【一年三組の皇帝~拾睦~】

文字数 1,100文字

 その申し出こそ本当に意外だった。

 ぼくは何と答えていいのかわからず、狼狽えた。辻の視線は真剣ソノモノ。もし山路と海野がいれば、今頃煽られているところだろう。だが、辻はぼくを煽ったりしない。

「勝負してどうする?」

 そのひとことが今そこにある現実を見て見ぬ振りをしようと決め込もうとする自分の意思を象徴していた。逃げのスタンス。こんなんじゃ勝負したところで勝てはしない。

「いいから、勝負してみろよ。賭けるモンなんかいらねぇよ。腕試しだ」

 賭けるモノなどない。というか、ファミレスで中学生がトランプ博打をするなんて、まったくもって不健全だ。

「どうしたんだよ。いつも『ネイティブ』から逃げてんのは腰抜けだからか? 勝負のひとつも出来ねえで何が男だよ」

 これには少しイラッと来た。

「逃げてなんかねえよ。そもそも興味がねえんだよ。やったことはあるけどな。でも、気づいちゃったんだよーー」

 気づいたというぼくのことばに対して、辻は何も反応は示さなかった。普通なら何に、などと訊ねて来るモノだろうが、その質問がないということは、この男も気づいている。

 ぼくは大きくため息をついていった。

「わかったよ」

 そういうと、辻は勝負の簡単な取り決めを話し始めた。勝負は一回。賭けはなし。勝っても負けても何のリスクはない。ぼくがそれに同意すると、辻はカードをシャッフルし始めた。速さでいえば普通ぐらいだろうか。慣れてはいるが上手いとまではいかない。イカサマを使っているようには見えなかった。少なくともイカサマが出来るような器用な手付きではなかった。穿った見方をすれば、そうやってこちらを煙に巻いているのかもしれないが、リスクゼロのお遊びでイカサマを使うとしたら、それはーー 

 シャッフルを終えると辻はカードの山をテーブルの真ん中に置いた。手付きに可笑しな点はまったくなかった。

「イカサマを疑ってんだろ?」辻がいった。

「疑ってねえよ」

「だったら、何だっておれの手元ばっか見てたんだよ。ひとつのパーツばかりに目が行くってことは、そこの動きを見張っているってことなんだぜ」

 見抜かれていた。この男、やはりただのヤンキーでもなければバカでもない。恐らくはケンカや何かでそれを痛感したのだろう。パンチを恐れる者は構えた相手の手元を見がちになる。蹴りを意識すると、自分の意識が下に下がりがちになる。だが、すべての意識を物語るのは、目ソノモノだ。ぼくは警戒するあまり全体を見ることを忘れていた。

 辻がカードを山の上から一枚取り、伏せたままステイした。

「お前も取れよ」

 辻のことばに同調し、ぼくはカードの山から一枚手に取って伏せた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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