【モノローグ~明日、白夜になる前に~】
文字数 1,972文字
明転すると男がいる。
「35年、おれに彼女がいなかった期間だ。別にチャンスがなかったワケじゃない。でも気づけば女性と一度もデートをしたことがないまま三十代に突入してしまった。これから話すのは、そんなおれの一年前の話ーー」
男、手を叩く。何も起こらず。もう一度叩く。何も起こらない。照明さんに向かって男ーー
「あのー! 手叩くんで、電気消してもらっていいですか!? お願いします!......ではーー」
手を叩くと暗転。
「待って! 待ってくれ!」
照明がつくと荒く息を吐く男の姿がある。
「......良かった、間に合った。空港って、何でこんなに入り組んでるんだろうね。......どうしたって、ちょっと話があるんだ。......ありがとう」
男、イスに座る。
「まずは、アレから全然連絡出来なくてゴメン。自分でも本当に情けないと思う。デートしてる最中に不良に絡まれて、酷い目に遇わされるなんて。
何というか、アナタにダサイ姿を見せたくなくって。でも、わかったんだ。そういうダサイところも含めて、おれなんだって。ーーどうしてここがわかったのかって? カズマサに聞いたんだ。アナタが新しい仕事の関係で遠くへ行くって。......大変だったんだね。
でもさ、関係ないよ。人間なんてさ、キライな人もいれば、好きな人もいる。アナタを好きな人だって絶対いるんだよ!
自信を持ってなんて軽々しくはいえない。でも、ひとつ言えるのは、アナタはステキな人だってことだよ。少なくともおれはそう思ってる。だから!ーー
......変わった? おれが?......うん、アレから色々考えて反省したから。......そうじゃない?......あぁ、同窓会で再会した時のことか。あれから、もう一年以上経つんだね。
正直さ、同窓会なんか行く気なかったんだ。......何でって、35にもなるとさ、回りは普通に結婚してて、おれみたいな独身は珍しくなってくる。
で、同窓会のグループLINEもさ、自分が何人子供を連れてくるかでマウントを取るようなメッセージが飛び交って、いざ会場に行けば、今の自分が如何に幸せかを披露して、またマウントの取り合いになる。
結局は誰が一番幸せかを競いたいだけなんだよーーって、カズマサが言ってて。それに妙に納得しちゃってさ。
......うん、アイツらしいよね。でも、実は同窓会行こうって言い出したのアイツなんだ。......うん。それで、おれもついて行くことにしたんだ。でも行って良かったと思う。だって、アナタに会えたから。
......おれさ、会場でアナタを見て、最初は誰だかわからなかったんだ。ただ、漠然と背が高くてキレイな人だな、って思ってた。で、名前を聞いたら信じられなくて。おれが言えたことじゃないけど、中学の頃のアナタはあまり目立つタイプの人じゃなかったから。
でも、大人になったアナタは、ほんとキレイで、何というか......。あんな人と一緒にいれたら、とか考えちゃって。でも、おれなんかじゃ無理だって諦め掛けてたんだけど、そしたら、カズマサにそんな簡単に諦めていいのかって言われて。
おれ、アナタに振り向いて貰えないだろうと思ってたけど、試しもしないで諦めていいのか、って言われたら、今までの不甲斐ない自分が蘇って来て......。
ーーそれでアナタをデートに誘ったんだよ。あの時も大変でさ。カズマサに昼間呼び出されて、いざ行ったら『何つう格好してんだよ』ってダメ出しされて。そっから今すぐ金おろせって言われて、まともな服と靴を買って、それでデートに行ったんだよ。
でも、それが正解だったかもしれない。おれのセンスじゃ、アナタとは釣り合わなかっただろうから。
......いや、そんなことあるよ。おれみたいな冴えない男はアナタみたいな人とは釣り合わない。でも、おれは、どうしてもアナタに言いたいことがあってここまで来たんだ。
......うん。前、言ってたよね。『好きな人と一緒にいれば、どんなに暗い夜でも白夜のように明るくなるんだよ』って。だから、だからさ......、言っておきたいことがあるんだーー明日、アナタの夜が白夜になる前に。
おれは......、おれはキミが好きだ。好きで好きで仕方ないんだ! だから、おれはここまで来た! 何度でも言う。おれはキミが好きだ。だから......、行かないで欲しいんだ。ずっと、ずっと一緒にいて欲しいんだ! そして、明日からおれと一緒に白夜を見て下さい! お願いします!
......うん。
......うん、待たせてゴメン。......え?......今、何て?......本当に?」
男、うっすらと笑みを浮かべる。
「......何て言えばいいのかな、こういう時。......あ、そうか。......ありがとうーーありがとう!」
【幕】
「35年、おれに彼女がいなかった期間だ。別にチャンスがなかったワケじゃない。でも気づけば女性と一度もデートをしたことがないまま三十代に突入してしまった。これから話すのは、そんなおれの一年前の話ーー」
男、手を叩く。何も起こらず。もう一度叩く。何も起こらない。照明さんに向かって男ーー
「あのー! 手叩くんで、電気消してもらっていいですか!? お願いします!......ではーー」
手を叩くと暗転。
「待って! 待ってくれ!」
照明がつくと荒く息を吐く男の姿がある。
「......良かった、間に合った。空港って、何でこんなに入り組んでるんだろうね。......どうしたって、ちょっと話があるんだ。......ありがとう」
男、イスに座る。
「まずは、アレから全然連絡出来なくてゴメン。自分でも本当に情けないと思う。デートしてる最中に不良に絡まれて、酷い目に遇わされるなんて。
何というか、アナタにダサイ姿を見せたくなくって。でも、わかったんだ。そういうダサイところも含めて、おれなんだって。ーーどうしてここがわかったのかって? カズマサに聞いたんだ。アナタが新しい仕事の関係で遠くへ行くって。......大変だったんだね。
でもさ、関係ないよ。人間なんてさ、キライな人もいれば、好きな人もいる。アナタを好きな人だって絶対いるんだよ!
自信を持ってなんて軽々しくはいえない。でも、ひとつ言えるのは、アナタはステキな人だってことだよ。少なくともおれはそう思ってる。だから!ーー
......変わった? おれが?......うん、アレから色々考えて反省したから。......そうじゃない?......あぁ、同窓会で再会した時のことか。あれから、もう一年以上経つんだね。
正直さ、同窓会なんか行く気なかったんだ。......何でって、35にもなるとさ、回りは普通に結婚してて、おれみたいな独身は珍しくなってくる。
で、同窓会のグループLINEもさ、自分が何人子供を連れてくるかでマウントを取るようなメッセージが飛び交って、いざ会場に行けば、今の自分が如何に幸せかを披露して、またマウントの取り合いになる。
結局は誰が一番幸せかを競いたいだけなんだよーーって、カズマサが言ってて。それに妙に納得しちゃってさ。
......うん、アイツらしいよね。でも、実は同窓会行こうって言い出したのアイツなんだ。......うん。それで、おれもついて行くことにしたんだ。でも行って良かったと思う。だって、アナタに会えたから。
......おれさ、会場でアナタを見て、最初は誰だかわからなかったんだ。ただ、漠然と背が高くてキレイな人だな、って思ってた。で、名前を聞いたら信じられなくて。おれが言えたことじゃないけど、中学の頃のアナタはあまり目立つタイプの人じゃなかったから。
でも、大人になったアナタは、ほんとキレイで、何というか......。あんな人と一緒にいれたら、とか考えちゃって。でも、おれなんかじゃ無理だって諦め掛けてたんだけど、そしたら、カズマサにそんな簡単に諦めていいのかって言われて。
おれ、アナタに振り向いて貰えないだろうと思ってたけど、試しもしないで諦めていいのか、って言われたら、今までの不甲斐ない自分が蘇って来て......。
ーーそれでアナタをデートに誘ったんだよ。あの時も大変でさ。カズマサに昼間呼び出されて、いざ行ったら『何つう格好してんだよ』ってダメ出しされて。そっから今すぐ金おろせって言われて、まともな服と靴を買って、それでデートに行ったんだよ。
でも、それが正解だったかもしれない。おれのセンスじゃ、アナタとは釣り合わなかっただろうから。
......いや、そんなことあるよ。おれみたいな冴えない男はアナタみたいな人とは釣り合わない。でも、おれは、どうしてもアナタに言いたいことがあってここまで来たんだ。
......うん。前、言ってたよね。『好きな人と一緒にいれば、どんなに暗い夜でも白夜のように明るくなるんだよ』って。だから、だからさ......、言っておきたいことがあるんだーー明日、アナタの夜が白夜になる前に。
おれは......、おれはキミが好きだ。好きで好きで仕方ないんだ! だから、おれはここまで来た! 何度でも言う。おれはキミが好きだ。だから......、行かないで欲しいんだ。ずっと、ずっと一緒にいて欲しいんだ! そして、明日からおれと一緒に白夜を見て下さい! お願いします!
......うん。
......うん、待たせてゴメン。......え?......今、何て?......本当に?」
男、うっすらと笑みを浮かべる。
「......何て言えばいいのかな、こういう時。......あ、そうか。......ありがとうーーありがとう!」
【幕】