【藪医者放浪記~伍拾参~】
文字数 1,068文字
招かれざる客というのは、そこにいたところでいいことは殆どない。
何ならそこにいると都合が悪いことしかないのが普通だ。だが、それがまったく予想していない客人の場合は人に不快感を与えるよりも先に不安感や不信感がやって来る。
リューという男が突然現れたことで室内にいる者たちはみな困惑の色を隠せなかった。それも当たり前だ。所謂日本的な着物ではなく、筒状のはきものに羽織を着、羽織は何やらいくつかよ小さな鉄の塊によって前が完全に閉じられていた。髪型はマゲとはまた違う特徴的なモノ。前面から頭頂部に掛けてを剃り落とし、背面に残した髪の毛を編んでそのまま垂らしていた。清の国を知らなければーーいや、知っていたとしても一見して狼藉者にしか見えないのはいうまでもなかった。
何がお望みかーー天馬の質問に対してリューはニヤリと笑って見せ、そしていった。
「わたし、働きたい」
たったひとことでありながら、そのひとことがその場にいる全員を混乱させるには充分だったのはいうまでもなかった。
「働きたい......?」天馬はそう呟いた後に猿田に訊ねた。「それでここに連れて来たのか......?」
猿田は完全に困惑していた。明らかに彼の判断で連れてきたという感じではなかった。
「いやぁ......、それがその......。わたしはダメだと。そもそも、そういう仕事というのは間に合っているからと何度もいったんですが」
「そうか......」再びリューに向かって。「あの......、リュー様、でしたか。仕事を探していらっしゃるようですが、生憎今ここでは仕事も間に合っておりまして」
「でも、わたし、美味しいモノ作る!」
「美味しい、モノ......?」
この疑問に答えたのは猿田源之助だった。猿田がいうには、リューはかつて清の国では料理人として働いていたらしく、日本に来てもやはり料理をする職につきたいと思っていたとのことだった。
「なるほど、料理、ですか......」納得して見せる天馬。「しかし、それなら店を構えてやるのが一番なのではないですか? それに店といっても屋台という形もありますし」
「それはもちろん! でもね、それならちゃんとしたお墨付きは必要なのだ。それに、そんなお墨付きを取るくらいなら位の高い人に美味しいっていってもらうのが一番よ」
つまり何がいいたいのかといえば、話がブレていてわかりづらいが、結局のところ、位の高い人に雇われればそれでいいということらしかった。これには天馬も困ってしまった。
「あぁ、もうウルサイな!」
藤十郎が声を上げた。
【続く】
何ならそこにいると都合が悪いことしかないのが普通だ。だが、それがまったく予想していない客人の場合は人に不快感を与えるよりも先に不安感や不信感がやって来る。
リューという男が突然現れたことで室内にいる者たちはみな困惑の色を隠せなかった。それも当たり前だ。所謂日本的な着物ではなく、筒状のはきものに羽織を着、羽織は何やらいくつかよ小さな鉄の塊によって前が完全に閉じられていた。髪型はマゲとはまた違う特徴的なモノ。前面から頭頂部に掛けてを剃り落とし、背面に残した髪の毛を編んでそのまま垂らしていた。清の国を知らなければーーいや、知っていたとしても一見して狼藉者にしか見えないのはいうまでもなかった。
何がお望みかーー天馬の質問に対してリューはニヤリと笑って見せ、そしていった。
「わたし、働きたい」
たったひとことでありながら、そのひとことがその場にいる全員を混乱させるには充分だったのはいうまでもなかった。
「働きたい......?」天馬はそう呟いた後に猿田に訊ねた。「それでここに連れて来たのか......?」
猿田は完全に困惑していた。明らかに彼の判断で連れてきたという感じではなかった。
「いやぁ......、それがその......。わたしはダメだと。そもそも、そういう仕事というのは間に合っているからと何度もいったんですが」
「そうか......」再びリューに向かって。「あの......、リュー様、でしたか。仕事を探していらっしゃるようですが、生憎今ここでは仕事も間に合っておりまして」
「でも、わたし、美味しいモノ作る!」
「美味しい、モノ......?」
この疑問に答えたのは猿田源之助だった。猿田がいうには、リューはかつて清の国では料理人として働いていたらしく、日本に来てもやはり料理をする職につきたいと思っていたとのことだった。
「なるほど、料理、ですか......」納得して見せる天馬。「しかし、それなら店を構えてやるのが一番なのではないですか? それに店といっても屋台という形もありますし」
「それはもちろん! でもね、それならちゃんとしたお墨付きは必要なのだ。それに、そんなお墨付きを取るくらいなら位の高い人に美味しいっていってもらうのが一番よ」
つまり何がいいたいのかといえば、話がブレていてわかりづらいが、結局のところ、位の高い人に雇われればそれでいいということらしかった。これには天馬も困ってしまった。
「あぁ、もうウルサイな!」
藤十郎が声を上げた。
【続く】