【ナナフシギ~睦拾死~】

文字数 1,128文字

 気のせいというのはいつだって起こり得るモノだ。

 それは緊迫していようが、いまいが関係ない。というより、ボーッとしている時こそふとした瞬間に気のせいというのは起こり得る。

 最初は気のせいだと思ったーー弓永はそう説明した。だが、それは気のせいなんかじゃなかった。小学校一年生の時である。祐太朗が遠足の際に班の人間と共に行方不明になったことがあった。その時、別の班にいた弓永は他の生徒と共に待機していた。

 が、その時、聴こえて来たのだ。祐太朗の声で「山の奥にいる」と。弓永はそれを最初気のせいだと思った。

 だが、その声は止むどころか、何処から何処へ行って、その果てに迷子となり、そこに至るまでに何があって、などと詳細な情報が次から次へと流れ込んで来た。

 まさかーー弓永はそう思った。だが、そんな見もしたこともない、聞いたこともないような光景のことが次から次へと頭の中に流れ込んで来るなんて、今までになかったことだった。ということは、これは何かの暗示か何かなのか? 疑問は尽きない。

 しかし、これが本当だとして、どう先生に伝えるべきか。この当時は当たり前だが携帯電話、スマートフォンなんてない。周辺の地図なんていうのも専用の地図帳を買わない限りは手に入らないし、手に入ったところで自分の今いる正確な位置を知る術もない。

 しかし、もしこの奇妙な声を無視して祐太朗と他のクラスメイトに何かあれば、自分はクラスメイトを見捨てたこととなる。いくら弓永という男が冷血で他人のことなどろくに気に掛けようとしない人物とはいえ、流石に幼い頃はそこまで非道ではなく、そこら辺の罪悪感はちゃんと抱く人間だった。

 弓永は引率の教員に、みんながあっちのほうに行ったのを見たと伝えた。遅れての申告だったこともあって、何故早くいわないのかと咎められもしたが、まさかこんなことになるとは思わなかったと適当ないいワケで何とかその場を取り繕うと、続いてこの近辺に昔来たことがあるといい、教員共々、行方不明になった祐太朗たちを捜索することとなった。

 結果として、弓永が聴いた祐太朗の声はすべて正しかった。何処に何があるかというのもすべて正しく、祐太朗の声の通りに進んで行った。そして、とうとう行方不明になっていた生徒たちを発見することができた。

 教員たちは泣きじゃくる生徒たちに駆け寄り、しっかりと抱き締め、無事を確かめていた。そんな中、祐太朗だけが泣いていなかった。まっすぐに弓永を見詰めていたかと思うと、ゆっくりと近づいて行きーー

「遅えよ」といい、それからすぐに、「でも、ありがとう。助かった」

 といった。弓永は呆然と相槌を打つことしか出来なかった。

 そう、弓永には聴こえていたのだ。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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