【藪医者放浪記~弐拾玖~】

文字数 1,092文字

 火花が弾け飛ぶ。

 鋼と鋼が打ち合わせられると、キンッという甲高い音が天高く伸びていく。袈裟懸けに切り結ばれる刀。猿田も牛馬も死んだような目をしている。だが、猿田は時に歯を食い縛り、牛馬は時にうっすらと笑みを浮かべる。

 つばぜり合い。猿田はそれを長そうとする。だが、そんなのは牛馬も読んでいる。互いにヤナギの形になり、ふたりの動きはすれ違う。横面に打ち込むも、それはふたりとも同じこと。ちからは牛馬のほうが上回っている。

 猿田は体を深く沈める。が、牛馬も瞬時に体を落とす。ニヤリと嗤う牛馬。猿田は悔しそうに歯軋りをする。猿田は鍔で牛馬の刀を思い切りかち上げる。だが、牛馬はビクともしない。頑丈すぎた。

 今度は牛馬が猿田の刀を鍔で叩き落とそうとする。だが、猿田はフッと力を抜きつつ瞬時に左手で牛馬の右手を掴み、体をかわしながらいなす。さすがの牛馬もこれには耐えられない。だが、その体幹の良さで、体を流しつつも回って受け身を取り、瞬時に猿田に向かえるよう備える。

 猿田と牛馬、ふたりの距離は開き、互いににらみ合って互いの動きを牽制している。正眼に構える両者。地面の土ぼこりがギリッと立ち上る。猿田が大きく息を吐く。と、牛馬も幾ばくか口許を弛ませる。

 猿田は刀を下段に構え直した。一直線に飛ぶ視線は何処までも遠い。が、下段に構える猿田を見て牛馬も刀を下段に構える。両者ともに下段に構えるという事態に猿田の口許も歪む。猿田の狙いは牛馬によって封殺されたのだ。

 だが、猿田は構え直そうとはしない。構え直すことは、相手に気持ちで敗北し、こころが移ろっていることを意味する。勝負に必要なのは腰の重さ。それは立ち回りでも気持ちでも同じこと。

 受流ーー猿田が何よりも恐れていたのはそれだ。

 土佐流にも受流は存在する。だが、牛馬の嗜む無外流のモノとは違い、踏み込む足が左で、入りが深くなりつつも結果として自分の身体を犠牲にもしかねない。おまけに、左で踏み込むせいで相手からも悟られやすく、受流として使うには心許ないところがある。

 対する無外流の受流は右足踏み込み。相手が斬り下ろしてくる寸前に右足で体をかわしつつ抜刀し、相手の攻撃を流し、背骨を両断する業となっている。これは、右足で踏み込むこともあって、相手に動きを悟られづらく、かつ土佐流のモノと比べても深く踏み込める割に安全性は段違いだ。

 しかも、横面打ちの土佐流では相手が絶命まで行かない可能性も高いが、無外流の背骨を両断する打ち方は絶命はしなくともその場で立つことすら困難になるほどのキズを与えることとなる。

 猿田はゴクリと唾を飲んだ。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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