【ナナフシギ~参~】

文字数 2,400文字

 賑やかな教室は解放感で満ち溢れている。

 朝礼後の五年三組、担任の石川先生の「静かに!」という声にも関わらず、生徒たちはそんなことはどうでもいいといわんばかり。それもそうだろう。明日から夏休み。となれば喜ばない子供はいない。明日から何しよう。プール行きたい。毎日昼まで寝れる。いっぱいファミコンしよう。そんな声があちこちから聴こえる。

 だが、ひとりだけ酷くふて腐れた顔をした生徒がいる。そう、祐太朗だ。

 祐太朗はあの朝礼にて校長にこっぴどく怒られて公開処刑。成績はまぁまぁ良かったとはいえ、茹で上がり吐きそうな気分に怒られた不快感は、いくら反吐を出しても満ち足りない。

 手をパンパンと叩く音。

「はいッ! 静かにしてー!」

 石川先生が大きな声でいった。とはいえ、普段の声が小さいこともあって、いくら本人が声を出したつもりでも大して影響力はない。それから何度か声を上げて漸く僅かなヒソヒソ声を残して教室は静かになった。

「……はい、では、明日から夏休みです。みんな、楽しみで仕方ないだろうけど、くれぐれも事故には気をつけて下さいね」

 ハーイと声が響く。もはや、そんなことばは生徒たちには記号同様で大した意味は持っていなかっただろうが。

「それと……」石川先生の顔が曇る。「最近この辺りで不審者が出るとのことで、なるべく遅くになって学校に近づくのは控えて下さい。特にここ最近、夜遅くに校内に入ろうとする生徒がいるとのことですから」

 祐太朗が小学生だった頃もまだ警備システムはそこまで普及していたとはいえず、教師が泊まり込みで学校の警備に当たるような当直の制度もなくなっていたこともあって、学校によっては施錠を徹底することで学校の管理、警備をしていた時代があった。

 祐太朗の通う五村西小学校もこの時期はまだ警備システムも導入されておらず、施錠を徹底するという決まりのもと、管理されていた。

 だが、その管理もしっかりしていたかというと非常に危うく、学内で不審な人影が目撃されるという事案が起きていたこともあって、その管理体制には疑問が投げ掛けられていた。

 とはいえ、その不審な人影というのが小さな子供だったこともあって、職員の間では生徒たちが忘れ物を取りに来ただとか、夜遅くまで遊んでいるだけだとか、その程度の認識でしかなかったのはいうまでもない。

 それに対し、相手が子供ならばと学校側は日毎に担当を決め、その担当となった教員が少し遅くまで残って学内の様子を見る、という対策に興じ、二週ほど前から教員による見回りを実施していた。

「それでは、また二学期、元気にお会いしましょう。それでは終わります」

 学級委員が号令を掛けて礼をし、一学期最後の学校生活は終了した。それと同時にモノ凄い勢いで教室を飛び出して行く子供たち。祐太朗はそんな中でもアンニュイにアクビをしながら、ゆっくりとランドセルを背負った。

「鈴木」

 突然声を掛けられ、祐太朗は振り返った。と、そこにいたのは森永、清水、鮫島というヤンチャな三人組の姿。森永、清水はサッカーをやっており、鮫島は野球をやっているスポーツマンで、インドア系パンク少年の祐太朗とは関わりも薄く、そもそもウマもあまり合うとはいえないような間柄だった。

「お前、幽霊見えんだって?」三人の中では一番背の低い森永がいった。

「見えたら何なんだよ」

「今日の夜、空いてんだろ?」中背の清水が変声期丸出しの声でいった。

「空いてない」

「ウソつくなよ」ノッポの鮫島がいった。「お前、今日は帰ったら家でゲームやるとかいってたろ?」

「だからいってんだろ、ゲームで忙しいって」

「何だと?」せっかちな鮫島が食って掛かる。

「どうせ、幽霊が見えるとかウソなんだろ?」森永が茶化すようにしていった。

「何だ、じゃあ仕方ないよな」清水がクールにいい放つ。

「どうせ、幽霊が怖くて仕方ないんだろ?」森永が祐太朗を煽る。

「そりゃビビるよな、ゴメンよ鈴木」鮫島がバカにするように祐太朗の肩を叩く。

「おれのこと勝手に決めつけるのはいいけどさ、何の用? わざわざバカにしに来たの?」

 祐太朗がケンカ腰でそう訊ねると、鮫島はそれに食って掛かろうとしたが、清水がそれを制し、静かにいった。

「お前、『ナナフシギ』知ってるだろ? 下らねえ学校のオバケ話だよ」

 ナナフシギとは、五村西小に伝わる所謂『学校の怪談』だ。詳細は省くが、ここ最近の小さな人影というのは、そのナナフシギを確かめようと学校に侵入しようとした生徒だと一部で密かにウワサになっている。

「あぁ、あれか」祐太朗は遠い目で廊下のほうを見る。「……止めとけよ。いいことないぞ」

「何だよ、それっぽいことしちゃって。本当は何も見えてなんかないんだろ?」森永。

「ちょっと、止めなよ」女子の声が間に割って入る。「鈴木くんイヤがってんじゃん」

 割って入ったのは田中恵美理だった。

「何だよ田中。もしかして鈴木のことが好きなのか?」鮫島がエミリを煽る。

「は? 何いってんの?」

「とぼけんなよ、顔、赤くなってるぞ」

 それからはお決まりの冷やかしのことば。まぁ、そんなことをしていたらエミリも悔しくなってしまったのか顔を真っ赤にしてそのまま泣き出してしまった。

「ちょっと、鮫島くんたち」

 教室に残っていた石川先生がいった。どうやら祐太朗たちの動向を伺っていたらしい。そのことばに三人組は、覚えてろと捨てセリフを吐いてその場を後にする。

「おい、祐太朗。田中を泣かすなよな」そう口を挟んで来たのは弓永だった。

「泣かしてねぇよ、バカ頭」

「バカ頭はお前、成績はおれのほうが上」

「はいはい、ふたりとも止めて」と石川先生が止めに入り、エミリを慰めると祐太朗と弓永のほうを見て更にいう。「鈴木くん、ちょっといいかな。弓永くんと田中さんも」

 祐太朗と弓永、そしてエミリはハッとした。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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