【帝王霊~睦拾漆~】
文字数 1,202文字
悲鳴がビル全体に轟いたという。
その悲鳴はまるで何かの魔力を持ったようにオフィス内の人間はもちろん、オフィス外の人間も野次馬的に引き付けたそうだ。オフィスの人間が、悲鳴が聴こえた社長室へと入ると後任の取締役が真っ赤な目を大きく見開いて倒れていたという。取締役は既に亡くなっていた。手はダランと足らしていた。
司法解剖をした所、死因はあり得ないことに溺死だったという。
溺死ーー巨大なプールや浴槽もない社長室での溺死。そんなことはあり得るはずがなかった。あってはいけなかった。そもそも室内に濡れた形跡はまったくなかった。それどころか、水分という水分も存在していなかった。まぁ、コップいっぱいはもちろん、ペットボトルや水筒に入った水を一気飲みしても水没死など難しいのはいうまでもないが。
その取締役が謎の溺死をした件を境にオフィス内では不穏な空気が漂い始めた。ある社員は何だかわからないが空気が重く澱んでいるといった。ある社員は全身に砂袋をくっつけて歩いているようだと証言した。それぞれの話の内容はまばらではあったが、共通していたのは、何だか空気が重たく感じられるということだった。
そして、不可解な現象はオフィスだけにとどまらなかった。
オフィスの外、即ちビル全体にも不可解な現象は起こり始めたのだった。例えば、一度にたくさんの電灯がチカチカと点滅したり、電灯を変えてもチカチカが止まらなかったり、水道の水が赤く濁っていたり、廊下で変な男の声が聴こえたり、果ては別の会社のオフィスで成松の姿が見えたりとメチャクチャな状態になっていたという。
そうなってしまっては正気を保っていられる者も殆どいなくなり、ヤーヌス・コーポレーションはもちろん、ビル内にオフィスを持った他の企業の人間もひとり、またひとりと消えて行くこととなった。
そして気づけばビル内は藻抜けの空、ヤーヌス・コーポレーションは成松と後任の取締役の不審な死の影響もあって株価は大幅に下落し、倒産することとなった。ビル内にあった他の企業に関してはわからなかった。他へとオフィスを移したという話もあれば、そのままヤーヌスと共に会社を畳んだというウワサも存在した。
そう、このビルは呪われた場所なのだ。
そして、このビルは廃墟と化し、ビルごと潰そうとすれば、工事の業者が工事前にトラブルで仕事に取り掛かれなくなったり、工事の日に合わせたようにして何かしらのトラブルが起きて工事が出来なくなったりしていた。
そして、その時、あたしと詩織は廃墟と化したそのビルの内部にいた。
やはりウワサに違わぬ空気、雰囲気の重さだった。今でも成松の亡霊らしい何かは出るのだろうか。そういった不安を抱きつつあたしと詩織は一階の廊下に出た。真っ昼間だというのに深夜並みの暗さで、先に何があるかなどわからなかった。
「あーッ!」
詩織が漆黒の闇を指差して声を上げた。
【続く】
その悲鳴はまるで何かの魔力を持ったようにオフィス内の人間はもちろん、オフィス外の人間も野次馬的に引き付けたそうだ。オフィスの人間が、悲鳴が聴こえた社長室へと入ると後任の取締役が真っ赤な目を大きく見開いて倒れていたという。取締役は既に亡くなっていた。手はダランと足らしていた。
司法解剖をした所、死因はあり得ないことに溺死だったという。
溺死ーー巨大なプールや浴槽もない社長室での溺死。そんなことはあり得るはずがなかった。あってはいけなかった。そもそも室内に濡れた形跡はまったくなかった。それどころか、水分という水分も存在していなかった。まぁ、コップいっぱいはもちろん、ペットボトルや水筒に入った水を一気飲みしても水没死など難しいのはいうまでもないが。
その取締役が謎の溺死をした件を境にオフィス内では不穏な空気が漂い始めた。ある社員は何だかわからないが空気が重く澱んでいるといった。ある社員は全身に砂袋をくっつけて歩いているようだと証言した。それぞれの話の内容はまばらではあったが、共通していたのは、何だか空気が重たく感じられるということだった。
そして、不可解な現象はオフィスだけにとどまらなかった。
オフィスの外、即ちビル全体にも不可解な現象は起こり始めたのだった。例えば、一度にたくさんの電灯がチカチカと点滅したり、電灯を変えてもチカチカが止まらなかったり、水道の水が赤く濁っていたり、廊下で変な男の声が聴こえたり、果ては別の会社のオフィスで成松の姿が見えたりとメチャクチャな状態になっていたという。
そうなってしまっては正気を保っていられる者も殆どいなくなり、ヤーヌス・コーポレーションはもちろん、ビル内にオフィスを持った他の企業の人間もひとり、またひとりと消えて行くこととなった。
そして気づけばビル内は藻抜けの空、ヤーヌス・コーポレーションは成松と後任の取締役の不審な死の影響もあって株価は大幅に下落し、倒産することとなった。ビル内にあった他の企業に関してはわからなかった。他へとオフィスを移したという話もあれば、そのままヤーヌスと共に会社を畳んだというウワサも存在した。
そう、このビルは呪われた場所なのだ。
そして、このビルは廃墟と化し、ビルごと潰そうとすれば、工事の業者が工事前にトラブルで仕事に取り掛かれなくなったり、工事の日に合わせたようにして何かしらのトラブルが起きて工事が出来なくなったりしていた。
そして、その時、あたしと詩織は廃墟と化したそのビルの内部にいた。
やはりウワサに違わぬ空気、雰囲気の重さだった。今でも成松の亡霊らしい何かは出るのだろうか。そういった不安を抱きつつあたしと詩織は一階の廊下に出た。真っ昼間だというのに深夜並みの暗さで、先に何があるかなどわからなかった。
「あーッ!」
詩織が漆黒の闇を指差して声を上げた。
【続く】