【一年三組の皇帝~参拾参~】

文字数 1,262文字

 何か特別なことをしているワケでもないのに魅力的に見える人がいる。

 そりゃテレビに出ているみたいな人たちは画面越しでもかっこよく、或いはかわいく、美人に見えるだろう。だけど、そういう人たちはある意味間接的にこっちが彼らがしている活動を知っているワケで。視聴者はある意味「魅力的だ」という先入観みたいなモノを抱いた状態で彼らを見ている。それならばそうなるのも当たり前だ。

 しかし、ぼくの真横で大きなハンバーガーを頬張っている人はそうじゃなかった。彼は有名なワケではない。だが、その佇まいというか雰囲気というか、少なくともぼくにはこの人が何か不思議な魅力をまとっているように見えた。そう、彼はハンバーガーを食べているだけでも何だかカッコよかったのだ。

 まったくの初対面。だが、ぼくはこの人なら信じられるーー信じてもいいかもしれないと思った。それにお兄さんのいう通り、お兄さんとぼくは所詮は今ここで会ったばかりの人でしかない。お兄さんが誰かにぼくの話をいいふらしたところで、ぼくには何の影響もないだろうし、ぼくはぼくで誰にも相談出来ないような問題を打ち明けることで少しは楽になれるだろうとそう思った。

「あのぉ」ぼくは勇気を振り絞って口を開いた。「ほんと下らない話なんですけど、聴いてくれますか?」

 お兄さんは間を置くことなく、いいよといってぼくの申し出を受け入れてくれた。それが何だか余計に嬉しく感じた。

 ぼくは今のクラスの現状を話した。学級委員の関口が『ネイティブ』というゲームを通じてクラスを支配していること、ヤンキーの辻たちに関口を打ち倒すために協力して欲しいといわれていること、それに対してぼくはどう立ち振舞えばいいかわからずにいること。口を開けばあとはなし崩しだった。ぼくはもの凄い勢いでお兄さんに自分の話をした。

「なるほど、ねぇ......」お兄さんは頷いた。「ひとつ訊いてもいいかい?」

 ドキッとした。何か詰められるかとか、キツイことをいわれるのではとほんの一瞬とはいえ思ってしまった。どうやらぼくの覚悟は紙より薄っぺらだったようだ。ぼくはビビりながらも、どうぞと答えて話を促した。

「クラスがそうなってるってことはわかるんだけどさ、どうしてキミがそのクラスの皇帝さんと半グレの間に立って何かをしなきゃならないんだい? そういうのって、担任の先生が何とかするモンじゃないの?」

 痛いところを突かれた気がした。そう、普通に考えたらただの一生徒でしかないぼくがそんなことを躍起になって解決しようとする理由などまったくないのだ。

 そう、ぼくは生活安全委員だ。

 だからこそクラスのトラブルに首を突っ込んでいる。しかし、それを表に出してはいけないことになっている。だがーー

「担任は、そういうことに無関心なんで」

 苦し紛れのいいワケだった。無関心どころか、そういったトラブルに首を突っ込んでいくグループの代表をやっている人が無関心なワケがなかった。

 お兄さんの目は澄んでいた。そして、すべてを見抜いているような目だった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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