【冷たい墓石で鬼は泣く~捌拾~】
文字数 640文字
それはまるで春が来て雪が溶けたようだった。
風は依然として冷たかったが、オオカミたちの群れは握りメシを見て嬉しそうにしっぽを振り始め、わたしに対する敵意はまったくといっていいほどに消してしまった。
そうすると何だか唐突に彼らが可愛らしく見えて来た。オオカミとはいえ、腹を空かして握りメシに群がってしっぽを振る様は、ただの犬と何ら変わらないように見えた。こころなしか、彼らの表情も緩んだように見えた。それもそうだろう。ここまで冷たい風と空腹に耐えながら神経をすり減らして生きて来たのだろうから。
わたしは片膝を地面に付き、彼らのことを一匹一匹、撫でてやった。とても気持ち良さそうだった。目を細め、恍惚そうな表情を浮かべる様はもはや飼い犬のようだった。抵抗は一切してこなかった。多分、わたしに対しての敵意はもはやなくなっていたのだろう。
わたしは残りの握りメシも全部そこに広げてやった。彼らは嬉しそうに握りメシを食べていた。わたしの頬も緩んでいた。こんなに気楽に笑みを浮かべたのはいつぶりだったろうか。
「これを食べたらここから出ていくんだ」
わたしがそういうとオオカミの頭が澄んだ目でわたしを見てきた。わたしは頭のことを撫でてやり、いった。
「ここの連中はみな貴殿らを嫌っているみたいだから。いつ酷い目に遭うかわからないからな。山の奥でゆっくりと暮らすんだ」
それが頭に伝わったかはわからなかった。ただ、彼はひたすらにわたしのほうをまっすぐ見ながら、しっぽを振り続けていた。
【続く】
風は依然として冷たかったが、オオカミたちの群れは握りメシを見て嬉しそうにしっぽを振り始め、わたしに対する敵意はまったくといっていいほどに消してしまった。
そうすると何だか唐突に彼らが可愛らしく見えて来た。オオカミとはいえ、腹を空かして握りメシに群がってしっぽを振る様は、ただの犬と何ら変わらないように見えた。こころなしか、彼らの表情も緩んだように見えた。それもそうだろう。ここまで冷たい風と空腹に耐えながら神経をすり減らして生きて来たのだろうから。
わたしは片膝を地面に付き、彼らのことを一匹一匹、撫でてやった。とても気持ち良さそうだった。目を細め、恍惚そうな表情を浮かべる様はもはや飼い犬のようだった。抵抗は一切してこなかった。多分、わたしに対しての敵意はもはやなくなっていたのだろう。
わたしは残りの握りメシも全部そこに広げてやった。彼らは嬉しそうに握りメシを食べていた。わたしの頬も緩んでいた。こんなに気楽に笑みを浮かべたのはいつぶりだったろうか。
「これを食べたらここから出ていくんだ」
わたしがそういうとオオカミの頭が澄んだ目でわたしを見てきた。わたしは頭のことを撫でてやり、いった。
「ここの連中はみな貴殿らを嫌っているみたいだから。いつ酷い目に遭うかわからないからな。山の奥でゆっくりと暮らすんだ」
それが頭に伝わったかはわからなかった。ただ、彼はひたすらにわたしのほうをまっすぐ見ながら、しっぽを振り続けていた。
【続く】