【残光~伍~】

文字数 845文字

 気づけばあれから十年以上が経っていた。

 時間の進みというのはおぞましく早い。当然、外へ出ようとしたあの時から考えると色んなことがあったーーありすぎた。

 肉体的にも精神的にも苦痛に思えることはありすぎた。だが、結局はやりたいことを優先していて、そういったモノはどうでも良くなってしまった。

 パニックは芝居を始めて二年もすると消え失せていた。もちろん、この病気が生涯完治することはなく、またいつしかその魔の手を復活させることもなくはないのが、何よりも乗り物に乗って突然の吐き気や脂汗、視界が180度回転するような恐怖感に襲われることもなくなったのは何よりだった。後遺症かはわからないが、視覚、嗅覚の刺激に異常に弱くなったのは困ったモノだが、そのくらいならまだ何とかなる。それ以上に人前に出ても何の抵抗もなくなったのは大きかった。

 今日は芝居の本番。厳しい稽古を経てやっとこぎつけた。ろくでもないウイルスのせいで殆どストップしていた演劇界も、今ではウイルス以前と何ら変わらないような様子で公演を打てるようになっていた。

 そしてまた、ひとつの公演を打ち、たった今、終えたところだった。

 カーテンコールでまばゆい照明に包まれながら客席に向かってお辞儀をする。薄暗い客席。そして、その中には懐かしい顔がひとつある。シンジ。大学卒業後も何度か会ってはいたが、芝居の会場で会うのは初めてとなる。この度、ようやく仕事の都合がついて観劇に来れるようになったとのことだった。

 懐かしい顔を見てふと昔のことを思い出す。苦しかった日々も。

 だが、おれは今、人前で芝居をしている。あの時は考えられなかっただろうが、今では全然そんな感じには思えない。

 おれからひとついえることといえば、どんなに辛く苦しくても、時間と共に苦痛は和らぐし、前進しようとし続ければ、何だかんだどうにでもなるということだ。

 十年以上前は死にそうなほどに不調だったおれも、今、ここで生きている。

 そう、おれは今、ここで、生きているんだ。

 【幕】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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