【冷たい墓石で鬼は泣く~伍拾死~】
文字数 1,091文字
誰からも疎まれる人物というのはいる。
まぁ、それはいってしまえば弟、馬乃助もそうだといえるが、ヤツの場合は強すぎる、何を考えているかわからない等、畏敬のようなモノがあり、かつ本人も他人を寄せ付けないような雰囲気を持っているのが何よりもそうだといえる理由になっていた。
だが、わたしが世話係を了承した時の周りの反応というのは、それとは大きく掛け離れていたように思えた。本当にやるのか、かわいそうに。そんな声が聞こえて来るようだった。そう、藤乃助様のご子息様は随分と疎まれていたのだ。それも、親である藤乃助様の目の前でそういう風にいってしまうくらいに。そして、藤乃助様がそれに対して何の文句もいわず、かつ仕方ないと思っているような反応を示していることも。そこから見るに、藤乃助様が従者たちから舐められているようではなかった。少なくとも、これまでの従者たちの様子、反応を見るに、それは有り得ないだろうと推測した。
わたしはどう反応していいか困った。
そうなると、まるでわたしはそのご子息様の世話係という役を生け贄代わりにさせられるような、そんな気分になった。誰もやりたがらないからこそ、何も知らないわたしのような存在に面倒ごとを押し付ける。まぁ、外様には当たり前の待遇ではあったが、とはいえあまり気持ちのいいモノではなかった。
とはいえ、今更断るのもどうかと思い、ひと月かふた月やってみて、ダメそうだったら辞めればいいとそう思った。
「ほ、本当にやってくれるのだな?」
念押しで藤乃助様はわたしに訊ねた。わたしは一見すると真剣に、やると答えた。だが、その裏ではそこまで真剣味はなかった。とはいえ、わたしがやると宣言して、藤乃助様はえらく喜び、若い女給のひとりを呼びつけると、
「息子を呼んで来てくれ」
といって。そのことばに女給までもが一瞬ではあるが、あからさまに表情を引きつらせていた。従者だけでなく女給までも、とわたしは逆にそこまで疎まれるご子息様というのが気になって仕方がなかった。
藤乃助様は女給に、申しワケないが頼んだと女給のことを気遣っていった。女給も承知いたしましたとまったく承知していない様子で答え、部屋から下がった。
それから次に女給の声が聴こえるまでには随分と時間が掛かった。わたしは思わず、
「遅いですね」
といったが、従者たちは苦笑いをし、藤乃助様も話を合わすようにして愛想笑いを浮かべながら相槌を打った。
漸く、先ほどの女給の声が聴こえた。藤乃助様が入るようにいうと、戸が開いた。
と、そこには先ほど五番目に手合わせした少年が不機嫌そうに立ち尽くしていた。
【続く】
まぁ、それはいってしまえば弟、馬乃助もそうだといえるが、ヤツの場合は強すぎる、何を考えているかわからない等、畏敬のようなモノがあり、かつ本人も他人を寄せ付けないような雰囲気を持っているのが何よりもそうだといえる理由になっていた。
だが、わたしが世話係を了承した時の周りの反応というのは、それとは大きく掛け離れていたように思えた。本当にやるのか、かわいそうに。そんな声が聞こえて来るようだった。そう、藤乃助様のご子息様は随分と疎まれていたのだ。それも、親である藤乃助様の目の前でそういう風にいってしまうくらいに。そして、藤乃助様がそれに対して何の文句もいわず、かつ仕方ないと思っているような反応を示していることも。そこから見るに、藤乃助様が従者たちから舐められているようではなかった。少なくとも、これまでの従者たちの様子、反応を見るに、それは有り得ないだろうと推測した。
わたしはどう反応していいか困った。
そうなると、まるでわたしはそのご子息様の世話係という役を生け贄代わりにさせられるような、そんな気分になった。誰もやりたがらないからこそ、何も知らないわたしのような存在に面倒ごとを押し付ける。まぁ、外様には当たり前の待遇ではあったが、とはいえあまり気持ちのいいモノではなかった。
とはいえ、今更断るのもどうかと思い、ひと月かふた月やってみて、ダメそうだったら辞めればいいとそう思った。
「ほ、本当にやってくれるのだな?」
念押しで藤乃助様はわたしに訊ねた。わたしは一見すると真剣に、やると答えた。だが、その裏ではそこまで真剣味はなかった。とはいえ、わたしがやると宣言して、藤乃助様はえらく喜び、若い女給のひとりを呼びつけると、
「息子を呼んで来てくれ」
といって。そのことばに女給までもが一瞬ではあるが、あからさまに表情を引きつらせていた。従者だけでなく女給までも、とわたしは逆にそこまで疎まれるご子息様というのが気になって仕方がなかった。
藤乃助様は女給に、申しワケないが頼んだと女給のことを気遣っていった。女給も承知いたしましたとまったく承知していない様子で答え、部屋から下がった。
それから次に女給の声が聴こえるまでには随分と時間が掛かった。わたしは思わず、
「遅いですね」
といったが、従者たちは苦笑いをし、藤乃助様も話を合わすようにして愛想笑いを浮かべながら相槌を打った。
漸く、先ほどの女給の声が聴こえた。藤乃助様が入るようにいうと、戸が開いた。
と、そこには先ほど五番目に手合わせした少年が不機嫌そうに立ち尽くしていた。
【続く】