【リーダーのヒューマニズム】

文字数 2,989文字

 頼りにできる人というのはいるだろうか。

 人間、生きていればそんな人がひとりやふたりはいるものだと思う。それは仕事にしろ、勉強にしろ、どんなコミュニティにもそういう有能というか、リーダー気質というか、頼りになる人というのが存在する。

 かくいうおれにも、そういう人がいる。まぁ、おれ自身が無能なこともあって、必然的に色んな人に頼らなければ生きていけないのはいうまでもないし、確かにリーダーとして立ち振舞わなければならなかったシチュエーションがあったとはいえ、所詮ははぐれモンのチンピラでしかなく、チームをまとめ上げようとも、人はいうことを聞きはしない。

 まぁ、それがおれの人徳といえば、それまでなのだけど、おれなんかと違って、ちゃんと徳のある人というのが、この世には存在する。

 彼らは優しく、人望があり、チームを動かすマネジメント力を持っている。更には、他の人にはないような情熱と知性と行動力がある。

 だからこそ、そういった人は尊敬されるし、好かれるワケだ。

 だが、人はそんな彼らを崇拝する余り、彼らの苦悩を無視しがちだとおれは思っている。

 いくら有能でも所詮は人間だ。緊張もするし、悩みもする。彼らは何でもできる無敵の超人ではない。だからこそ、彼らを理解する人がひとりはいないと、コミュニティというのは崩壊の一途を辿ることとなるのだ。

 さて、『遠征芝居篇』の第十一回である。長引くねぇ。後少しなんだけどな。あらすじーー

「本番当日の朝、五条氏は残された時間を使ってシャワーで寝汗を流していた。そんな中で思い出すのは、これまでにあった印象的な出来事だった。プロモーション映像の撮影にシーンの追加等、少ない稽古の中で濃密な時間を過ごした記憶が頭を過った。が、時は刻一刻と迫っていた。浴室を出て準備を終えると、五条氏は宿泊していた部屋を出るのだった」

 こんな感じか。今日は本番一日目の午前中の話な。というワケで、やってくーー

 本番当日の朝、ホテルのロビーに着くと、そこには既によっしーと森ちゃんの姿があった。ゆうこはまだ来ていないらしく、電話をしても繋がらないとのことだった。

 取り敢えず、時間ギリギリまで待ってみようということになり、ロビーで三人、張り詰めた空気の中、ギコチナイ会話を交わしながら待った。やはり、みんな緊張しているのだろう。

 それから数分して、ゆうこが慌てて姿を現した。何でも準備に手間取ったとのこと。やっぱり、ドジっ子。それはさておきーー

 四人揃ったので、フロントに部屋の鍵を返却し、ホテルを出て、森ちゃんの車で本番の会場へと向かった。

 本番の会場に下見へと行ったのは四月の初旬。そこから考えると実に二ヶ月半が経ったことになる。即ち、ウタゲの皆さんとお会いするのも、それぶりということになる。

 何だかんだ二ヶ月半前の顔合わせではそれなりに話ができたとはいえ、どこか緊張しているのが手に取るようにわかった。

 別に恐れることなど何もない。いつも通りの適当なスタンスで、チンピラみたいに振る舞っていればいいだろう。そうは思っても、元来持ち合わせている小心さは隠せない。おれは助手席で流れゆく街並みを眺めていた。

 それから朝飯と昼飯を買うためにコンビニに寄り、適当な買い物を済ませると、改めて会場へと向かう。

 もしかしたら、会場に行ったらメシを食っている暇などないかもしれない、と朝飯は車の中で済ませることとなった。

 メシは何とか喉を通った。体調は問題なし。

 十数分後、会場となる喫茶店へと着いた。店内に入って、この二日間、スタッフを担当して下さる方々とウタゲのキャスト陣、そしてウタゲの代表である下留さんに挨拶をした。

 ウタゲのみなさんは相変わらず朗らかな笑顔でおれたちを迎えてくれ、どこかこころが救われた気がした。

 店内のセッティングは既に終わっていた。前日、おれたちが車でホテルに向かっている最中、既にウタゲのみなさんで仕込みをやって下さったとのことだった。何から何まで本当にありがたい話で、感謝してもしきれない。

 それから控え室となる喫茶店二階の物置へと向かい、スケジュールとして控えているゲネプロのために、おれたちは着替えることに。

 着替えを終えて一階に降りると、少々時間は早いがゲネプロを行うこととなった。

 この日の公演は午後一と夕方の二回。ならばゲネプロをさっさとやって、一回目の公演に備えたほうがいい。

 ゲネプロの順番は本番同様、ウタゲが先でデュオニソスが後。まぁ、何でそんな順番になったかというと、会場見学の後の交流会の際に、ウタゲの代表者とデュオニソスの代表者でじゃんけんして決めたのだ。

 その時は、デュオニソスの代表が負けて、結局は後攻ということになったのだ。その時の負けたデュオニソスの代表?ーー誰だか、知り、ません……、知りません……。

 まぁ、そんな感じで挨拶を済ませていざゲネプロスタート。

 ウタゲの演目は、落語の演目を芝居化したものだった。話が面白いのは勿論、個性的な芝居に着物という衣装が何ともステキだった。

 まぁ、実をいうと、この時、結構緊張してて、まったく落ち着かなかったんだけど、芝居に関してはちゃんと楽しめたんで、それはそれでよし。

 さて、後攻。デュオニソスの番である。

 本番ではないとはいえ、取り敢えずゲネプロで心身共に慣らしておく必要があるため、出来る限りのことはしなければならない。

 というかゲネプロって本意気でやるもんだから、それが当たり前なんだけどさ。

 とはいえ、ゲネプロで出来なかったことを反省して本番に備えることはよくあることで、兎に角、ちゃんとやりつつ気楽に楽しんでやろうとおれは自分に言い聞かせた。

 だが、ゲネプロとはいえ芝居前のあの切迫した空気はどうも好きになれない。やっぱおれは緊張というのが大嫌いだ。

 そして、いざゲネプロ。まぁ、やっぱ人前に立ってしまえば後はどうにでもなれだよな。緊張している余裕なんかないし、自分の芝居に集中しなければならない。

 結局、ゲネプロは穏やかに終了した。直す場所がないワケじゃないが、悪くもない。後は反省点をしっかり押さえて本番に向かうまでだ。おれのマインドは随分と楽になっていた。

 それから昼時になって、ウタゲ、デュオニソスのメンバーで入り交じって昼食を取りつつ、みんなで雑談したり、写真を撮り合ったりと楽しい時間を過ごしたーーはずだった。

 が、事件は本番一時間前に起きた。二階での準備を終えて、一階に降りた時のことである。突然ーー、

 森ちゃんが慌てて部屋を飛び出したのだ。

 何事、って感じだったんだけど、取り敢えずその場にいたウタゲの山田くんに、「何事よ?」ってフランクな感じで訊ねたのだ。が、山田くんの答えは、わからない。

 その後、森ちゃんが部屋に戻ってきた。ウタゲのメンバー、デュオニソスのメンバー共に森ちゃんに「大丈夫?」と心配のことばを掛けている。おれは森ちゃんに何があったのか訊ねた。そしたらーー

 緊張し過ぎて気持ち悪くなり、吐いてしまったということだった。

 そういうことだったのか、とおれは納得した。デュオニソスのメンバー、よっしーとゆうこはしっかりモノのリーダー、森ちゃんがそのような状況に陥ったことで不安を隠せないようだった。

 そんな時、五条氏はーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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