【帝王霊~伍拾伍~】
文字数 1,068文字
死人に口なしということばがあるが、今のあたしにはそんなことばは何の価値もなかった。
成松が生きている。だが、その言動はまったくもって理解に苦しむモノとなっている。一体、何が目的だというのだろうか。とはいえ、自称成松のことばの信憑性は佐野が黙っていることでより高まった。
しかし、自分であって自分でない者がヤエを拐ったとは、どういうことだろう。まるで哲学めいたことばに、あたしは完全に混乱していた。
「ことば遊びに付き合ってる暇ないんだけど」
あたしはそういいつつも自分の脳が汗を掻いていることを実感していた。
昔読んだシャーロック・ホームズのエピソードでホームズがいっていた。すべての不可能をひとつずつ取り除き、最後に残ったひとつが仮にどんなに信じられないモノであってもそれが真実であるという。
有り得ない話。だが、今はそうとしか思えない。あたしは静かに口を開いた。
「アンタ、本当に成松なんだよね?」
自称成松は首を縦に振った。あたしは自分の考えに未だに自信が持てずにいたが、もはやこれしか考えられなかった。それに、仮にそれが正解であろうと間違いであろうと、あたしが無事に帰れる保障などまったくない。それならばーー
「なるほど、その太った男は人形みたいなモンってことか」
佐野が何かに気づいたようにあたしのほうを向いたのに気づいた。あたしは一瞬佐野に目をやるも、すぐに自称成松のほうへと視線を向けた。自称成松は不敵な笑みを浮かべていた。
「どういうことでしょう?」
勝ち誇ったような笑み。だが、あたしはそれに怯むことなくいった。
「アンタは成松であって成松でないということだよ」
自称成松がイラッとくる笑顔であたしに話の先を促した。あたしは可能な限りイラ立ちを抑えるようにしてことばを紡いだ。
「つまり、その男は成松蓮斗とは何の関係もない。だけど、今あたしに話し掛けているのは、その男ではなく成松蓮斗。すなわち、その男の中に成松蓮斗の意識が入っているってことだよ」
あたしは佐野の顔を盗み見た。佐野の反応はハッとしたご様子。ビンゴ。
「なかなかユニークなアイディアですね。でも、それは一体どういうことなんです?」
「うん。普通に考えたらあたしのいっていることはワケがわからないよね。でも、これしかないんだよ。つまり、成松蓮斗は死んで霊魂となって、その男に憑依したんだって」
佐野があたしの名前を呟く声が聴こえた。その声色はシンプルに驚きを示していた。自称成松が笑って見せた。不愉快な声。
「何故そう思われたので?」
さて、ここからが勝負だ。
【続く】
成松が生きている。だが、その言動はまったくもって理解に苦しむモノとなっている。一体、何が目的だというのだろうか。とはいえ、自称成松のことばの信憑性は佐野が黙っていることでより高まった。
しかし、自分であって自分でない者がヤエを拐ったとは、どういうことだろう。まるで哲学めいたことばに、あたしは完全に混乱していた。
「ことば遊びに付き合ってる暇ないんだけど」
あたしはそういいつつも自分の脳が汗を掻いていることを実感していた。
昔読んだシャーロック・ホームズのエピソードでホームズがいっていた。すべての不可能をひとつずつ取り除き、最後に残ったひとつが仮にどんなに信じられないモノであってもそれが真実であるという。
有り得ない話。だが、今はそうとしか思えない。あたしは静かに口を開いた。
「アンタ、本当に成松なんだよね?」
自称成松は首を縦に振った。あたしは自分の考えに未だに自信が持てずにいたが、もはやこれしか考えられなかった。それに、仮にそれが正解であろうと間違いであろうと、あたしが無事に帰れる保障などまったくない。それならばーー
「なるほど、その太った男は人形みたいなモンってことか」
佐野が何かに気づいたようにあたしのほうを向いたのに気づいた。あたしは一瞬佐野に目をやるも、すぐに自称成松のほうへと視線を向けた。自称成松は不敵な笑みを浮かべていた。
「どういうことでしょう?」
勝ち誇ったような笑み。だが、あたしはそれに怯むことなくいった。
「アンタは成松であって成松でないということだよ」
自称成松がイラッとくる笑顔であたしに話の先を促した。あたしは可能な限りイラ立ちを抑えるようにしてことばを紡いだ。
「つまり、その男は成松蓮斗とは何の関係もない。だけど、今あたしに話し掛けているのは、その男ではなく成松蓮斗。すなわち、その男の中に成松蓮斗の意識が入っているってことだよ」
あたしは佐野の顔を盗み見た。佐野の反応はハッとしたご様子。ビンゴ。
「なかなかユニークなアイディアですね。でも、それは一体どういうことなんです?」
「うん。普通に考えたらあたしのいっていることはワケがわからないよね。でも、これしかないんだよ。つまり、成松蓮斗は死んで霊魂となって、その男に憑依したんだって」
佐野があたしの名前を呟く声が聴こえた。その声色はシンプルに驚きを示していた。自称成松が笑って見せた。不愉快な声。
「何故そう思われたので?」
さて、ここからが勝負だ。
【続く】