【治外法権の変質者】

文字数 3,018文字

 人間、焦るととんでもない行動に走りがちだ。

 それは普段なら絶対しないであろうバカみたいな行動だったり、限りなく致命的な行為だったりと種類は様々だ。

 中には、あまりにも空腹がヤバすぎて道端の草だったり、ティッシュだったりを食ってしまうなんてこともあるだろう。最悪の場合、犯罪をしでかしてしまうなんてこともなくはない。

 それくらいに人間という生き物は追い詰められたり、焦ったりしたら何をするかわからないということだ。

 そりゃどんな時でも冷静沈着、慌てず焦らずというのが理想ではあるが、逆にいえばそれはあくまで理想でしかない。

 焦燥感に脳を焼かれてしまえば、人は正常な判断など出来なくなる。

 中には本当に冷静沈着、決して慌てず焦らずということが出来る人もいるだろうが、大体、そういう人はそういった急場に慣れてしまうほどの急場に何度となく直面した経験があるか、マインドがバグってしまっているかだろう。

 かくいうおれはというと、焦るととんでもない行為をやらかしてしまいがちだ。え、普段からとんでもないことしかしていない?ーーグゥの音も出ませんねぇ。それはさておきーー

 やはり、おれも焦燥感というのは人並みーー下手したら人よりも過度に苦手だったりする。

 とはいえ、決して急場のような瞬間に直面していないワケではない。むしろ、しょっちゅう色んなことをやらかしているせいで、トラブル・イズ・マイ・ビジネスといった感じだ。

 だが、やはり焦り、焦燥感だけは何度経験しても慣れないし、好きにはなれない。あの足先から頭部に掛けてゆっくりと粟立っていくような不快感は何度経験してもイヤになる。思考力も落ちるし、ミステイク待ったなし。出来ることなら焦燥感なんてハードオフにでもジャンク品として売り飛ばしてしまいたいくらいだ。

 まぁ、この駄文集をしょっちゅう読んでいるようなゲテモノ趣味のみなさまならそれもおわかりだと思う。そう、おれは焦るといつもとんでもなく頭の悪い、稚拙な行動に出てしまいがちなのだーーそれはいつものことというのはいわないで、な。さて、今日はそんな話ーー

 あれは大学三年の時のことだった。その頃はちょうど夏真っ盛りで暑くて仕方なかった。

 まぁ、おれといえば、夏が擬人化したら拷問した果てに処刑すると公言しているくらいに暑さが嫌いなワケだけど、それと同時に汗を掻くことも本当に嫌いなワケだ。

 どれくらい汗を掻くのが嫌いかというと、今でも本気で何処かの研究者が、『発汗は人体に悪影響しか及ぼさない』という研究結果を学会で発表して、世界中がその研究に喚起、感化されて煽動され、アンチ汗のために発汗を止める薬を服用するようになり、ついでに発汗の元凶となる夏はクーラーをつけて発汗を防がなければならないという法律が施行されないかと本気で願っているくらいには夏と汗が嫌いなのだ。てか、マジで夏とかいう季節が来ることを法律で禁止して欲しいーーどう考えても無理だし、法律で禁止したところで意味はないけど。

 まぁ、そんなこともあって、当時大学生のおれは、暇があれば帰宅して風呂に入るという源静香みたいな生活を送っていたのだーーシャワーじゃなくて、風呂、な。そこが何よりもミソなのだよ、ワトソンくん。

 ということもあって、その日も大学から帰宅して下宿先の部屋でひとっ風呂浴びて、汚らわしいだけでなく、多分今後人体に有害であると学会が発表してくれるであろう汗とかいう有害物質を洗い流していたワケだ。

 そんな中である。おれはちょうど頭に泡立てたシャンプーを着けたまま、身体を泡立てたソープで洗っていたのだ。そしたら突然ーー

 インターホンが鳴ったのだ。

 これには困ったモンである。一体、おれ様の風呂を邪魔する汗と夏のような汚らわしい輩は誰なのだろう。サークルの同期と新聞勧誘だったらそのままシカト安定なのはいうまでもないだろう。だが、そんな中であるーー

「すみませーん! ◯◯配達のモノなのですが! いらっしゃいませんか?」

 こんな声が聴こえて来たのだ。ちなみに、何でそんな声が聴こえて来たかというと、その当時住んでいた部屋の風呂が玄関のすぐそばにあり、かつ、おれは風呂に入りながらノートパソコンでCDから落とした音楽を聴くために浴室の扉を開けっ放しにしていたからだったりする。もはや若気のいたりとかいうエクスキューズが通じないレベルでバカだよな。

 まぁ、宅配便ということもあって、どうしようかとも思ったのだが、正直ーー

 マズイと思ったよな。

 世の中には都合が悪いからといって居留守を使って不在にするカスタマーがいるけど、こういうヤツって後で営業所に帰ったドライバーにメチャクチャ文句いわれてるから本当に止めたほうがいいと思うのだ。

 だから、おれも荷物を不在にしてしまって再配して貰う時はマジで謝るモンな。

 ちなみにワシは色々あってそういう事情を知っているのだけど、そういう仕事をしてるワケではないので、居留守不在のウザさとかはよくわからないんだけどね。まぁ、居留守だけでなく連続不在もダメなんだけども。

 とはいえ、この当時のおれはそんなことはお構い無しといった感じではあったのだけど、この時、実はーー

 三回くらい不在にしていた代引きの荷物があったのだ。

 つまり、この時配達に来た荷物がその荷物というワケなのだけど、当たり前な話、不在が重なれば保管期限も切れてしまうワケで、そうなれば荷物も送り返されてしまう。それだけは絶対に避けたかった。だが、今は入浴中。とてもじゃないが、出れる状況じゃない。

 だが、時は刻一刻と過ぎていく。おれは完全に焦っていた。どうしよう。余り不在にしては荷物も送り返されてしまうし、シンプルに宅配ドライバーから苦情をいわれかねない。決断するなら今しかない。そこで、おれはーー

 全身泡まみれ、腰元をバスタオルで隠して玄関扉を開けたのだ。

 完全に変質者。パーフェクト・ストレンジャー。自室でストリーキングでもやりかねない勢いだが、この時のおれはそれどころでなく、兎に角さっさと荷物を受け取らなければということしか考えていなかった。

 まぁ、こんな変態的な格好で玄関扉を開けたものだから宅配ドライバーも呆然としていましたよ。幸い、相手が男性だったからよかったモノの、若い女性だったら泣かれて警察を呼ばれても可笑しくないよな。

 それからというモノ、宅配ドライバーの男性は泡だらけのおれを見ても何の感情も抱いていないように淡々と代引きのお金を受け取り、荷物を渡してくれましたとさ。あれがプロの仕事というヤツだろうーー多分。

 にしても、タオルの腰巻きに泡だらけの男が部屋から出て来たら普通に狂気を感じるよな。自分でもどうかしてたと思うもんな。多分、営業所で、

「今日配達にいった大学生の男がさ、タオルの腰巻き一丁に泡だらけで出て来たんだよぉ!」

 とかネタにされてたんだろうなとか考えると普通に顔から火が出るほど恥ずかしいよな。

 え、顔は泡だらけなんだから、火が出ても鎮火は容易だろうって?ーー顔から出た火は泡じゃ鎮火出来んのだよ。アレは隠せてもーーやかましいわ。いやぁ、何だかーー

 色々と恥ずかしくなって来たわ。

 再配達にはご注意をーーいや、全部夏と汗が悪い。マジで学会さん、夏と汗が如何に人体に有害かを証明する研究のほう、お願いします。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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