【帝王霊~睦重死~】

文字数 1,065文字

 沈黙した空気が軋んでいた。

 不敵な笑みの向こう側には、得体の知れない魔物が棲んでいるように見えた。

「わたしとお兄ちゃんがやってることって、『恨めし屋』のこと知ってるの?」

 詩織が不思議そうに首をかしげながらいうと、岩渕はその口許を更に弛ませた。

「その名前を安易に口にするのはいけないといわれませんでしたか?」

「それはいわれたけど、何か良く知ってそうだなぁって」詩織は感嘆するようにいった。

 良く知っていそう。まるでそのことばを引き出させんとするような岩渕の態度。岩渕ーーそもそもこの男は祐太朗と詩織の両親がトップに君臨している新興宗教の付き人、幹部のような存在に過ぎないはずだった。冴えない容姿ではあるが、マーシャルアーツの達人であり、見た目とマッチしないモノを持っているのはいうまでもないが、まさか岩渕が恨めし屋のことを知っているというのは、詩織も疑問に思うのは当たり前だろう。

 それに背後観察の佐野めぐみのことも知っているように語る様も何とも不気味だった。更にいえば、武井愛のことを知っているのも。まるですべての中核を知っていながら敢えて黙っている。そんな感じ。

 岩渕は尚も笑い、更にいった。

「では訊ねますが、お嬢様はどのようにして『恨めし屋』なんて闇の稼業に辿りついたのですか?」

 恨めし屋。技術や文明の発達した現代ですら、どんな求人を探してもそんな名前の仕事は見つからない。当たり前だ。何故ならそれは闇の稼業であり、一種の都市伝説としてしか扱われていないからだ。もちろんその稼業の人間になるにはどのようなステップを踏むのか、など誰も知る由がないーー少なくとも、現役の恨めし屋以外は。

「んーとねぇ」詩織は上を見上げながら考える素振りをして。「わたし、知らないんだ。だって、お兄ちゃんがそういう仕事をしてるって知ったから、わたしもお兄ちゃんと同じ恨めし屋になったんだよ」

「では、本来の恨めし屋へのステップはご存知ない、と。そういうワケですね?」

 詩織は頷いた。岩渕はクツワムシが鳴くようなささやかな笑い声を上げた。

「しかし、こんな血にまみれた穢れた稼業に自分の妹を巻き込むとは、坊っちゃんも何を考えているんだかわかりませんねぇ」

 岩渕のいうことはもっともだった。時に霊を下ろし、時に徐霊し、時に霊の晴らせぬ恨みを晴らす。そんな危険な稼業に妹を引き込むなど、普通ならば考えられない。というか、普通の感覚があればまず躊躇うはずだ。では、一体どうしてーー

「それはそうと、何故お嬢様が今ここにいるのか、気になりませんか?」

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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