【墓場に置かれた果たし状】

文字数 3,935文字

 勝利とは九割の必然と一割の偶然によって決まるモノだと思う。

 まぁ、かくいうおれは勝利というモノからはかなり遠い存在であるので、そんなことをいう資格があるのかといわれるとかなり微妙なところだけど。

 とはいえ、子供の頃と比べると何となくではあるが、そういった勝負の法則のようなものがわかってきた気がするのだーーまぁ、思い上がりかもしれないけどな。

 少年時代のおれは、想像もつかないようなウルトラC、ミラクルが起こることで楽して勝利を得たいと何度となく考えてきた。だが、そんなことはまず起こりえないのだ。

 ストラテジー、勝負に大事なのは戦略であり、それを組み立てるセンスが必要なのだと今では思っている。同時にそれを実現させるための練習や稽古といった実践も大事なのは、いうまでもないだろう。

 かつてのおれはただ何も考えずガムシャラに何かを行うことが正義だと思っていた。だが、そんなのは霞のような幻想でしかない。

 オアシスまでたどり着くには砂漠の土を無闇やたらに踏み荒らすのではダメで、地形や陽の動き、風の流れをしっかりと読まなければならない。前者で成功する可能性は限りなく低く、ほぼ偶然の一割に依存しているにすぎないからだ。

 やはり、勝利を確実に手にするには、その場、その状況に合ったストラテジーを組んでいかなければならないのである。

 とまぁ、そんな大それたことをいってはいるけども、おれはそれが苦手だったりする。じゃなきゃ、文章何か書いてないよね。

 それはさておき、『居合篇』である。本当なら大会と昇段試験は一本にまとめてしまおうかと思っていたのだけど、多分無理だな。

 というワケで、今回は大会について、だ。まぁ、過去に何度か話してはいるけど、おれは初段の時に三位入賞、弐段の時に優勝しているワケだけど、今日話すのは、段外の頃に出場した大会についてだ。

 昨日の記事のあらすじは、一応今日のことにも関わるんでおさらいとして簡単にーー

『ほぼ同時期に入門した人がいた。名前は「臼田さん」。彼は合気道四段の実力者で、合気で培った体捌きと技術を応用した彼は、居合の実力をグングンと伸ばしていったのだった』

 まぁ、こんなもんでいいだろう。それ以降の話もおさらいしてもよかったのだけど、今回の話とはぶれるんで、いいかな、と。

 じゃ、始めてくーー

 あれは十月末のことだったと思う。おれは五村から遠く離れた地に来ていた。起床時間は朝の四時半。家を出たのはその十五分後だった。

 それから市駅にいき、電車に揺られて二時間半。目的地に着いた時には集合時刻の八時になりそうな状況だった。

 おまけに朝から台風気味で雨と風が酷く、気分も最悪だった。

 そんな中会場に着くと、同じ連盟の別の支部の人たちが既にたくさん集まっていた。おれは同じ川澄居合会のメンバーを探した。

 会場にて臼田さんと合流し、紋付を羽織った坂久保先生と会った。坂久保先生はおれと臼田さん、その他数人の段外のメンバーを他支部の先生に紹介した。おれはーー多分澄ました顔をしていたと思う。ふてぶてしい男。

 正直、大会にはそこまで興味はなかった。色々な先生方から臼田さんと共に大会で優勝できるレベルの実力がついたといわれていただけに嘗めて掛かっていたのも事実だった。

 個人戦の抽選会が始まる前に道着に着替え、段外のメンバーと取るに足らない話をする。多分、それしかやれることがなかったのだと思う。

 抽選会の時間となり、各段ごとに列を作って、オーダーを待つ。自分の番が来て、クジを引く。おれが引いたのは確か、アルファベットの「D」のクジだったと思う。

 それから居合会のメンバーと共に会場へと向かった。道中、自分の引いたクジのことを話していたのだけど、オーダーの組み方がわからないだけに、アルファベットを聞いただけでは大した参考にはならなかったーー参考には。

 会場について自分たちの待機場所へいくと、そのままホールで自主稽古を開始した。しかし、こういう時は、他の支部の人たちがやたらと上手く見えてしまう。実力を知らないだけに、自分の想像が悪い方向に向いていた。

 開会式が始まった。各種挨拶が終わり、高段者演舞が始まる。やはり、贔屓目に見なくとも、坂久保先生の実力は段違いだった。

 正確な上に速く、武術的。おそらく、坂久保先生よりも上の技量を持っているのではと思えたのは、坂久保先生の師匠である村野先生と、かつての兄弟子であった立本先生ぐらいだろうか。それはさておきーー

 開会式が終わると、エリアごとに分かれて段ごとに個人戦が開始される。おれを含んだ段外のメンバーは、みな段外の試合会場へと向かった。

 会場には対戦オーダーがトーナメント表となっていた。おれは絶句したーー

 初戦の相手が臼田さんだったのだ。

 これには苦笑いするしかなかった。よりによって初戦が臼田さんとは。

 確かに他支部の人間と勝負などしたくはない。だが、実力のわかっている同支部の人間と初戦で当たるのはもっとイヤだった。

 おれと臼田さんは苦笑いしつつも、お互いに事実上の決勝みたいな感じでやりましょうか、と気楽にいこうといったのだった。

 でも、実際はそれどころではなかった。やはり、相手が臼田さんとなると、いいようのない緊張感がおれのマインドを蝕んだのだ。

 挨拶が終わり、試合が始まった。

 居合の試合は連盟や大会ごとに形式が異なるが、基本的に業の説得力を競う。今回は刀法と呼ばれる技法の業を二本と、古流と呼ばれる英信流特有の業を一本の三本を選手ふたりが並んで行い、その実力を競い合う。

 ちなみに、某連盟ではストップウォッチを持って、その演舞時間がどうとかやるらしいが、うちはそんな感じではない。

 初戦は、川澄居合会のメンバーと兵庫支部の人の対戦だった。おれ個人としてもまさか関西から人が来るとは思っておらず、意外だった。何よりも驚いたのは、その実力だった。

 段位が上の人間がやる業を初戦から平気な顔で繰り出したのだ。

 本来なら、段位が上の業を出すことは殆ど禁忌とされているのだけど、その兵庫の人は普通に上の業をやったのだ。結果は、兵庫支部の人の勝ちだった。

 それから試合は進み、おれと臼田さんの試合となった。

 心臓が強く鼓動を打ち過ぎて体がぶれるのがわかった。この時ばかりは本当に心臓がいらないと思った。あれ、マジ欠陥品だよ。

「始め!」

 審査員長の永田先生から声が掛かり、試合開始。これといった失敗もなく、自分の業をできたと個人的には思った。

 すべての業を終え、所定の位置へ戻る。だが、中々試合は終わらない。臼田さんも自分の業を終えているのは、横目で見てわかった。かと思いきや、永田先生が、

「刀から手を離して!」

 とおれにいったのだった。いや、知らんがなと思いつつ、おれは慌てて刀から手を離したのだ。これは刀の扱いに明るくない人なら余りピンと来ないかもしれないけど、左手が刀に掛かっている状態というのは臨戦態勢を意味する。つまり、おれは業を終えながらも、臨戦態勢のままでいたために注意されたワケだ。

 それはさておき、結果はーー

 おれの敗北だった。

 多分、おれに旗が上がる裁定はなかったと思うーー今思えばね。ただ、やはり、納得はできなかった。体感的にはそこまで悪くなかったと思っていたからだ。

 だが、逆に初戦落ちというのも悪い話ではなかった。というのも、初戦落ちのメンバーは敗者復活戦から三位入賞を狙えるからだ。

 おれは敗者復活戦にエントリーすることとなった。その間も本選は続いていたのだが、

 段外は臼田さんを除いて全滅だった。

 この駄文集では、同じ段位の人ではおれと臼田さんをクローズアップしているので、具体的には言及していないのだけど、他の段外の人も決して下手ではない。いや、むしろ段外の中では上手い部類に入ったはずだった。

 それが臼田さんを除いて全滅という結果が、おれはショックだった。

 その臼田さんも、準々決勝にて兵庫支部の人に負けて敗退してしまった。

 残ったのは、敗者復活戦にエントリーしたおれだけだった。

 こういっては語弊があるとはいえ、負ける人には負けるだけの理由がある。当然、おれも速くてパワーがある代わりに全体的に雑なのが負けるだけの理由だったのだと思う。

 ただ、速くてパワーがあるのは、大きな利点だった。そのお陰で何とかおれは敗者復活から三位決定戦にまで駒を進めることができた。

 そして、最終、三位決定戦。おれの相手は千葉のとある支部の人だったと思う。

「始め!」

 の号令が掛かり、試合が始まると、おれはそれまで通り、パワーと速さで押した。結果はーー

 おれの敗北だった。

 正直負ける気はしなかった。三決の相手の演舞をその前にチェックしていた感じでは負けることはないだろうと正直思っていた。

 臼田さんも、「正直、あの試合、五条さんの圧勝としか思えない」と首をかしげていたのだけど、結果は敗退。他の段位の人もみな敗退が決まり、川澄居合会のメンバーは全滅した。

 そこから先のことは殆ど覚えていない。団体戦は川澄居合会はエントリーしていなかったし、段外の個人戦は兵庫が殆どかっさらっていったことぐらいしか覚えていない。

 あとついでに身体が冷えすぎて帰りの電車の中で頭痛と吐き気に襲われたこと、か。

 結局、初の大会は苦渋の果てに終了した。もう、大会に出ることはないだろうとこころに決め、おれは帰りの電車内で頭痛薬を飲んだ。

 と今日はここまで。何か、ここまで書いたら、初段と弐段の大会のことも書くべきな気がしてきた。その前に試験のこと書くけどな。ま、そんな感じで。

 アスタラビスタ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み