【残光~死~】
文字数 990文字
光の先に見えたのは新たなる闇だった。
まったくもって皮肉な話だった。退学なり卒業なりして大学を飛び出してしまえば、すべてが良くなるだろうと思っていた。だが、それはマヤカシでしかなかった。
大学を卒業後、おれは外夢に戻った。殆どエンプティだった体力を振り絞り、何とか合格していた大学院も蹴って、おれは完全な無職へとなった。
最初こそは解放感に満ち満ちていた。だが、それも長続きはしなかった。それはひとつの独房からまた別の独房へと移っただけだったからだった。独房も変われば、最初の一、二週間はモノ珍しさと新鮮さで飽きることはないにしても、それを過ぎてしまえば、あとは退屈な時間が待っている。
そこからおれを待ち構えていたのは、何もやることのない地獄のような時間だけだった。結局はゲームをやって時間を潰すよりは他なかった。それと同時に身体を鍛えることぐらいしかなかった。
何もしないのに身体を鍛えてどうするかといわれればそれまでだが、鍛えて体力をつけておかないと外の世界には出ていけないと思っていた。そうでなくとも肉体も精神も弱っているというのに、その程度のこともこなせずにどうして外で通用するのかとも思った。
おれの身体はやはり異常だった。
たまに身体を慣らしに電車に乗って、高校時代はほぼ毎日いた川澄へと行ってみるも、電車の中で再びパニックの症状が出たり、人通りの多い場所では呼吸が浅くなり脂汗が止まらなくなった。このザマでは仕事がどうこうとはいっていられなかった。
しかし、おれにはどうしてもやりたいことがあった。それが芝居だった。大学時代、イヤなことを忘れたりするには映画が不可欠だった。画面の奥で笑い、悩み、苦しみ、戦う役者たちはとても魅力的に映った。そして、自分もいつかマネごとでいいから芝居というモノをやってみたいと思っていた。
だが、この体たらくでは無理なのはわかっていた。とはいえ、その欲望も何もせずに閉じ籠っている期間が長くなればなるほどに強くなっていった。
だが、外へ出たらまたーー何度もそう考えた。予期不安がおれの肩を叩く。ウザったかった。おれはまた外へ出たかった。閉じ籠って二年、おれのフラストレーションは限界に達していた。いつまで、こんな狭い独房の中でひとり夢想し続けなければならないのだ。
ウンザリだった。
そして、おれはスマホを手に取ったーー
【続く】
まったくもって皮肉な話だった。退学なり卒業なりして大学を飛び出してしまえば、すべてが良くなるだろうと思っていた。だが、それはマヤカシでしかなかった。
大学を卒業後、おれは外夢に戻った。殆どエンプティだった体力を振り絞り、何とか合格していた大学院も蹴って、おれは完全な無職へとなった。
最初こそは解放感に満ち満ちていた。だが、それも長続きはしなかった。それはひとつの独房からまた別の独房へと移っただけだったからだった。独房も変われば、最初の一、二週間はモノ珍しさと新鮮さで飽きることはないにしても、それを過ぎてしまえば、あとは退屈な時間が待っている。
そこからおれを待ち構えていたのは、何もやることのない地獄のような時間だけだった。結局はゲームをやって時間を潰すよりは他なかった。それと同時に身体を鍛えることぐらいしかなかった。
何もしないのに身体を鍛えてどうするかといわれればそれまでだが、鍛えて体力をつけておかないと外の世界には出ていけないと思っていた。そうでなくとも肉体も精神も弱っているというのに、その程度のこともこなせずにどうして外で通用するのかとも思った。
おれの身体はやはり異常だった。
たまに身体を慣らしに電車に乗って、高校時代はほぼ毎日いた川澄へと行ってみるも、電車の中で再びパニックの症状が出たり、人通りの多い場所では呼吸が浅くなり脂汗が止まらなくなった。このザマでは仕事がどうこうとはいっていられなかった。
しかし、おれにはどうしてもやりたいことがあった。それが芝居だった。大学時代、イヤなことを忘れたりするには映画が不可欠だった。画面の奥で笑い、悩み、苦しみ、戦う役者たちはとても魅力的に映った。そして、自分もいつかマネごとでいいから芝居というモノをやってみたいと思っていた。
だが、この体たらくでは無理なのはわかっていた。とはいえ、その欲望も何もせずに閉じ籠っている期間が長くなればなるほどに強くなっていった。
だが、外へ出たらまたーー何度もそう考えた。予期不安がおれの肩を叩く。ウザったかった。おれはまた外へ出たかった。閉じ籠って二年、おれのフラストレーションは限界に達していた。いつまで、こんな狭い独房の中でひとり夢想し続けなければならないのだ。
ウンザリだった。
そして、おれはスマホを手に取ったーー
【続く】