆のキャラだけど、何かムカつかないんだよね。それにアンタ、色々とセンスあるし、さ」
とのことらしい。多分、いずみなりの褒めことばなのだろうけど、それはそれで複雑だ。
「まぁ、こっちも話してて楽しいからな」
「何か適当にいってない?」どうしてそうも真理を突くのだろう。「てかさ、あたしがアンタを初詣に誘う、とかは考えなかったワケ?」
急な話に一瞬「え?」となったが、
「いや、でも、キミはそういうの興味ないだろ?」
「じゃあ、興味があったら誘ってくれたの?」
何でこうも答えにくい質問をするのだろう。ぼくは答えられずに口をモゴモゴさせる。すると、いずみは突然笑い出し、
「ウソウソ。確かに興味ないよ。でも、アンタとだったら行ってもいいかな、とは思ったよ」
「え!?」
急にそんなことをいわれると、ぼくも動揺してしまう。何だってこんな急にモテ期が来たようになっているのだ。まったくわからない。が、いずみは再び笑いーー
「冗談だよ! ちょっとからかってみたくなっちゃっただけだから、本気にすんなって!」
ぼくはムッとしていってやる。
「呼ぶんじゃなかったわ……」
「そんな怒るなって! まぁ、全然いいよ、協力する。面白そうだしね」
「人の相談事を暇潰しみたいにいうなよ」
「だから、ゴメンって! で、そんなことよりもアンタの話を聴かせてよーー」
ぼくはため息をつきつつ、口を開いたーー
【続く】