【帝王霊~百死~】
文字数 662文字
突然、すべてが崩れ落ちるような感覚になった。
それは何かに絶望したからじゃない。とてつもない安心感が、ぼくの身体を包み込んだからだった。山田さんーーぼくの兄弟子でもうひとりの師匠。他の人の姿はなかった。
「ひとり、ですか?」
「うん。でも、言ったよな」山田さんの声はいつもと違ってとても冷たかった。「帰れって」
「......いいました」
山田さんの非情な響きにぼくは思わずうつむいた。まさかこんな風にいわれるとは思ってもいなかった。別に褒められるとも思っていなかったけど、だとしてもこのキツイ感じでいわれるとは思わなかったのだ。
山田さんは大きくため息をついて、ぼくの肩を叩いた。
「いくら武術の心得があるとはいえ、それを使って無茶すんなよ。命はひとつしかねぇんだ。無駄にすんな」
口答えはしたくなかった。でも、この時ばかりはいくら相手が山田さんでも無理だった。
「ハルナが、心配で......」
山田さんはもう一度ため息をついた。
「まぁ、やっちゃったモンは仕方ない。でも、もうこんなトラブルには二度と顔を突っ込むんじゃない。人には人のやるべきことがある。警察には警察の、おれにはおれの、キミにはキミのやることが、ね。確かにキミは同級生としてハルナちゃんのことを助けたいと思ったのはわかる。でも、その助けるっていうのは、もうこの段階まで来たらキミの領分じゃない」山田さんは暗闇のほうを見た。「いるかわからないけど、ハルナちゃんがいるか見てきてあげな」
ぼくはハッとした。それから首を縦に振って暗闇のほうへと駆けて行った。
【続く】
それは何かに絶望したからじゃない。とてつもない安心感が、ぼくの身体を包み込んだからだった。山田さんーーぼくの兄弟子でもうひとりの師匠。他の人の姿はなかった。
「ひとり、ですか?」
「うん。でも、言ったよな」山田さんの声はいつもと違ってとても冷たかった。「帰れって」
「......いいました」
山田さんの非情な響きにぼくは思わずうつむいた。まさかこんな風にいわれるとは思ってもいなかった。別に褒められるとも思っていなかったけど、だとしてもこのキツイ感じでいわれるとは思わなかったのだ。
山田さんは大きくため息をついて、ぼくの肩を叩いた。
「いくら武術の心得があるとはいえ、それを使って無茶すんなよ。命はひとつしかねぇんだ。無駄にすんな」
口答えはしたくなかった。でも、この時ばかりはいくら相手が山田さんでも無理だった。
「ハルナが、心配で......」
山田さんはもう一度ため息をついた。
「まぁ、やっちゃったモンは仕方ない。でも、もうこんなトラブルには二度と顔を突っ込むんじゃない。人には人のやるべきことがある。警察には警察の、おれにはおれの、キミにはキミのやることが、ね。確かにキミは同級生としてハルナちゃんのことを助けたいと思ったのはわかる。でも、その助けるっていうのは、もうこの段階まで来たらキミの領分じゃない」山田さんは暗闇のほうを見た。「いるかわからないけど、ハルナちゃんがいるか見てきてあげな」
ぼくはハッとした。それから首を縦に振って暗闇のほうへと駆けて行った。
【続く】