【窓の外にオロチはいるか?】
文字数 3,650文字
人間、注意はしても、し過ぎることはない。
確かに注意のし過ぎで気を病んだり、他人を信用できなくなるのは問題があるけども、大事なのは他人のことではなく自分の仕事や勉強のことだと思うのだ。
というのも、仕事や勉強における不注意というのは非常に厄介で、ちょっとしたミスがとんでもない命取りになるのはいうまでもない。
かくいうおれは、その不注意というヤツをやらかしがちだ。過去に話した入試の数学の話だって完全におれの不注意が招いたことだし、そもそも、おれという人間は注意力が散漫な傾向にあるらしい。
だからこそ何事においても失敗が多く、そこから反省して襟元を正さなければならなくなるのがいつものことだ。いってしまえば、これは「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」の愚者の話といっていいだろう。
そう、おれは紛れもない愚者だ。
だからこそ変なミスのないように、少しは気を張らなければならないのだけど、それは何もおれだけに限った話ではない。
人間、生きていれば色んな人に出会う。その中でも不注意な人というのは必ずいるモノで、そういう人を見る度に自分も気をつけなければならないと改めて思うのだ。
さて、今日はそんな不注意に纏わる話。まぁ、話としては、人の不注意ってのはポピュラーなネタのひとつだよな。
あれは中学一年の時のことだった。
その頃は学校での授業はなく、総合学習というゆとり教育の果てに生まれた、何を以て「総合」なのかまったくわからない授業の一環として催されていた「職場体験プログラム」の真っ最中だった。
まぁ、確かに中学生の時点で職場体験をするというのはとてもいい試みだとは思うのだけど、おれみたいなボンクラなガキが職場体験をしたところでーーいや、何でもない。
それはさておき、である。
おれが職場体験に選んだのは、五村のとある小さな公民館だった。
まぁ、公務とはまったくといっていいほど無縁に思える五条氏が公民館勤めって、もはやテロリズムだよなって感じはするのだけど、やったことといえば、本当に大したことはなく、館内の掃除だったり、書類手続きの仕事に関する簡単な説明だったり、あとは公民館で行われるサークル活動の体験だったりと、もはや仕事の体験なのかわからないようなことだった。
その時の職場体験のメンツは五人。ひとりは、おれ。残りの四人の内、ひとりが男子で三人が女子だった。
もうひとりの男子は名前を「佐藤」といい、元はサッカーのユースに所属していたのだが、サッカーに飽きて、おれと同じ卓球部に入った背の低い坊っちゃんみたいなヤツだった。
残り三人の女子だけど、ひとりは後に体育祭の応援団にて副団長を務めることとなるシーサーだった。久しぶりの登場だけど、説明が面倒なんで、詳しくは体育祭篇を読んでおくれ。
残りのふたりは、お嬢様の花村さんに、女子卓球部で腐女子の大川さんだ。
花村さんは、女子に嫌われまくりの五条氏にとって数少ない仲のいい女子のひとりだった。仲良くなった切っ掛けは、多分、この職場体験だと思うのだけど、彼女がキャナや勝明と仲が良かったのも理由のひとつだと思われ。
大川さんは先に説明した通り。とはいえ、小学生の時は仲がいいほうだったり。別に仲が悪くなったワケではないんだけど、当時は男子卓球部と女子卓球部は、練習場所だったりで部活単位であまり仲が良くなかったんよ。
そんなメンツと過ごす職場体験も決して退屈ではなく、むしろ楽しいモンだった。正直、机にかじりついて授業を受けるよりも遣り甲斐を感じたくらいだった。
そして気づけば職場体験も最終日前日。その日は、昼間は役所の書類を取りに来た人に、どう対応するかを教わり、昼食を取り終えると、午後は陶芸サークルの体験をすることに。
二階の多目的室に入るとそこにはたくさんの御老体がいた。
そこで眼鏡を掛けたブルドッグのような容姿のおじいさんがおれら五人を出迎えてくれた。
そのブルドッグのようなおじいさんは「美原さん」といい、この陶芸サークルの代表を務めているとのことだった。
美原さんはおれたちに挨拶をすると、陶芸について例を挙げながら色々と説明してくれたーーポケットに両手を突っ込みながら。
まぁ、人をもてなすのに両手をポケットに突っ込むって態度悪すぎだろうとも思われるだろうけど、いたいけな中学生ーー約一名を除くーーにとっては、そんなことは特に気にもならなかったようで、何事もなかったかのように話を聴いていたのだ。
が、異変は説明を聴き終えて陶芸体験にテーブルに着いた時に起こった。というのもーー
おれ以外のヤツらがクスクス笑っていたのだ。
クスクス笑いとは本当に品がない。やはり、本当に品があって上流階級に身を置いているのは五条氏しかーーえ、それだけはない? わかってたよ……。
それはさておき、おれ以外の四人が何故かクスクスと笑っているでない。やっぱ中学生とはいえゲスはゲスかなって感じではあるのだけど、純粋な五条氏はワケもわからず、隣に座っていた佐藤くんにワケを尋ねたのだけどーー
「アレ、アレ……!」
といってどこかを指差すばかり。それに対してシーサーは、
「止めなよ……、失礼だよ……!」
と笑いを堪えながらいうじゃない。お前が一番失礼だよって話なんだけど、他の人も一様に笑いを堪えている所を見るとやはり何かがあるらしい。おれは佐藤くんが指差すほうを見た。そしたらーー
美原さんのズボンのチャックが全開だった。
これにはおれの中の悪魔も覚醒し、おれの琴線に背徳的な囁きを施したのだけど、まぁ、
おれも笑いを堪えるしかなかったよな。
やはり、古今東西の老若男女、どこの誰だって全開になっているズボンのチャックの前では平伏すしかない。というか、笑うしかない。
確かに人を笑うのは良くない。とはいえ、悪魔的な現実を前にして笑うなというのは無理な話だった。やはり、股間の前に人は無力。
気づいてしまったが最後、おれも笑いを堪えるしかなかった。おれもゲスな野郎の仲間入り。それも仕方がなかった。
ただ、おれはーーおれたちは、チャックを全開にしたブルドッグという非情な現実を目の前にしているだけだった。
それに何が最悪だったってーー
ポケットに突っ込んだ両手のせいで、社会の窓が開いたり閉じたりしていることだった。
もう、拷問もいいところだった。もしや美原さんは策士で、ポケットに両手を突っ込んでいたのもこれが狙いーーなワケがないよな。
そんなこともあって、いつしか陶芸がどうこうより美原さんの股間に、どう対処しようかという話がバカな中学生五人組の間でなされるようになっていた。そんな中、誰かがこの悪夢を終わらせなければならない。つまり、
誰が美原さんにチャックが開いていると告げるかという取り決めがなされたのだ。
もう失礼を通り越して打ち首になっても文句はいえないんだけど、結局、
おれが指摘することになってしまったのだ。
もうね、ふざけんなって話ですよ。というのも、シーサーが、
「女子が男の人のチャックを指摘出来ないでしょ?ーーだから、佐藤くんか五条くんお願いね!」
とのことだった。考えてみれば、このシーサーはおれに女装させたり、人のチャックが開いているのを指摘させたり、人に非ずと書いて人非人もいいところだよな。魔除けにするぞ。
まぁ、後は佐藤くんなんだけど、彼は元々サッカーのユースに所属していたこともあって、女子にはモテモテで、女子からの「佐藤くんにやらせたら可哀想じゃん」という謎の組織票によって、結局おれがチャックが開いていることを指摘することとなってしまったのだ。
おれは可哀想じゃないのか?
まぁ、そんなことを手も動かさずに話し合っていたんですが、五人の手が止まっていることを美原さんは見逃さなかったワケで。
それどころか、五人揃って五人囃子ーー違った、五人揃って笑いを堪えている様を、あろうことか体調が悪いと見て取ったらしく、
「どうしたんだい?」
と心配そうに訊いて下さったのだ。そこでシーサーがワシの腕を肘で小突きやがりまして。もうね、覚悟を極めましたよ。
「あの……、その……」おれは美原さんの股間を指差した。「チャック、開いてますよ!」
いったーーいってしまった。もう、打ち首でも構わない。霊になったら他の四人を呪ってやろう。そう思ったよな。まぁ、案の定、
室内は笑いに包まれたよな。
もうね、他の陶芸に向き合って水を打ったように静かだった御老体も我を忘れたように笑い狂いまして、件の美原さんも、
恥ずかしそうにチャックを閉じてました。
この後、何とか陶芸体験を終え、職場体験プログラムも終了したのですが、もはやチャックのことしか覚えてないといっても過言じゃないよな。不注意も人を笑うのも止めましょう。
さて、この話はここで終わり。だけど、
地獄はまだ終わらない。
詳しくは後日ーー
アスタラビスタ。
確かに注意のし過ぎで気を病んだり、他人を信用できなくなるのは問題があるけども、大事なのは他人のことではなく自分の仕事や勉強のことだと思うのだ。
というのも、仕事や勉強における不注意というのは非常に厄介で、ちょっとしたミスがとんでもない命取りになるのはいうまでもない。
かくいうおれは、その不注意というヤツをやらかしがちだ。過去に話した入試の数学の話だって完全におれの不注意が招いたことだし、そもそも、おれという人間は注意力が散漫な傾向にあるらしい。
だからこそ何事においても失敗が多く、そこから反省して襟元を正さなければならなくなるのがいつものことだ。いってしまえば、これは「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」の愚者の話といっていいだろう。
そう、おれは紛れもない愚者だ。
だからこそ変なミスのないように、少しは気を張らなければならないのだけど、それは何もおれだけに限った話ではない。
人間、生きていれば色んな人に出会う。その中でも不注意な人というのは必ずいるモノで、そういう人を見る度に自分も気をつけなければならないと改めて思うのだ。
さて、今日はそんな不注意に纏わる話。まぁ、話としては、人の不注意ってのはポピュラーなネタのひとつだよな。
あれは中学一年の時のことだった。
その頃は学校での授業はなく、総合学習というゆとり教育の果てに生まれた、何を以て「総合」なのかまったくわからない授業の一環として催されていた「職場体験プログラム」の真っ最中だった。
まぁ、確かに中学生の時点で職場体験をするというのはとてもいい試みだとは思うのだけど、おれみたいなボンクラなガキが職場体験をしたところでーーいや、何でもない。
それはさておき、である。
おれが職場体験に選んだのは、五村のとある小さな公民館だった。
まぁ、公務とはまったくといっていいほど無縁に思える五条氏が公民館勤めって、もはやテロリズムだよなって感じはするのだけど、やったことといえば、本当に大したことはなく、館内の掃除だったり、書類手続きの仕事に関する簡単な説明だったり、あとは公民館で行われるサークル活動の体験だったりと、もはや仕事の体験なのかわからないようなことだった。
その時の職場体験のメンツは五人。ひとりは、おれ。残りの四人の内、ひとりが男子で三人が女子だった。
もうひとりの男子は名前を「佐藤」といい、元はサッカーのユースに所属していたのだが、サッカーに飽きて、おれと同じ卓球部に入った背の低い坊っちゃんみたいなヤツだった。
残り三人の女子だけど、ひとりは後に体育祭の応援団にて副団長を務めることとなるシーサーだった。久しぶりの登場だけど、説明が面倒なんで、詳しくは体育祭篇を読んでおくれ。
残りのふたりは、お嬢様の花村さんに、女子卓球部で腐女子の大川さんだ。
花村さんは、女子に嫌われまくりの五条氏にとって数少ない仲のいい女子のひとりだった。仲良くなった切っ掛けは、多分、この職場体験だと思うのだけど、彼女がキャナや勝明と仲が良かったのも理由のひとつだと思われ。
大川さんは先に説明した通り。とはいえ、小学生の時は仲がいいほうだったり。別に仲が悪くなったワケではないんだけど、当時は男子卓球部と女子卓球部は、練習場所だったりで部活単位であまり仲が良くなかったんよ。
そんなメンツと過ごす職場体験も決して退屈ではなく、むしろ楽しいモンだった。正直、机にかじりついて授業を受けるよりも遣り甲斐を感じたくらいだった。
そして気づけば職場体験も最終日前日。その日は、昼間は役所の書類を取りに来た人に、どう対応するかを教わり、昼食を取り終えると、午後は陶芸サークルの体験をすることに。
二階の多目的室に入るとそこにはたくさんの御老体がいた。
そこで眼鏡を掛けたブルドッグのような容姿のおじいさんがおれら五人を出迎えてくれた。
そのブルドッグのようなおじいさんは「美原さん」といい、この陶芸サークルの代表を務めているとのことだった。
美原さんはおれたちに挨拶をすると、陶芸について例を挙げながら色々と説明してくれたーーポケットに両手を突っ込みながら。
まぁ、人をもてなすのに両手をポケットに突っ込むって態度悪すぎだろうとも思われるだろうけど、いたいけな中学生ーー約一名を除くーーにとっては、そんなことは特に気にもならなかったようで、何事もなかったかのように話を聴いていたのだ。
が、異変は説明を聴き終えて陶芸体験にテーブルに着いた時に起こった。というのもーー
おれ以外のヤツらがクスクス笑っていたのだ。
クスクス笑いとは本当に品がない。やはり、本当に品があって上流階級に身を置いているのは五条氏しかーーえ、それだけはない? わかってたよ……。
それはさておき、おれ以外の四人が何故かクスクスと笑っているでない。やっぱ中学生とはいえゲスはゲスかなって感じではあるのだけど、純粋な五条氏はワケもわからず、隣に座っていた佐藤くんにワケを尋ねたのだけどーー
「アレ、アレ……!」
といってどこかを指差すばかり。それに対してシーサーは、
「止めなよ……、失礼だよ……!」
と笑いを堪えながらいうじゃない。お前が一番失礼だよって話なんだけど、他の人も一様に笑いを堪えている所を見るとやはり何かがあるらしい。おれは佐藤くんが指差すほうを見た。そしたらーー
美原さんのズボンのチャックが全開だった。
これにはおれの中の悪魔も覚醒し、おれの琴線に背徳的な囁きを施したのだけど、まぁ、
おれも笑いを堪えるしかなかったよな。
やはり、古今東西の老若男女、どこの誰だって全開になっているズボンのチャックの前では平伏すしかない。というか、笑うしかない。
確かに人を笑うのは良くない。とはいえ、悪魔的な現実を前にして笑うなというのは無理な話だった。やはり、股間の前に人は無力。
気づいてしまったが最後、おれも笑いを堪えるしかなかった。おれもゲスな野郎の仲間入り。それも仕方がなかった。
ただ、おれはーーおれたちは、チャックを全開にしたブルドッグという非情な現実を目の前にしているだけだった。
それに何が最悪だったってーー
ポケットに突っ込んだ両手のせいで、社会の窓が開いたり閉じたりしていることだった。
もう、拷問もいいところだった。もしや美原さんは策士で、ポケットに両手を突っ込んでいたのもこれが狙いーーなワケがないよな。
そんなこともあって、いつしか陶芸がどうこうより美原さんの股間に、どう対処しようかという話がバカな中学生五人組の間でなされるようになっていた。そんな中、誰かがこの悪夢を終わらせなければならない。つまり、
誰が美原さんにチャックが開いていると告げるかという取り決めがなされたのだ。
もう失礼を通り越して打ち首になっても文句はいえないんだけど、結局、
おれが指摘することになってしまったのだ。
もうね、ふざけんなって話ですよ。というのも、シーサーが、
「女子が男の人のチャックを指摘出来ないでしょ?ーーだから、佐藤くんか五条くんお願いね!」
とのことだった。考えてみれば、このシーサーはおれに女装させたり、人のチャックが開いているのを指摘させたり、人に非ずと書いて人非人もいいところだよな。魔除けにするぞ。
まぁ、後は佐藤くんなんだけど、彼は元々サッカーのユースに所属していたこともあって、女子にはモテモテで、女子からの「佐藤くんにやらせたら可哀想じゃん」という謎の組織票によって、結局おれがチャックが開いていることを指摘することとなってしまったのだ。
おれは可哀想じゃないのか?
まぁ、そんなことを手も動かさずに話し合っていたんですが、五人の手が止まっていることを美原さんは見逃さなかったワケで。
それどころか、五人揃って五人囃子ーー違った、五人揃って笑いを堪えている様を、あろうことか体調が悪いと見て取ったらしく、
「どうしたんだい?」
と心配そうに訊いて下さったのだ。そこでシーサーがワシの腕を肘で小突きやがりまして。もうね、覚悟を極めましたよ。
「あの……、その……」おれは美原さんの股間を指差した。「チャック、開いてますよ!」
いったーーいってしまった。もう、打ち首でも構わない。霊になったら他の四人を呪ってやろう。そう思ったよな。まぁ、案の定、
室内は笑いに包まれたよな。
もうね、他の陶芸に向き合って水を打ったように静かだった御老体も我を忘れたように笑い狂いまして、件の美原さんも、
恥ずかしそうにチャックを閉じてました。
この後、何とか陶芸体験を終え、職場体験プログラムも終了したのですが、もはやチャックのことしか覚えてないといっても過言じゃないよな。不注意も人を笑うのも止めましょう。
さて、この話はここで終わり。だけど、
地獄はまだ終わらない。
詳しくは後日ーー
アスタラビスタ。