【ナナフシギ~死拾弐~】
文字数 1,218文字
性別を超えることなど不可能な話だ。
確かに性転換という形で元の性別から変わることは出来る。だが、だからといってすべての性差を乗り越えることは難しい。男が女性になったところで、元の骨格や体格は男のままで、女が男になってもやはりナチュラルな男とはゴツゴツした感じが足りなくなる。当然、声の感じも不自然に高かったり低かったりとあらゆるところで元の性別が持っている特性が表面化してしまう。
だが、今祐太朗とエミリの前にいるのは紛れもない女子だった。少し前までは弓永の姿をしていたにも関わらず、元の弓永の身長と体格、声までもがまったく変わって、目の前に小柄な少女が現れたことに祐太朗もエミリも驚きを隠せなかった。
「女の子......?」エミリはひとりごとをいうようにポツリと呟いた。
「おれらに幻想を見せてただけだ」
「幻想?」
祐太朗は簡易的に説明した。早い話が、少女は弓永の姿に変化していたのではなく、祐太朗たちが幻想を見せられて少女が弓永であるように思い続けていただけだったのだ。
「そんなこと、あるの......?」とエミリ。
「霊障だ。峠道とかで原因不明の事故がたくさん起こるのも、そういった幻想を霊に見せられて混乱するからなんだよ」
「いつまで喋ってるの?」
少女は不満そうに顔を歪めていった。小学生程の年齢の少女とは思えないような業の深い強張った表情だった。
「うるせえな、クソ悪霊」
「乱暴な男子は大嫌いだよ。お前なんか地獄に落ちちゃえばいいんだよ!」
辺りの空気が突然に重苦しくなったようだった。それを証明するかの如く祐太朗とエミリは身体をすぼめ、ヒザを折りそうになった。霊障ーーとても重い霊障だった。間違いなく少女は祐太朗たちを殺しに来ていた。
「待ってッ!」
エミリが叫んだ。が、霊障が弱まることはなかった。少女はいったーー
「待つワケないでしょ? バカなの?」
「お願いだから......」エミリは尚もことばを紡ぎ続けた。「話を聴いて」
「聴くワケないでしょッ! 死ねぇ!」
少女が顔にシワを深く刻みいった。と、霊障は更に強まり、祐太朗とエミリの身体はより低い姿勢へと追いやられた。
「無駄だ......。やめろ......」
祐太朗も声を出すのが精一杯といった様子だった。強まる霊障がふたりから体力を奪っていった。だがーー
「やめてっていってんじゃんッ!」
エミリの叫び声がこだました。霊感の強い祐太朗ですら、少女の霊障に押し潰されそうになって声もまともに出せないような状況だったというのに、エミリは霊障の影響を思わせないように声を大にしてみせた。そして、それはあまりにも意外なことだったのか、少女もハッとし、一気に霊障は弱まった。
霊障が弱まったと同時に祐太朗は身体にのし掛かっていた重みをゆっくりと払うように手のひらを少女に向けた。
「待って、祐太朗くん」
エミリの呼び掛けに祐太朗はストップした。エミリの顔は何処か悲しそうだった。
【続く】
確かに性転換という形で元の性別から変わることは出来る。だが、だからといってすべての性差を乗り越えることは難しい。男が女性になったところで、元の骨格や体格は男のままで、女が男になってもやはりナチュラルな男とはゴツゴツした感じが足りなくなる。当然、声の感じも不自然に高かったり低かったりとあらゆるところで元の性別が持っている特性が表面化してしまう。
だが、今祐太朗とエミリの前にいるのは紛れもない女子だった。少し前までは弓永の姿をしていたにも関わらず、元の弓永の身長と体格、声までもがまったく変わって、目の前に小柄な少女が現れたことに祐太朗もエミリも驚きを隠せなかった。
「女の子......?」エミリはひとりごとをいうようにポツリと呟いた。
「おれらに幻想を見せてただけだ」
「幻想?」
祐太朗は簡易的に説明した。早い話が、少女は弓永の姿に変化していたのではなく、祐太朗たちが幻想を見せられて少女が弓永であるように思い続けていただけだったのだ。
「そんなこと、あるの......?」とエミリ。
「霊障だ。峠道とかで原因不明の事故がたくさん起こるのも、そういった幻想を霊に見せられて混乱するからなんだよ」
「いつまで喋ってるの?」
少女は不満そうに顔を歪めていった。小学生程の年齢の少女とは思えないような業の深い強張った表情だった。
「うるせえな、クソ悪霊」
「乱暴な男子は大嫌いだよ。お前なんか地獄に落ちちゃえばいいんだよ!」
辺りの空気が突然に重苦しくなったようだった。それを証明するかの如く祐太朗とエミリは身体をすぼめ、ヒザを折りそうになった。霊障ーーとても重い霊障だった。間違いなく少女は祐太朗たちを殺しに来ていた。
「待ってッ!」
エミリが叫んだ。が、霊障が弱まることはなかった。少女はいったーー
「待つワケないでしょ? バカなの?」
「お願いだから......」エミリは尚もことばを紡ぎ続けた。「話を聴いて」
「聴くワケないでしょッ! 死ねぇ!」
少女が顔にシワを深く刻みいった。と、霊障は更に強まり、祐太朗とエミリの身体はより低い姿勢へと追いやられた。
「無駄だ......。やめろ......」
祐太朗も声を出すのが精一杯といった様子だった。強まる霊障がふたりから体力を奪っていった。だがーー
「やめてっていってんじゃんッ!」
エミリの叫び声がこだました。霊感の強い祐太朗ですら、少女の霊障に押し潰されそうになって声もまともに出せないような状況だったというのに、エミリは霊障の影響を思わせないように声を大にしてみせた。そして、それはあまりにも意外なことだったのか、少女もハッとし、一気に霊障は弱まった。
霊障が弱まったと同時に祐太朗は身体にのし掛かっていた重みをゆっくりと払うように手のひらを少女に向けた。
「待って、祐太朗くん」
エミリの呼び掛けに祐太朗はストップした。エミリの顔は何処か悲しそうだった。
【続く】