【一年三組の皇帝~弐拾参~】

文字数 1,051文字

 楽しい時間はいつだってあっという間に過ぎてしまう。

 家に帰って真っ暗な自分の部屋の電気を点けてそこには誰もいないとわかると余計にそう思えてならなくなる。そして、そこにあるのは宴の後のような寂寥感。

 ぼくはカバンを学習机の上に置くと、ジッパーを開けて中から今日買ったばかりの本を一冊取り出した。買った本はまったくのノーマーク。片山さんのオススメでなかったらきっと手に取ることはなかったかもしれない。

 ぼくらは互いのオススメの本を紹介しあった。ぼくが紹介したのはロス・マクドナルドの『動く標的』だった。どんな話かというと、拐われた石油王の娘の行方を探偵のリュウ・アーチャーが探るというモノだ。著書の多くが今では絶版となり、古本屋をはじめ駅前の古本市にでも行かなければマクドナルドの著作には出会えないこともあって、片山さんも初めて聴いたといっていた。

 片山さんは本当に本が好きなのだろう、ぼくが薦めた本を手にしてとてもワクワクしているようだった。ここ最近、妙な緊張感と荒んだ雰囲気の中にずっといたこともあって、彼女のあどけない笑顔を見て、何だかとてもホッとしてしまった。

 それから彼女のオススメの恋愛小説を買い、店を出るととなりの喫茶店で軽くお茶した。最初こそ軽い本の話ではあったのだが、その内静寂が漂い始め、そして気づけば最近のクラスの話題になっていた。

「最近のクラスのこと、どう思う?」

 片山さんは神妙な様子で訊ねて来た。ぼくはうんと相槌を打ちながらキャラメル・マキアートに口をつけた。現実と違って中々に甘い。カップを置き、軽く息をついた。

「......逆に片山さんはどう思う?」

 この聞き返しが逃げの一手であることはわかりきっていた。だが、そんなことよりもクラスの様子を遠目から眺めている片山さんがどう思っているかを知りたかったのだ。片山さんは自分に訊ねられたことに驚きを隠せなかったようだったが、少しの間を置いてからゆっくりと口を開いた。

「何だろう......。遊びに夢中になるのは全然いいと思うんだ。でも、今やってることはーー」

「見ていて辛い?」

 そう訊ねると片山さんはこころを見透かされて驚いているような表情を浮かべながらもコクリと頷き、いった。

「何というか、みんな中学校に上がったばかりでさ、何処か緊張している雰囲気がある中であぁいうゲームをやって仲良くなるのはいいんだけどさ。何であんなにカーストというか、上だ下だってこだわるのかなぁ......」

 片山さんは本当に悲しげだった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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