【ナナフシギ~漆拾睦~】
文字数 664文字
静寂に電話の音はよく響いた。
まだ朝も早い時間。電話を掛けるにはちょっと非常識ともいえる時間帯だった。祐太朗はハッとした。その表情は、その電話が何処から掛かっているかを理解しているようだった。祐太朗の表情は固かった。
ゆっくりと立ち上がり電話のほうへと歩いていった。その足取りはとても重い。出来ることなら出たくないというのがよくわかる。電話の元へ着いても電話に手が伸びない。躊躇いが祐太朗の身体を蝕んでいるのは一目瞭然だった。祐太朗は大きく深呼吸した。
そして、受話器を取り上げた。
受話器を耳に持っていくスピードは少し遅かった。はい、と応答する祐太朗。
「起きてたのか」トーンの低い声だった。「詩織と和雅はまだ寝てるか」
祐太朗は舌打ちをし、大きく溜め息をついた。表情は緊張から苛立ちに変わっていた。
「何の用だよ」
「何を怒ってる」
無機質な返答は怒りを顕にする祐太朗のモノとは対照的だった。電話の相手は祐太朗の父親だった。ここ最近、新興宗教の運営の関係で全然家に帰れていないことから、三兄弟の両親は朝になるとローテーションで電話を掛けて子供たちの様子を確かめるのが常になっていた。詩織にとってはそれは嬉しいことだったが、祐太朗にとってそれは怒りと憎悪しか生まなかった。
「人を騙すことに人生掛けてるバカが早朝から電話なんか掛けて来たらイラッとするのも当たり前だろ」
売りことばに買いことば。祐太朗は貧乏ゆすりしていた。だが、電話相手の父親は氷のように冷たいトーンで話を続けた。
「そうか。それより、昨日夜更かししたか?」
【続く】
まだ朝も早い時間。電話を掛けるにはちょっと非常識ともいえる時間帯だった。祐太朗はハッとした。その表情は、その電話が何処から掛かっているかを理解しているようだった。祐太朗の表情は固かった。
ゆっくりと立ち上がり電話のほうへと歩いていった。その足取りはとても重い。出来ることなら出たくないというのがよくわかる。電話の元へ着いても電話に手が伸びない。躊躇いが祐太朗の身体を蝕んでいるのは一目瞭然だった。祐太朗は大きく深呼吸した。
そして、受話器を取り上げた。
受話器を耳に持っていくスピードは少し遅かった。はい、と応答する祐太朗。
「起きてたのか」トーンの低い声だった。「詩織と和雅はまだ寝てるか」
祐太朗は舌打ちをし、大きく溜め息をついた。表情は緊張から苛立ちに変わっていた。
「何の用だよ」
「何を怒ってる」
無機質な返答は怒りを顕にする祐太朗のモノとは対照的だった。電話の相手は祐太朗の父親だった。ここ最近、新興宗教の運営の関係で全然家に帰れていないことから、三兄弟の両親は朝になるとローテーションで電話を掛けて子供たちの様子を確かめるのが常になっていた。詩織にとってはそれは嬉しいことだったが、祐太朗にとってそれは怒りと憎悪しか生まなかった。
「人を騙すことに人生掛けてるバカが早朝から電話なんか掛けて来たらイラッとするのも当たり前だろ」
売りことばに買いことば。祐太朗は貧乏ゆすりしていた。だが、電話相手の父親は氷のように冷たいトーンで話を続けた。
「そうか。それより、昨日夜更かししたか?」
【続く】