【冷たい墓石で鬼は泣く~死拾~】

文字数 1,078文字

 バカーーそれはわたしにとって最大級の愚弄のことばだった。

 そこら辺の者にそういわれて激怒することはないだろう。大人気ないし、そういったことばには反応もしないだろう。

 だが、この男にいわれるのはまた別だった。

 馬乃助ーーその表情は非常に冷ややかだった。いつもは薄ら笑いをして人を小バカにしたような顔をしている男が、こういう時に限って表情を殺してこちらを眺めていた。わたしにはそれがむしろ、よりわたしを愚弄する行為に思えて仕方なかった。

 わたしはわたし自身が愚かだと十二分にわかっていた。こんな年になって目の前に現れた馬乃助に対し、自分の保身のためにヤツの道の前に立ち塞がる。何とも愚かだった。

 確かに馬乃助の行く末をまったく心配しなかったワケではない。だが、こころの奥底では、わたしはわたし自身がいちばんかわいかったのだ。それに気づいていたからこそ、わたしは馬乃助が憎くて仕方なかった。

 家柄や身分を捨てることが出来ない、しがらみだらけの自分の生きざまに対して、馬乃助はそんなモノは関係ないといわんばかりに堂々と家柄と身分を捨て、ヤクザの用心棒をやっていた。そして、そんな仕事にもこだわることなく、意図も簡単に投げ捨ててしまう。わたしの完敗だった。

 わたしはわたしの足や身体にまとわりつく様々な『泥』を捨て去ることが出来なかった。いつも重い思いをして道端を歩く亀のようにノッソリと進み続けている。その早さは遅すぎてならない。ふつうの人が三十里行っている頃には、わたしは三寸しか進んでいない。わたしはあらゆるモノに置いていかれていた。そして、気づけば後から来た者たちにも抜かされ追い抜かれていく。

 追い抜かれていく。

「ふざけるな......」

 わたしはポツリといった。馬乃助はまたわたしを小バカにするように手を耳に当てて聞き返す体勢を取った。

「何かいったか?」

「ふざけるな、といったんだ!」

 わたしがピシャリというと、その場の空気が一気に引き締まったようか気がした。その流れに任せてわたしは馬乃助に向かって刀の切っ先を向けた。馬乃助は興味のない玩具を見るようにわたしのほうを見た。切っ先はまったく見ていなかった。

「何だ?」興味もなさそうに馬乃助はいった。

「ここまで来たんだ、そろそろ終わりにするんだ......」

「はぁ?」馬乃助は大きくため息をついた。「オメェはバカか? 折角の命を無駄にするつもりか?」

「構わな......、構わないッ!」

 わたしはフラフラしながら片手に刀を持って馬乃助に敵対していた。

 馬乃助は幽霊のようにボンヤリと揺れていた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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