【帝王霊~漆拾死~】

文字数 1,108文字

 唐突に昔が懐かしくなることがある。

 自分がまだ幼かった頃、遥かに大きくてまるで塔のようだった父の姿はとても頼もしかった。川澄署の防犯課ーー当時は生活安全課、係というモノはなかったーーの課長だった。身長173センチと男性の平均よりも少し大きい程度ではあったが、学生時代、柔道をやっていた影響かガタイが良かったこともあって、実寸よりも大きく見られがちだったのは、子供ながらに良く覚えている。オマケに顔は整っていながらも強面の部類であったこともあって、初見の人間には随分と恐れられていたようだ。まぁ、実際、怖い時は怖いのだけど。

 あたしが警察官になりたいと思ったのは父の影響からだ。元々、ヤエと違ってあまり女の子っぽいファンシーなモノには興味がなく、どちらかといえば男の子的なモノが好きだったこともあって、強いということにとても憧れがあった。

 だが、父はあたしが傷付くことを恐れて武道や格闘技は一切習わせようとはしなかった。その代わり、簡単な筋肉トレーニングと比較的容易な柔道技は教えて貰え、あたしはその数少ない技術を暇な時間を使って鍛えていった。時にはその技術を男子とのケンカに使ってしまって問題にはなったけども。

 父との思い出が溢れんばかりに噴き出して来た。そんな風に物思いに耽っていたら、詩織があたしのことを呼んでいることに気づかなかった。ハッとした。

「な、何.......!?」

 思わず声が上ずりそうになった。だが、あたしのマヌケな様子には目もくれないように、詩織は神妙な様子でいった。

「何だか、イヤな感じがする」

「......どういうこと?」

 周りに悪霊、怨霊がたくさんいるというのなら、イヤな感じがするのも当たり前といえば当たり前だと思った。霊感のないあたしですら、何となく息苦しいというか、ちょっとした吐き気を催しているくらいだったから。況してや鋭い霊感の持ち主である詩織からしたら、その影響はかなりのモノに違いなかった。とはいえ、ここに来て急にそんなことをいい出すということはーー

「うん、何というか」詩織が顔を歪める様子を初めて見た。「すごく気持ち悪いんだ......」

「そういうことって、よくあるの?」

「ううん......」詩織は首を横に振った。「こんなにキツイのは初めて」

 となると、余程禍々しい霊気ーー霊障、というのだろうかーーなのだろう。いわれてみれば、気持ち悪さが少しずつ増しているような気がした。しかし、こういう場合、守護霊がいるといないのではまた違うのだろうか。

「アイちゃんッ!」

 詩織に名前を呼ばれたかと思いきや、突然、頭部にガツンとした衝撃が走った。

 目の前が真っ暗になった。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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