【ナナフシギ~漆拾伍~】
文字数 526文字
カーテンから覗ける朝陽は明るさよりも陰気くさい感じがした。
早朝だというのに両親は帰ってきていない。というより、両親がこの部屋にいたのはもう随分と前のことだった。理由は軌道に乗り始めた新興宗教の件で忙しいから、とのことだった。故に三兄弟の世話をみていたのは世話人の岩淵で、両親と違って岩淵はほぼ毎日この部屋へと上がっていた。
だが、今はもはや岩淵の姿はなかった。あの男も暇ではない。夏休みが始まって学校も行かなくなると、三兄弟の世話は信者の中でも幹部クラスの女性がローテーションですることになる。だが、まだその信者が来る時間でもない。
祐太朗はリビングのテーブルについて、木製の表面をじっと眺めながら椅子から垂れた足をブラブラさせていた。
「もう一度、霊道を潜ればいいんですよ」
岩淵はそういっていた。霊道自体はすぐさま消えるワケではない。だからまた潜れば、取り残された人たちを助けることが出来るーー生きていれば。
生きていれば。
そのことばばかりがリフレインしていたことだろう。祐太朗の呼吸は少し荒かった。緊張、恐怖、不安、あらゆるネガティブな感情が交錯しているようだった。みんな、生きていてくれーー表情がそう物語っていた。
電話が鳴った。
【続く】
早朝だというのに両親は帰ってきていない。というより、両親がこの部屋にいたのはもう随分と前のことだった。理由は軌道に乗り始めた新興宗教の件で忙しいから、とのことだった。故に三兄弟の世話をみていたのは世話人の岩淵で、両親と違って岩淵はほぼ毎日この部屋へと上がっていた。
だが、今はもはや岩淵の姿はなかった。あの男も暇ではない。夏休みが始まって学校も行かなくなると、三兄弟の世話は信者の中でも幹部クラスの女性がローテーションですることになる。だが、まだその信者が来る時間でもない。
祐太朗はリビングのテーブルについて、木製の表面をじっと眺めながら椅子から垂れた足をブラブラさせていた。
「もう一度、霊道を潜ればいいんですよ」
岩淵はそういっていた。霊道自体はすぐさま消えるワケではない。だからまた潜れば、取り残された人たちを助けることが出来るーー生きていれば。
生きていれば。
そのことばばかりがリフレインしていたことだろう。祐太朗の呼吸は少し荒かった。緊張、恐怖、不安、あらゆるネガティブな感情が交錯しているようだった。みんな、生きていてくれーー表情がそう物語っていた。
電話が鳴った。
【続く】